12~14日目
12日目
犬が邪魔をしてくるので、シードル様に会いに行けない。
森の方へ行こうとすると唸りだす。無視して森に踏み出そうものなら、尻を噛まれた。めちゃ怖い。
お手やお座り、といっても私の言うことは聞かない。食べ物で懐柔しようとしても無視。
そもそも一定のスペースに近づくだけで唸られる。
しかたない。こういう時はあれをやろう。
宿の部屋に戻ると、シードル様がいるだろう門の方角の窓をあけた。
朝露を含んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。
この空気をシードル様も吸ってるのかと思うと、空気が甘く感じらるのだから不思議だ。
すうううううううううううううううううううううううはあああああああ。
たくさん吸いすぎてむせた。
13日目
街で偶然、シードル様と遭遇した。なんでこんなに運がいいんだろう。
神様は私にご褒美を与えすぎな気がする。やばい、うれしすぎで涙と鼻水が出てきた。
さらに幸福なことに彼の同僚が私に声をかけてくれた。ちょうどこれからお茶をするので、一緒にどうですかと。
天使さまですか、と思わず真顔で尋ねてしまった。違うらしい。そうか、違うか。
仏頂面のシードル様と、その同僚さん、私の3人で、街で人気だと言うカフェに行く。
様づけだが、本人にやめろとすごまれたので呼び捨てすることになった。
シードル……きゃっ。
一人で悶えてたら、普段何をしているのかと同僚さんより質問された。
最近といえば、リスに撲殺されて死んでたなあ。
正直に答えたらひかれた。
死ぬって刺激強すぎたかな。
でも、ドリーマーに死はつきものだから。
気まずくなったところで注文のケーキが届く。
私はチョコレートケーキとミルクティ。同僚さんはチーズケーキとブラックコーヒー。
シードルはホットケーキにたっぷりと蜂蜜をかけている。え?甘いもの好きなの? そんな狂暴そうな顔してるのに? やだ、ときめいちゃうんだけど。
私は目を血走らせながら脳細胞にシードルの好みを刻み込んだ。
目の前に、カプチーノを飲み、ケーキを食べるシードルがいる。
それだけで私の涙腺は決壊しそうになるが、約束を思い出して、歯を食いしばって泣くのを我慢。
すごい形相になってたらしく、泣いていいと許可がでたので静かに号泣した。同僚さんはずっと爆笑している。
怒るシードル。泣く私。笑う同僚さん。賑やかなテーブルだと思う。店員さんごめんなさい。
同僚さんはおしゃべりな人で、シードルのことをあれこれと教えてくれた。とても良い人だ。シードルは甘いものが好きで、とくに蜂蜜が好きみたい。
偶然ですね、私、蜂蜜の専門店を開くんです。
たった今決めました。
14日目
蜂蜜店を開くのに何が必要だろう。
相談する相手はそんなにいない。ダメもとで冒険酒場の受付で相談してみる。
どこまで考えてるかと聞かれたので、ノープランだときっぱり白状する。
蜂蜜を自分で育てるか、業者から仕入れるか二択なのだそうだ。
かぎりなく安くすむように自分で育てることを選んだ。
そしたら次は土地だ。
このあたりの土地の相場を教えてもらったけれど、買えそうにない。そもそもテナントを借りれるほど金がない。
荷車をひいて売り歩く方法もあるといわれたけれど、蜂蜜を育てるならやっぱり一定の土地は必要とのこと。
どーしよっかなあ。
お兄ちゃん、スターシード※貸してくれるかなあ。
一生のお願いってあと何回有効だろうか。
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※スターシード。光る金平糖のような見た目のエネルギー物質。≪星の海≫に存在する生物、植物、惑星のすべてに流れている。通貨がわりであり、スキル習得などにも必要。
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