87~89日目
87日目
ザカルドさんがお店にきた。
シードルは私の軟禁の件で、しばらく謹慎処分になるらしい。
うーん、なんか胸がもやもやするなあ。
私の知らないところで話が進んでいく。
浮かない表情をしていたせいか、ザカルドさんがシードルの昔話を聞かせてくれた。
ザカルドさんとシードルは、緑の領土で暮らす貴族の子息として生まれたらしい。
ザカルドさんは長男で両親から後継ぎとして可愛がられたけれど、両親にとって息子は一人で十分だったみたい。
次男でスペアであるシードルは両親からはお金だけは出してもらえたけど、世話の一切を使用人任せにされて、家族の愛情を受けずに育ったらしい。
食事もいつも一人、テストでいい点をとっても、剣術をがんばっても何も評価されない。
ザカルドさんは、弟の存在は知ってたけど、住んでいるのが別館と本館で別れてて、とくに興味もなく過ごしてたんだって。ひどい兄だろ、と嗤ってるけど、私にはとやかく言う資格はないので黙って続きを聞いた。
シードルはたびたび家を抜け出して、街で悪い連中とつるむようになったみたい。それでも両親は興味を示さなかったらしい。
それからすぐに緑の領土に流行病が流行りだして、それは邪神の復活するためにとある宗教団体が関与してたことがのちに発覚したらしいのだけれど、協力した貴族の中にザカルドさんたちの両親も含まれてたらしい。
関わった人間は処刑。家名は断絶。幼かった二人は、小さかったために修道院送りになって、そこでたまたま武者修行中だった団長さんと知り合って今の仕事についたみたい。
ザカルドさんは、愛に飢えたシードルが私と接触することでどうなるか、薄々はわかってたらしい。でも、私のおかげではじめてザカルドさんはシードルと兄弟らしい触れ合いができた。
それが嬉しかったから、傍観してたんだって。
シードルも自分の危険性は自覚していて、私を軟禁している話をザカルドさんにぼかして伝えたらしい。
だからザカルドさんは、軟禁中の私を迎えに来たんだ。
話の情報量が多すぎて、どう反応していいかわからない。私は黙って聞いてることしかできなかった。
□音声ログ□
「俺もさ、いまさら兄貴づらするつもりはないんだよ。あいつが寂しい思いをしてるの知ってたのに、長いこと知らんぷりしてたんだから」
「……」
「ここ最近までまともに口すら聞いたことなかったんだけどね。君が現れてさ、いやあ、びっくりしたよね、あいつに熱烈に愛を捧げるんだもん。あいつも戸惑ったみたいで、俺にアドバイスもとめてきたりしてさ。そっからぽつぽつ話するようになって。兄弟ごっこみたいな? そういうの、できて、オレ、結構君に感謝してたんだよねえ」
「……」
「ほんとは最初に教えてあげとかなきゃいけなかったんだよ。ひどく愛情に飢えてるシードルに、君みたいな無条件に愛する存在が現れたから、どうなるか。でも、お兄ちゃんごっこが楽しくてさー、ごめんね?」
「……」
「ははっ……ほんと、ひっでーやつだよね、俺」
「……」
「君がここにいることはさ、シードル本人が教えてくれたんだよ。あいつも怖かったんだろうね。自分が君にどんどん依存していっちゃうことがさ」
88日目
今日は何もする気が起きない。ぼんやり巣箱の手入れをしてたら、蜂に刺されてしまった。
こんな凡ミスはじめてしたわ、あはは。
……。
モヤモヤして、つい門へ足を向けてしまった。ほんとはもうここに来る資格なんてないんだろうけど、シードルがどうなったのか自分の目で確認したい。
団長さんから、シードルはしばらく門のなかの警備になったと聞かされた。本人の希望でもあるらしい。
遠回しに拒絶されたみたいでショックだった。
店にとぼとぼ帰ると、兄が様子を見に来てくれた。元気のない私を見て、シードルに会ったらかならず連絡すると約束してくれた。
何もする気が起きない。
シードルはもう二度と私と会いたくないのか。
私はシードルにとって悪い存在なのか。
わかんない。
わかんないよぉ。
89日目
くよくよタイム終了。
一晩、あーだこーだと思い悩んでちょっぴり泣いて、やっぱり私に悩み事は性分じゃないと思った。
錬金するぞー!!
いつになく集中力が高まっていた。
ちょっと上級な合成にチャレンジしてハニーファッジを作った。
すごく甘い薫りでおいしそうだけど、これは毒入りだ。
ぶっそうなものだけど、動物に食べさせて弱らせることができる。私むきのアイテムといえよう。
さらにもう一つ新作にチャレンジ。
爆発して全身や室内を煤まみれにしながら集中すること数時間。
灰かぶりの巣の残骸を原料にして、ハニカムボムを合成できた。
試しに外に出て、近くをうろついていたリスに投げつけてみた。おおっめちゃ怒ってこっちむかってくるう。あせって、手持ちのボムを4つとも投げると、肉片すら残らず消えちゃった。
これは強力なアイテムだわ。取り扱い注意しなくちゃ。
新商品を店に並べてみる。客はこないけど満足だ。
白湯を飲んで一息ついてたら、兄からメッセージが届いた。
シードルは私に会いたくないらしい。
涙はでなかったけど、胸に重しがのったみたいにズーンとした。




