表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

6~8日目

6日目

 現在、森に隣接する街の宿に連泊している。金は兄が出している。


 昨夜、憧れの君様のご尊顔を前に大号泣した私は兄にひきずられて強制的に街へと帰還させられた。


 朝になり、今日はちゃんと自分で起きて一階の食堂に降りる。


 昨日と同じテーブルにいる兄と仲間たちがこちらをみる。


 仲間たちの私を見る目が昨日とちょっと違う。なんだろう。可哀そうな子を見る感じ? でも私、今超絶幸せなんですけど。


 しみじみとこの兄にしてこの妹あり、って感じで納得されている。げせないなあ。


 でも、確かに我に返ると前日の自分の行動はちょっぴり恥ずかしいものがあった。


 次に会う時は、もっと冷静になろう、とランチを食べている兄にもう一度会いに行きたいとお願いをする。


 すごいしぶられた。仲間たちの援護もあってなんとか連れてってもらうことに成功する。


 今日こそは失態を犯さないぞ。


 そう決意して門へ向かう。


 いた。


 今日は側まで近づかせてもらえず、距離がある。


 でも、こちらを見た。気づいてもらえた!!


 ぎらり、とした金色の双眸が私を映した瞬間、気づいたら両ひざに土をつけて両手をあわせて彼を拝んでいた。涙と鼻水は自動的に顔面から垂れ流しである。


 数分後、ぐえっと、首がしまる。私は襟首を兄に捕まれて強制的にその場から連れて行かれた。


 結論。


 推しを前にして冷静でいるのは無理!


 真理である。



□音声ログ□

「おべぁえあっ、い、ぎっ、でぇ、あぐあっぁあ、よが、あっあがああっ」 

「ちっ。やっぱ昨日と同じじゃねえか。だから嫌だったんだよ」

「すごいねえ、妹ちゃん。こんなに情熱的になれるなんて羨ましいよ」

「いやあ、ほんとすげえなあ。あの門番以外、周り全然見えてないんだろうなあ」

「これぞ、ハッカクの妹といった感じだねえ」

「お前ら! 悪口ならせめて聞こえないよう小声でいえ!」




7日目

 二日続けて失態を犯してしまった。まだ彼の名前すら聞けていない。


 今日も兄に門まで連れてってもらうつもりだったのに、これから依頼があると断れた。


 衝撃だった。


 てっきりかわいい妹の願いを最優先してくれると思ったのに。さらに信じられないことに、宿代ぐらい稼いだらどうだとか、少しは動物を狩って強くなれだとか、言ってくる。


 かわいい妹に汗水たらせと?


 非道だ。


 しかし、無情にも兄は仲間とともに出かけてしまった。


 しかたないので、憧れの君様に会いに行くのは我慢して<冒険酒場>へ出向いてみた。


 掲示板でルーキーでもできそうな依頼を探す。


 一人でオオカミ狩りは無理そうなので、植物の手入れの仕事くらいかなあ。


 庭園と名がつくだけあって、そうした仕事が多い。


 受付に依頼札を持っていくと、推奨スキルがないからやめた方がとやんわりと止められた。<園芸>スキルがあったほうがいいらしい。もってなくて、植物を荒らすと罰金が発生するとか。


 罰金、と聞いてピクリと反応する。罰金はよくない。


 無一文にひとしく、兄に寄生している状態なんだから。


 おとなしくお勧めされた町のゴミ拾いの仕事をした。


 スキルか。


 お兄ちゃんに相談したいけどいないからなあ。メッセージで聞いてみるか。




8日目

 <園芸>スキルを習得した。


 この街で仕事をしたいなら、園芸スキルがあったほうがお金になると、兄から助言があったからだ。


 商家が所有する薔薇園の手入れをする仕事を引き受けた。


 住み込みの庭師さんがぎっくり腰になってしまったらしい。さっそくお屋敷に行くと、執事さんが隣接する薔薇園に案内してくれた。いかにも頑固そうなおじいちゃん庭師が待っていた。


 庭師さんは庭のはじっこで椅子に腰かけて私の仕事ぶりを観察している。


 やりずらさを感じながら、薔薇の手入れを始めたら、すぐに目をカッと見開いて手で持った杖で地面をたたきながら、口出ししてきた。


 どうも、手入れの仕方がなっていないらしい。そりゃ、スキル生えたてですから。


 その後は、庭師さんにびしばししごかれながら、庭の手入れをすることになった。


 疲れはてて、宿までの道中を足をひきずるように歩いていると、憧れの君様に遭遇した。


 硬直する私に向こうも気づいた。


 ものすごいスピードで接近してきて、胸倉をつかまれて薄暗い路地へと引っ張り込まれた。


 数時間後。


 彼と別れた後、気づいたら宿の部屋にかえってきていた。


 どうやって戻ってきたのか記憶がない。それほど衝撃的なできごとだった。


 深呼吸をして冷静になりながら、あらためて言われたことを思い出す。


 いきなり号泣するな、土下座するな、拝むな、とたくさん話しかけられて幸せだった。


 壊れた玩具みたいな返事しかできなかったけど、変な子だと思われなかったかな。そこだけちょっぴり心配だ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ