66~68日目
66日目
団長さんからの依頼品をもって門へ行くと、シードルが顔に青あざを作っていた。
何か言う前に、腕をつかまれてどこかへ連れていかれそうになる。
なんだなんだ。
腕越しに感じるシードルの温度や触感が有頂天に嬉しくて鼻息が荒くなりそうだけど、ひとまず落ち着いてほしい。いきなりどしたのだろう。
門から遠ざかっていきそうだったので、早口で届け物のことを伝える。シードルは適当に同僚を捕まえて依頼品を押しつけてしまった。
いいのかなあ。
拘束されたまま街へ到着した。
とうとつに、買い物すると言い出した。ようやく腕を離される。つかまれた腕はうっすらあざになっている。シードルもそれに気づく。耳を伏せてすまん、と謝られた。ぐうかわ。可愛すぎて目が開けてられなくなるわ。
仕事はいいのかと確認すると休みになったらしい。嘘ですよね、思いっきり鎧姿じゃないですか。
買い出ししたばかりだからそんな困ってないんだけど、至高の存在である推しからのお誘い。貧民の私ごときが断ることなどできるわけがない。
でも何買おう。
シードルの好きな店とかわかんないなあ。きょろきょろしてたら、舌打ちして、「俺じゃあ不満かよ」と機嫌が悪くなりだす。
焦る私。
この前ザカルドさんに連れていった店に行こうとしたら、なぜか機嫌が悪化した。
なぜなの。もうわけがわからない。
不機嫌な顔ももちろんカッコいいんだけど、機嫌はなおしてくれるとうれしい。
しかたなく適当に、いつも覗いてる店をまわることにした。
油とか料理にも使えるしあっても困らない。
びくびくとシードルの顔色をうかがいながら商品を選んでたんだけど、途中から買い出しに夢中になっていく。またたくさん買ってしまった。
シードルの機嫌もいつのまにか平素になっていた。店まで送り届けてくれて、今度は買い出しの時は俺を呼べと言って去っていった。
□音声ログ□
「ほしいもんは全部買えたか?」
「うん。ありがとうございます」
「困ってんなら、次から俺頼れ」
「いや。そんな。恐れ多いです」
「ああ? つべこべ言わずに次買い出しの時は言えっ。言いな」
「ひいっ。はい、喜んで!!」
67日目
ザカルドさんがお店に来た。
目に青あざを作っててぎょっとしてしまった。ちょうど昨夜のシードルと反対側の目だ。
どうもこの青あざができた原因は、私に関係ある話らしい。
事情説明を受けた。
数日前、私とザカルドさんが街で買い物をしているところを、ザカルドさんに恋慕していた令嬢が目撃した。親し気な様子に激怒した令嬢は、ごろつきを雇って私を排除しようとした。
この前店に来てくれたお客さんも、その令嬢のところの使用人たちだったようだ。人がいなければ、店に難癖つけて立ち退きみたいなこともするつもりだったらしい。
ごろつきたちは、ずっと私がひとりになる瞬間を狙っていたようだが、尾行に気づいた団長さんが、捕まえて尋問した。
ごろつきからザカルドさんを慕う令嬢の名前がでてきて、その令嬢を事情聴取。どうも令嬢はごろつきに、私を半殺しにしてもいいと命じていたようだ。
事情を知ったシードルが激怒してチンピラを殴り殺そうとしたので、それをザカルドさんがとめて、殴り殴られたと。
最後は二人とも団長さんに投げ飛ばされたらしい。
強いな団長さん。
でもそれで合点がいった。
そっかあ、昨日シードルが買い物付き合ってくれたのは、私のことを心配してくれたんだなあ。
ザカルドさんにも迷惑をかけたと謝罪すると、「兄弟げんかできてたのしかったよ」と笑ってた。
ふぁ? 兄弟げんか?
□音声ログ□
「お兄さま?」
「悪い気はしないけど、僕のことはふつうに今まで通りに呼んでほしいな」
「おにいさま……しーどるの、おにいさま……」
「おーい。リナリィ? 聞いてるかい?」
「ああ。シードルのお兄さまだ……!」
「あー……はは、拝むのやめて。ね? 膝つかなくていいから。はい、落ち着いて? 深呼吸しようか?」
68日目
ザカルドさんはシードルのお兄さんだったらしい。
いわれてみれば鼻筋が似ているようにみえてきた。
シードルのこと、これからもよろしくと言われた。家族公認で崇拝することをお許しいただけた。はい、全力で今後も愛でていきますので。
あらたな気持ちで朝のルーティンをこなす。
今日こそは新しい錬金アイテムを合成してみせる。いろいろあって、集中力がとぎてまくり、失敗作ばかりたまっていっている。ざっと壺3つ分。
挑戦するレシピの名は<ふわふわパン>。これはなんと蜂蜜を材料にするのだ。
ほかは、パンの材料まったく入ってないんだけど、はたしてそれはパンなんか。そのことが気になって失敗を繰り返してきた。
今日こそは成功させるぞ。
頑張ること数時間。
完成。
真っ黒だけど、触るとふわふわだ。
試食したら、香ばしい小麦の味がした。でも蜂蜜の味はなし。不思議。噛みしめて飲み込む瞬間、材料に使った白雪の花の香りが、ほんのりと鼻腔を抜けてく気がした。
時間がたってもおなか痛くならないし、これは成功といっていいのでは?
時間差でバトステつくかもしれないから、しばらく食べ続けて様子見しよう。
よし、店出し保留!




