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9~11日目

9日目

 考えてみたら、憧れの君様の言葉は、なかなか実行が難しいことばかりであった。


 守れなかったらどーなるかわかってんだろうな、と至近距離ですごまれて、ビビるほど怖かったと同時に感動で打ち震えた。


 はー、イケボで凄まれて昇天しかけたわ。


 夢心地な回想をしていると、庭師さんの一喝ですぐ現実に引き戻された。ごめんなさい。仕事中に意識を飛ばしていました。がみがみ怒らないでえ。


 庭師さんにひいひい言わされながら、薔薇の手入れをする。


 仕事終わり、お前に宿題だと、園芸本を渡された。古くてボロボロの本だ。


 読んで来いと言われる。


 憂鬱だ。


 仕事が終わったら急に暇である。お兄ちゃんもまだ戻ってきてない。


 そうだ、憧れの君様に会いに行こう!


 街の入り口をうろついていたら、運よく門までいくという冒険者にくっついていくことに成功した。


 門をくぐる冒険者たちと別れ、邪魔にならない場所で、仏頂面で仕事をする彼を眺めた。


 凝視し始めて30分たったあたりで話しかけてくれた。歓喜。


 なぜ俺がそんなに好きなのかと聞かれた。


 驚きだ。


 ご自分の魅力をわかっていないだと……。


 どれだけ憧れの君様がカッコいいのか本人に力説した。力説しながら、自分自身の言葉に感動してまた涙と鼻水がでてきた。


 途中で遮られたが、2万分の1くらいしか伝えられてないので、本当に伝わったか怪しい。


 俺の見た目が好きなんだな、と言われ、きっぱりと「はい、そうですよ」と即答した。


 即答した瞬間、半眼になってにらまれた。うん、素敵だ。



□音声ログ□

「ほお、つまり、お前は俺の見た目だけが好きなんだな?」

「完璧な外見です。神々しさに目がつぶれそうです。こんな素敵な肉体に創造した神様に感謝しておりますです。ずびぃ」

「はぁ。よくわかった。もう帰っていいぞ」




10日目

 庭師さんに渡された本は半分も読めなかった。おまけによだれをつけてしまった。太陽光でかわかしたけど、ダイジョブかな?


 びくびくしながら職場に向かう。正直に読み切れなかったと告白すると、いくつか本の中身を質問されて答えるだけで怒られなかった。セーフ?


 仕事は午前中だけ。


 午後は暇だ。


 暇だと衝動的に憧れの君様の顔を見に行きたくなる。


 森は危険だとわかっているが、ささっと動けば大丈夫だろうと門へと向かう。


 憧れの君様がいた。


 私を半眼で睨むと、すぐに視線をそらされた。内心で、きゃああ、とちっこい私の集団が歓声をあげた。最高にクールでかっこよすぎる。


 二度と一瞥されなかったけれど、幸せであった。


 もうしばらくお姿をみたら、帰ろうと思って、名前もまだ聞いていないことに気づいた。


 左右を見渡し、今は人気がないことを確認。仕事の邪魔にならない今しかチャンスはない。決死の思いでにぎりより、名前を聞くことに成功。


 シードル様!!


 興奮しすぎて、息を吸うのを忘れかけた。あぶない死んじゃうとこだった。



□音声ログ□

「あ? なんだよ。仕事中は話しかけてくんな」

「申し訳ありません。お、おおっ、おな、おなあああっあああっ」

「あ?」

「おなまえをおおお、おしえていっ、いただけませんでしょうかっ」

「ちっ。すぐ土下座すんなって言ってんだろうが!」

「ずびばべんっ。ずびいっ」

「シードルだよ! これで満足かあ?」




11日目

 死んだ。


 スキップしながら街へと戻ってたら、現れた化物に撲殺された。


 死んだら、クレイドル※にあるお堂のなかで目が覚めた。


 あれ、こっからどうやって元の場所まで戻ればいいんだろ。わからない時はお兄ちゃんに質問だ。数分後に返信が来た。死んだことをかなり驚かれた。


 天球儀から、登録してあるスポットに移動できるらしい。そういえば、お兄ちゃんに言われるがまま、<荒渦王国>と<螺鈿庭園>の二か所で登録してたな。あれ、こういう意味があったんだ。


 天球儀に触れると、光で体が溶けて一瞬で<螺鈿庭園>に戻ってこれていた。


 よかった。


 あ、よくない!


 もう夕方じゃんか。急いで、薔薇園に向かう。


 庭師さんが腰をかばいながら、庭の手入れをしていた。


 私はすぐさまスライディング土下座をする。


 死んでて仕事に遅れたことを正直にわびる。びっくりしたみたいだけど怒ってはなかった。


 今日は帰って本の続きを読んでおくように言われる。


 はい、そのようにいたします。叱られなくて良かった。やっぱ土下座って最強だわ。


 宿に戻ると、兄が仏頂面で出迎えてくれた。


 シードル様のいる門まで連れてってくれる。道中、私を惨殺した化け物がまたいた。リスという名前だと判明。ここらじゃ弱小に部類する現住生物らしい。


 恐るべしリスのヒップドロップ。


 あらためて森の動物のおそろしさにおののきながら兄の陰に隠れるようにして門へと到着。


 彼の尊顔にうっとりとする。私に気づいた彼はげんなりした顔をしているが、どんな表情でもイケメンである。


 一時間ほど夢の時間を堪能したら、さっさと宿に戻る。眺める時間は一時間だけ。いくらでも見つめていたいが、ストーカーだと勘違いされないためだ。


 宿に帰ると、ひとりの時は森に入ってはいけないと兄と約束させられた。


 兄の愛犬を一匹つけられることになった。


 護衛がついたと喜んだら、お目付け役だとすげなく言われた。ぎゃふん。



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※クレイドル。揺り篭。ドリーマーの拠点。小島の中心に礼拝堂がある。ドリーマーは死亡するとクレイドルで目が覚める。スキル取得や、スフィア装填、転移などができる。

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