96話 仇
影の館が休業に入ってもう少しで1か月。
ギルドメンバーとも連絡を取りながら、俺は王宮の依頼をこなしていた。
しかし、暗殺依頼は受けずに諜報活動やモンスターの討伐に専念している。
俺を叩いていたプレイヤーは1週間程度は活動に精を出していたようだが、さすがに飽きたらしく、デモ活動は一週間程度で打ち切られた。
それとほぼ同時に現地人の熱も冷めて、 今王国は別の話題で持ちきりだ。
王国壊滅の危機!!
このような見出しで号外が配られている。
さらにいえばそれは王国だけではない。
他の国も同様の問題を抱えて世界の危機を迎えていた。
端的に言えば半年イベントで各国に大型モンスター数体が襲ってくるようだ。
数はその国に所属している来訪者の数に比例するらしい。
強制参加のイベントになっていて、国を守り切れば報酬が貰えて、守れなければペナルティがある。
ただし、必ずしも戦闘に参加しなければいけないわけではない。
ただただ、負ければペナルティがあるだけ。
勝ったとしても報酬が少なくなるだけ。
王国に迫っている脅威は4つ。
4体の大型モンスターが四方から王国へ迫っている。
超大型同時レイド戦にプレイヤーは盛り上がりを見せているが、現地人はパニック状態。
完全に俺のことなど忘れているだろう。
俺は正直、参加するかどうかを迷っている。
ここで参加して大勢に見られてしまえばまた火が付く可能性がある。
では、モンスターに襲われる人々を見過ごすのかと言われたら、それはできない。
レイド戦開始まであと半日といったところで、王都の一画には行列ができていた。
全員がレイド戦参加者で来訪者はもちろん、現地人も並んでいる。 現地人の多くは金目当ての傭兵だったり、正義感の強い元騎士などだ。
これから組み分けがされて各レイド戦の戦場へと移動する。
移動中はなるべく影を潜めて、行動する。
人気のない路地などを通るがそこで声がかけられた。
「おいっ、クロツキ」
声のするほうとは真逆から大剣が振り下ろされる。
だが、遅い。不意はつかれてもまず当たることはない。
「おまえ……」
それは因縁の相手というべきなのか、イーブルの姿があった。
「俺がテメェに負けてどんな思いをしてきたと思う。分かるか? プロが素人に負けて叩かれる屈辱が」
確かに俺はイーブルを一度殺したが、実際に監獄に送ったのはサンドラとストルフだし、そもそも自身の身から出た錆なので逆恨みされてもお門違いというもの。
「自業自得だろ」
「そんなこと言ってるが、テメェの今の状況も面白くなってるじゃねぇかよ」
「……」
「俺の気持ちが少しは分かったようだな」
下卑た笑い。
「お前が仕組んだのか?」
「さぁな、でもまだまだこんなもんじゃねぇからな。俺を叩いた奴らも俺を監獄送りにしたこの国も潰してやるよ!!」
イーブルは怒りをあらわにしているが、怒りたいのは俺の方だ。
心を落ち着かせる。
まずは冷静にイーブルを殺す。
迫る大剣はやはり遅い。
避けて首を斬り落とそうとするが黒の靄が俺のナイフを防いだ。
怨恨纏いのような強化系のスキルか。
しかし、実力差は明らかだ。
いくら強化しても俺には傷ひとつなく、イーブルはボロボロになっている。
「はぁ、はぁ、さすがはやるじゃないかクロツキ。ここまで差があるとは悲しくなるぜ」
イーブルは監獄にいたせいでレベリングがほとんどできていない。
どう見積もっても四次職成り立てくらいだろう。
今の俺が遅れをとるわけがない。
「だがな、最後に勝つのは俺なんだよ!!」
何か勝ち筋があるのか?
そもそもなぜ一人でこんなところにいるのか、イヴィルターズはどうしたのか。
考えれば考えるほど疑問だらけだ。
イーブルのこの守りの姿勢も気に入らない。
何か時間稼ぎをしているように防御を固めている。
仲間の助けを待っている可能性もある。
そうなれば早めに決着をつけた方がいい。
今はディーに空から周りの様子を伺って貰っているが援軍が近づいている兆しはない。
その後もイーブルは防戦一方で攻撃を受け続けている。
そしてディーから合図があった。
近づく人影ひとつあり。
一人か? 援軍にしては少なすぎる。
それとも一人でも十分な強者ということなのか。
ディーには続けて周囲の警戒を頼む。
顔を出したのは予想外の人物だった。
「お兄ちゃんたち何してるの?」
……!?
なぜ、少女がこんなところへ。
イーブルの顔がこれみよがしに変わり、少女へ向けて大剣を振って斬撃を飛ばした。
「ちっ……」
少女と斬撃の間に入り二本のナイフで受け止めた。
なんとか受け止めたが、二本のナイフに一気に重力がかかる。
イーブルが跳躍して大剣を振り下ろして来ていた。
いくらレベルの差があるとはいえ職業的に筋力はイーブルが上だ。
押し切られそうになるが、ナイフが軽くなる。
イーブルが退いて、その場にディーの放った黒の槍が降り注ぐ。
「危なかっ……た……カハッ」
背中に熱さと痛みが走る。
後ろを向くと少女の手には包丁が握られていた。
「ぱぱを返せ……」
少女は涙を流しながら力強く包丁を突き刺してくる。
「終わりだぜ、お前は見学でもしてな」
イーブルは笑いながら俺の首をはねた。
俺はルキファナス・オンラインで二度目の死を迎えた。




