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93~95日目

93日目

 なんとか生きてます。


 門を入ってすぐに進んだ暗闇の道は、サニティを減少させる場所らしい。


 はじめての体験ということもあって、私は死にかけた。


 一晩宿でぐっすり休ませてもらった。


 そして目をあけるとシードルがいた。夢かな、と思って目を閉じたら、鼻をつままれたので、しぶしぶ目を開ける。


 シードルがいる。目の奥が熱くなってきてうるっときた。


 伝えなきゃ。


 私はこの世界にシードルがいてくれるだけで幸せで、生きててくれるだけで毎日が輝いて見えるんだってこと。でも私は、シードルの人生の邪魔をするつもりなんてさらさらないんだよ。


 私のせいで、処分をうけるとか、そんなこと望んでない。


 邪魔だったら消えるし、それでもどこからでも私はシードルに愛を捧げてるんだよ。


 でも全然言えなかった。


 シードルが目の前にいてくれる。


 もうそれで胸がいっぱいで……。


 数日ぶりに見るシードルの表情はやつれてて疲れてるようだった。痛々しくて胸がきゅっとした。


 シードルはなんでここに来たんだと私をなじった。せっかく離れたのに、会ったら私を利用してしまう。それでいいのかって。


 それでもいいんだよ、私はシードルが生きててくれるだけで、毎日笑顔になれるし、幸せなんだ。


 だから、利用してくれたって構わない。


 それでシードルが笑っててくれるなら、私は幸せだもん。


 シードルが結婚して、子どもができて、おじいさんになっても私はその全部を愛せるんだから。


 だから苦しまないで。


 大好きだからさ。


 私はシードルを抱きしめた。体が大きいから腕はまわしきれなかった。大きな体は小刻みに体が震えてて、それがおさまるまで抱きしめていた。




94日目

 シードルから手厚く看病を受けた翌朝、宿屋にレインさんたちが来た。兄とザカルドさんも一緒だ。

 私に話があるらしい。


 この街で店をやらないかと爆弾発言をもらった。


 あんな辺鄙な場所でやるよりは、この街の中のほうが安全だし、儲かるぞ、と理詰めで強引に説得させられる。反対するだろうと思われた兄も苦笑いしている。


 これはもう強制的にこの街でお店ひらくこと決定の流れでは?


 さっそく物件を見に行く。


 私が思い描いてた森の中のお店そのもので、すごいかわいい。


 さらに驚いたことに扉からシードルがでてきた。


 自然に私のことを、その長い腕ですっぽりと抱きしめてきた。


 びっくり。


 全員苦笑してるけど、驚いてるのは私だけみたい。


 シードルの腕に包まれたまま、中に入ってみんなでお茶をする。


 店内も素敵だけど……シードルの体温ともふもふ感でよくわからんとです。


 さらに兄から爆弾発言。


 なんと私はこれからここでシードルと暮らすらしいです。


 兄とザカルドさんが帰って行った後、シードルから事情をきく。


 私と離されたシードルは食事ものどが通らなくなり、すっかり抜け殻みたいになってたらしい。それをザカルドさんと兄が見かねて、シードルとの同居を、私がここで店を経営する条件としてレインさんに突き付けたんだって。


 兄さん、ザカルドさん、ありがとう。




95日目

 シードルはどうしてしまったんだろうか?


 昨日からナチュラルに、キスとかハグとか頻繁にされるし、お風呂はさすがに別だけど、寝るときも一緒に寝てる。


 ちゃんとベッドは別々に用意されてるんだよ、でもシードルが当たり前の顔してベッドに私を誘導するんだもん。

 推しと同じベットですぜ?


 興奮で寝れないと思ったけどふかふか毛並みでぐっすりですよ。


 とにかくかもしだす空気が甘い。心臓はつねに破裂寸前だ。


 特別な関係とは言われたけど、彼氏彼女とは言われてない。うーん、なんだなんだあ。頭パンクしそうだぞお?


 朝食を食べた後、シードルは仕事に行くが、私は暇だ。


 店を開店させるのはもう少し先になる。荷物を取りにいかないとけないからだ。兄たちがまとめて運んでくれるというので、それ待ちである。


 頭を整理するためにも、散歩に出かけることにした。


 この怪物の町は、城攻めのためのセーフティーゾーンみたいな場所みたい。


 この街に来るドリーマーが怪物たちと悪さをしないように、門を守ってない時はこっちを守ってると簡単に昨夜説明してもらった。


 肝心のお城だけど、空にあった。


 来たときは、頭上のエクトプラズマみたいな霧がかかってたけど、今日は晴れている。


 天上には、さかさまになったお城が存在した。風が強くふくと、薔薇の花びらが舞い降りてきて、幻想的な光景となる。


 花びらの雨をあびながら私はぽかんと空に魅入られていた。


 なんか目がかゆい。


 ぼりぼりかいてたら、なんか左目の奥がもぞもぞしてきた。


 やばい。


 左目から触手つきの花が生えてきた。


 サニティがどんどん下がっていき、急いでと街に引き返す。


 運よく、ザカルドさんが見つけてくれて助かった。


 死ぬとこだった。



□音声ログ□

「シードル、なんか変じゃない?」

「あ? 何がだ?」

「いや、なんか。性格が変わったような……」

「ああ。まあ俺たちはもう特別な関係だろ? 俺だって相手みて態度かえるさ」

「そ、そっすか」


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