15~17日目
15日目
午前中は薔薇園でバイト。
うわの空で薔薇の手入れをしていたら、久々に庭師さんに一喝された。
最近は叱られる回数減ってきてたのな。うっかりだわ。
気を引き締めて、手を動かすことに集中した。
帰り際、うわの空だった理由を聞かれる。
正直に、土地を探しているけれどお金がないことを話した。
昨日、酒場の受付さんに相談した後も自分の足で売り家や貸家をまわってみたけれど、手がだせる値段じゃなかった。
庭師さんに話してもしかたないんだけどね。
はあ。お店を開くのも難しいなあ。
借金するしかないのかなあ。冒険酒場でもスターシードの借金が可能らしい。
午後は物件探しをしたけれど、やっぱりどこもダメ。
空からお金降ってこないかなあ。
16日目
薔薇園の手入れに行ったら、庭師さんに今日はお屋敷の方へ行くように言われた。
何かへまをしたのだろうかとびくびくしていると、執事さんに応接間に通された。お茶とお茶菓子を出されてるけど、食べる気もせずに、どの失敗のことだろうかとびくびくと過ごす。やがて紅茶が冷めきったころ、お嬢様とやらがやってくる。
私のために、森のなかで余ってる土地を、格安で貸してくれるそうだ。店ができるような小さい建物もある土地らしい。
え、マジで?
庭師さんが口利きしてくれたらしい。気難しい性格らしく、どうやって仲良くなったのか聞かれたけれど、普通に仕事教わってたとしか……うーん。
仲良しになれた感じもないから、どうしてもお嬢様に納得してもらえる返答はできずもごもごとなってしまった。
でも、土地と小屋を貸してくれるのはうれしい。あと、腰の具合はもうすでによくなっているらしい。
おおっ、じゃあもう私バイトの必要ないじゃん。
薔薇園に戻った後、庭師さんにお礼を言った。腰痛がなおったと知ったことを話すと、もう少しこき使ってやろうと思ったのに、と舌打ちされた。もう明日から来なくていらしい。
本当に私はこの人に好かれていたのか?
□音声ログ□
「ところであなたに一つ秘訣を教えていただきたいのです。あのじいをどうやって口説き落としたんですの? 偏屈で、若いものをつけてもすぐに辞めてしまいますのよ」
「いや、どーのと言われましても。ただの職場の上司と部下というだけだと思いますけど」
「ますます興味深いわ。バイトはもう終わりですけれど、よければ、またお茶をご一緒してくださいね」
「え、バイト終わりですか? 庭師さん、まだ腰痛なんじゃ」
「とっくによくなってますわよ。でも、じいが喜ぶからバイトじゃなくても遊びに来てほしいですわ」
17日目
兄が帰ってきていた。
ツンデレだった犬も兄にデレデレである。でも、良かった。
せっかく借りた土地を見に行きたいのに、この恐ろしい見張り役が森の中には入るのを許してくれなかったんだもん。
食べ物で釣ろうにも、まったくなびかないし。兄の用意した餌以外は、水以外まったく口にしなかったのだ。
店を開くために土地を借りたことを話すと、ちゃんとしたところかと疑われた。
働いている薔薇園の雇用主だと説明。
兄が挨拶に行くと言い出した。そんな簡単に会えるかな、と館を訪問したら、あっさり許可が下りて兄とともに挨拶することになった。
それから借りた土地を見に行く。
ちょっとし小屋って言ってたけど、どんな建物だろう。森のなかにあるんだし、ログハウスみたいな感じかなあ。森のなかのお店やさんってなんか夢があっていいよね。
わくわくしながら、渡された地図の場所に到着する。
あったのは廃屋だった。
外壁はツタがびっしりと生えており、今にも崩れてしまいそうだ。
イメージしてたのと違う。
□音声ログ□
「ぼろっ」
「格安なだけはある、な。ま、いいんじゃねえの。土地はわりと広めみたいだから、畑できそうだぞ。ところでなんの店やるんだ?」
「蜂蜜屋」
「はあ? お前正気か?」
「もちろん!」
「はあああ。蜂蜜屋? あの門番、蜂蜜好きとか?」
「そだよ」
「もう決定事項なんだろうが、一言言わせてもらうぞ? お前ばっかじゃねえの? 蜂蜜屋とか、ぜってー儲からねえから」
「いーじゃん。別に。儲けとか、私どうでもいいし」
「ばっか。お前。ったく、考えなしに突っ走ったんだろうが、もうちょっとあんだろうが……」