90話 断罪の光
骸骨の仮面の男をしっかりと掴んだ。
掴んだはずだった。
手応えはない。
まるで水を掴むかのように指の間から影が抜けていく。
掴んだと思ったのはただの残像だったのだ。
さすがの速度なのは分かる。
不可解なのは体中を駆けめぐる激痛。
ダメージを受けているし、今もHPが減っていく。
視界の端にギリギリ捉えれるほどの速さで移動する影は四方八方から斬りつけてくる。
しかし、予想した通りダメージ量は高くない。
これならばこちらがやられることはないだろう。
影からの攻撃の手が止まる。
二人が寄ってきて三人で陣形をとって、骸骨の仮面と対峙した。
スキルで恐怖耐性を得ているが、それでも恐怖を感じる。
だが、恐れることはない相手にはこちらへ致命傷を与える攻撃がないはずだ。
三人でアイコンタクトを取り、攻めのパターンを決める。
その時、地面の影に違和感を感じる。
その影は上空に何かがいることを示唆していた。
確かに何も変わらずに骸骨の仮面は目の前に立っている。
いや、マントが消えている!?
上を見上げると、ドラゴンが大きな翼を羽ばたかせていた。
ドラゴンは大きく息を吸って一気に吐き出した。
黒い炎は三人を一纏めに襲う。
あたりの温度がどんどんと高くなっていき、熱でダメージを受ける。
消耗した状態ではスキルも満足に使えずに、何もできないまま、三人は灰となった。
「大丈夫でしたか?」
リックは天城とセレスと合流してクロツキの戦いぶりを観戦していた。
「えっ、えぇ、助けていただき、ありがとうございます」
「これで現時点での問題は解決したということでいいんですかね?」
「そうですね。後は準備が整えばいつでも帝都へ出発ができます」
「では、一旦影の館へ戻りましょう」
戦場に背を向けて帰ろうとした時だった。
「ちょっと待った!!」
少し遠くにいる少女から声がかかる。
「そこのあなたが暗殺ギルドのマスターで間違いないですね?」
「そうですけど……」
「そう、認めるのね。私は祝福の光の副ギルドマスター、ヒジリ。白の断罪者としてあなたの活動を許すことはできません。刑の執行を執り行います」
白の断罪者とな。
俺が黒の断罪者だから他にも断罪者がいるのだろうとは思っていたけど、この少女がそうなのか。
少女の周りには騎士が五人。
全員が恐らくは聖騎士なんだろうな。
「待ってくれ、何かの勘違いだろ」
依頼は基本的に国からであったり、個人から受ける時も相手のことを確認してから依頼を受けている。
何も問題はないはずだ。
「ふんっ、邪悪な者の言葉など聞くにあたいしない。ヒジリ様私に行かせてください」
「そこの後ろの方々もこの男が善良な者を殺しているのを見たでしょう。ここから立ち去りなさい」
金閣のことを言っているのなら壊滅的な勘違いだ。
そもそも戦闘していたのはリック達なのだから。
「急に出てきてなんなんだいったい? クロツキさんは手を貸してくれただけだ」
「そう、それはあなた達も悪に手を染めたとの自白ととっていいのでしょうか」
「はぁ、元々悪いのは金閣の奴らでしょ」
「皆さんよろしくお願いします」
聖騎士の五人が剣を天に捧げて誓いを口に出す。
「正義の名の元に断罪を開始する!!」
それぞれが自身にバフをかけていく。
「クロツキさんどうしますか?」
「うーん、向こうがやる気ならやるしかないですね。誤解を解くのは難しそうですし」
「分かりました。聖騎士は任せてください。クロツキさんはあの少女をお願いします」
俺は少女の隙を狙って存在感を限りなく薄くする。
聖騎士とリック達がぶつかり合うが、ふざけたようなヒジリへの信奉を見せる聖騎士の実力は本物だった。
そしてリック達が消耗しているせいもあって戦況は相当不利だった。
追い討ちをかけるように少女はスキルを発動させる。
「聖なる御旗のもとに」
聖騎士全員にバフがかかり状況はさらに悪化した。
「お仲間がやられているというのに後ろで見てるだけとは救いようがありませんね。私自ら手を下しましょう。断罪の光」
上空で魔力が圧縮されていく。
巨大な光は太陽よりも輝き地上を照らす。
そしてそれは光速で降り注いだ。
回避は不可能だった。
できることは手で顔を防ぐことくらい。
恐怖のためではないが、あまりにも眩しすぎたせいで目を閉じてしまう。
瞼の裏からでも光が消えたのが分かったがなんのダメージも受けてないぞ。
いったい何が起きたんだ?
もしかして……
「そっ、そんな!? 報告ではかなりの数を暗殺しているはず。カルマ値も高いはずなのにどうしてダメージがないの」
やはりだ。
黒の断罪者もそうだが、相手のカルマ値悪性を参照するスキルが多い。
残念ながら善人にはほとんど効果がなくなってしまうスキルだ。
先の技も技名から察するにそういう類のものだったんだろう。
しかし、それだと疑問が一つある。
パァン!!
そこにいた全員の動きが止まった。
少女の頭がどこからかきた男によって強くはたかれたのだ。




