42~44日目
42日目
タチバナとともに迷宮に挑む。
簡単な打ち合わせをし、私が戦闘担当で、タチバナが採掘担当することになった。
だってタチバナの武器、爆弾しかないんだもん。怖くて任せられない。
迷宮に入ると、タチバナはきょろきょろとあたりを見渡して、時折鼻をひくつかせている。しばらくどんどん歩いて、少しあたりを見渡して、それから歩いて、を繰り返し、ここで掘りますと立ちどまった。私はよし、とカンテラをつるした棒を突き立てる。タチバナに背を向けて、彼女を守るように立った。
タチバナには頑張って素材を掘ってもらわないといけない。
がんばらなければ。
いつになく緊張して弓に矢をつがえ、引き絞る。
洞窟内は暗いので、突然動物が飛び出してくるので、びっくりする。
コウモリのかしましい鳴き声が聞こえる。つるはしをふるう音があちこちで反響している。
神経をとぎすませていると、ダンゴムシが突進してくる。
矢を放つ。当たった。
突進がひるむ。すかさず気を練って集中し、アビリティ<ターゲットショット>を発動。
ダンゴムシに矢が吸い込まれるようにして命中する。
あともう少しだ。と思った時にコウモリが強襲してくる。えーい、うっとうしい!!
……!
…………!!
数時間後。鐘を叩く音が坑道内に鳴り響いた。
ハッとしていると、タチバナが今日はこのくらいにしましょうと声をかけてきた。
足元には動物の死骸が転がっている。ダンゴムシ4匹。コウモリ6匹。
薬ボトルは空っぽだ。
ライフが削れすぎてたので、タチバナの分の薬を分けてもらった。死骸は持ち帰る気になれないので、均等に分けることにした。タチバナが遠慮して少しごねたけど、最初に取り分は半分と決めてあると押し通した。
死骸を昇華してスターシードに変換する。
迷宮の外は夕方だった。焼けるように赤い陽光が目にしみる。
宿に戻って成果を確認。
クズ石が多いけれど、銅や石炭といった鉱石も混じっていた。
成果は上々だろう。
悩んだけどここに来てよかった。
シードル、私頑張ってるよ。
43日目
朝食の席で、タチバナがクズ石を利用して作った矢を20本ほどくれた。
守ってくれたお礼だと言われる。
器用だなあ。
本日で3日目となる迷宮へ。昨日より余裕ができてきたので坑道を進む途中で、めずらしい苔やキノコ類を採取する。
昨日とは別のところで採掘を始めた。タチバナが選ぶポイントは、ほんとにここにあるのか、というようなほど人気がない。
さて。今日もコウモリやダンゴムシどもとやりあいますか。あらかじめ、タチバナの分の薬ボトルを渡されている。これでぼこられても耐えれる時間が増えた。
黙々と互いのやるべきことをこなす。
クズ石の矢は、使ってみると、手持ちの矢よりも性能がいいのがわかる。
……。
ひたすら戦って、やがて鐘の音が鳴り響く。帰る時間だ。
残っているコウモリにとどめを刺した。
タチバナの表情が柔らかい。鉱石が昨日より質の良いものがとれたらしい。笑ったらかわいいな、この子。
迷宮を出ると、タチバナに飲みにいかないかと誘われた。
いきつけのおいしい食事とお酒が出る酒場があるらしい。
いつになく積極的だ。
先に宿に戻ってお湯をもらって身ぎれいにする。
それからタチバナに案内されていくと、宿屋のおばちゃんが前に教えてくれた店の前についた。
ここかよ。
顔なじみらしく、テーブル席につくと、マスターらしき男が気さくにタチバナに話しかけてくる。彼女はそっけない態度だが、マスターは慣れた様子だった。
いつものメニューでいいよな、とマスターはこちらの返事を待たずに離れていく。
近くにいたムキムキの酔っぱらいたちが次々にタチバナに話しかけてくる。
彼女は、適当な態度で酔っぱらいたちに返している。それに気を悪くした様子もなく、酔っぱらいたちは上機嫌だ。
大ジョッキでエールが運ばれてくる。テーブル間違えてないか、とマスターの顔を注視してしまった。
マスターが私にウィンクして「タチバナはすごいんだぜえ」と自慢げにいう。
料理も次々運ばれてくる。串焼きと山のようにもられたポテトサラダ。タチバナの好物らしい。私もポテトサラダ好きだというと、タチバナはささやかに微笑んだ。
私はミルクで、彼女は大ジョッキで乾杯する。
ジョッキを一気飲みして、タチバナは素面だった。
すかさず次の一杯を注文している。騒がしい店内で、タチバナの声は私にすらとどかなかったが、マスターにはしっかり伝わったようだ。すぐに二杯目が到着する。
すごい酒豪っぷりだ。
ぽかんと口が空きっぱなしになってしまった。
いろいろタチバナという子について新たな一面を知った夜だった。
44日目
真夜中ごろに宿に帰ってきた。タチバナはもう少ししゃべりたいらしく部屋に行っていいか聞いてきた。
一度お互いに部屋に戻って準備をしてから集まることにする。
全体的に酒臭い。水で身体を拭いて着替えた。寒いけど、臭いままいたくない。
数分後。ひかえめなノックの音。
タチバナは、神妙な顔で部屋に入ってくる。
ベッドに並んで座り、いろいろおしゃべりした。
<ナイトランド>※にやってきた理由とか。
私はアッシュのことを話した。自分が興奮しやすいタイプなのはわかっているのであえて淡々とするよう意識する。
アッシュの好きで、でももう亡くなっていて、そしてシードルに出会ったことを語る。話しながら、あらためて、私はアッシュが好きだったんだなあ、としみじみと感じた。そしてシードルに出会えたことが奇跡みたいに私の人生を再び輝かせてくれた。
自分で語ってて、目頭が熱くなってくる。
会いたいなあ。
シードル今何してんのかなあ。もう寝ちゃったかな。私がいなくて、少しは気にかけてくれてるかな。声聞きたいなあ。
ハッと我に返ってタチバナを見ると、彼女はまっすぐに私のほうを見て話を聞いてくれていた。
タチバナは私がうらやましいという。そんなにひたむきに何かを好きでいられる自信がないらしい。
タチバナは最初、友人とこの世界に来たらしい。でも彼女は、パッシブスキルを持っていたため、それで友人と険悪な関係になりひとりになってしまったそうだ。
パッシブスキルは、誰もが持てるわけじゃないみたい。どういう経緯でどうやって身につくのかわからないけれど、特定の人にのみ身につくそうだ。
タチバナが持っているのは、<もぐらの鼻>というらしく、どの辺りに鉱石があるか、なんとなく感じるのだそうだ。
そっか。だからタチバナが掘ると、鉱石がでやすいんだ。
タチバナは私が仲良くしてくれるのが嬉しかったようだ。
うーん、でもタチバナって結構、まわりから愛されてるよね。宿屋のおばちゃんとか、酒場のマスターや常連客さんたちからとか。
でもドリーマーで仲良くしてる人はいなかったのかな。やっぱ同族から愛されたいって思うもんだよね。うん、納得。
今夜のタチバナはとても饒舌だ。顔に赤みはなく淡々としているが、やはり酔っぱらっているのだろう。
タチバナはシードルが見たいと言ってくれた。SSはないかと言われて、はっとする。
そうだ、私。シードルの写真1枚も持ってない!!
何やってんだよ、撮る瞬間はいくらでもあっただろうが、このあんぽんたん!!
自分のふがいなさに悶えていると、タチバナがひいた顔をしている。すごい顔で歯ぎしりしてたみたい。おほほ、ごめんあそばせ。
今度絶対見せるよ、というと嬉しそうにふにゃっと笑った。あ、この笑顔かわいい。
朝になると、タチバナはいつものクールな雰囲気に戻っていた。
すごく眠いのだがタチバナは平気そうだ。気つけ薬だとにがーい飲み物を分けてくれた。顔がしぶしぶになった。
タチバナに笑われたけど、うん、初日にあった時よりずいぶん表情がやわらかくなったかな。
今日で最後だと、一緒に迷宮で採掘に励んだ。
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※ナイトランド……現実世界をデイランド、夢の世界をナイトランドと呼び分けている。ナイトランドには天の川があり、それにそって太陽系の惑星が存在する。
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