85話 匿うモンスター
ベローチェが帰った後、ルティとお茶をしながらギルド運営について軽く話しをする。
「バーバラの様子はどう? ギルドで馴染んでいけそうかな」
「問題ないと思います。彼女のおかげでかなり楽できるようになりました」
「雑務を押しつけて申し訳ないね」
「いえいえ、クロツキさんはマスターなんですからドンと構えておいてください」
「ありがとう。本当に助かってるよ」
「ですが、ギルドの今後を考えるなら人は増やさないとですね」
現状維持をするだけなら今の体制でも運営はできているが、上を目指すなら人数を増やしてもっと精力的に動いていかなければならない。
ギルドのランクはどれだけ依頼を受けて、稼いだのかと信用を得ているのかで判断される。
一般的な企業と似たような感じだな。
依頼の数をこなすにはギルドメンバーの数が必要だ。
そしてそれをサポートしてくれる裏方も必然的に必要になる。
ウチのギルドは現在6人。
これじゃあギルドというよりはパーティに近い。
正直、人を入れなきゃとは思いつつも逃げている。
社畜時代はこき使われる側だったせいもあり、自分が雇う側になるというのは慣れないし、責任重大で恐ろしくもある。
今になって思うが上司も大変だったんだな。
あの頃はそんな思考の余裕すらなかったが。
「そうだね、近々面接を始めようと思うから、調整をお願いします」
「はい、任せてください!!」
チリィンチリィン。
受付のベルが鳴らされた。
「お客さんのようですね。行ってきます」
「よろしく」
ルティはソファから立って、扉を閉めて出ていった。
が、すぐに扉は開かれてルティが困った顔をしている。
「どうしたの?」
「なんというか……来てもらってもいいですか」
俺はルティと受付へ向かう。
……!?
まさかの人物が受付の前にいた。
それはベローチェがターゲットにしていた3人組のパーティ。
なぜここに?
「はじめまして、影の館マスターのクロツキです」
「俺はリック、こっちがセレスと天城だ」
基本的にお客さんと依頼について話をするときは応接室に通すのが今のこのギルドのやり方である。
それほど忙しくないので丁寧に対応できる。
しかし、ルティは応接室に3人を案内するのではなく、俺を受付に呼んだのはこれが原因だったか。
三体の大型モンスターもギルドに入っていた。
なるほどと納得だ。
「立派なギルドハウスだね。ウチの子たちが入っても広々としてる」
テイマーの女性は従魔を撫でて、従魔たちも気持ちよさそうにしている。
後で俺にも撫でさせてくれないか頼んでみよう。
受付の前の共有スペースにも机と椅子はあるので、今日はそこで話を聞くことにした。
「あなた方はモンスターに対してそこまで嫌悪感はないのですね」
「どういうことですか?」
「これまで出会った多くの人はこの従魔を見て負の感情を抱くものですから」
まぁ、普通は怖いだろうな。
俺は割と動物は好きなので問題はないけど。
「むしろ撫でさせてほしいくらいですよ」
「なるほど、面白いお方だ。あなたを信頼してある依頼をお願いしたい」
「どのような依頼でしょうか?」
「少しの間、このギルドで匿ってほしいプレイヤーがいます」
これははじめての依頼内容だな。
「そのプレイヤーと匿わなければいけない理由をお聞きしても?」
「いつものように狩りに行っていたら前からプレイヤーに追われるモンスターが走ってきてたんですよ。普段なら無視をするところですがそのモンスターというのがプレイヤーでして……」
キャラクタークリエイトでモンスターを選択することもできる。
別におかしくない。
モンスタープレイヤーを追いかけるプレイヤーの構図もなくはないだろう。
カルマ値がどうなるかは気になるが。
「どうしても見過ごせずにそのモンスター達を助けました。ですが追いかけていたプレイヤーの所属するギルドが大手でして揉め事になって今抗争中なんですよ。なのでその間だけ匿ってほしいのです」
恐らく嘘は言ってない。
カルマ値の変動が見られない。
しかし難しいのはどちらも悪くないという点だよな。
プレイヤーがモンスターを狩るのも分かるしな。
それがモンスターを選択したプレイヤーの宿命な気もする。
この厄介ごとに首を突っ込んでいいものなのか。
悩む……
「その大手ギルドというのは?」
「金閣です」
金閣といえば王都でも有名なギルドじゃないか。
決めた。
「出来る限りお手伝いします」
「本当ですか、ありがとうございます」
依頼書を交わして正式に依頼を受理した。
「天城」
「クーちゃん」
天城が巨大熊に指示を出すと、熊のお腹の毛に隠れていたモンスタープレイヤーが出てくる。
ゴブリンにスケルトン、スライム。
リック達はすぐに出ていってしまった。
話してみて分かったことだが、3人とも子どもだ。
子どもとはどう接していいか分からない。
俺はひそひそ声でルティを呼ぶ。
「ルティ、子どもだよ。どうすればいい?」
「私に聞かれても分かりません」
「どうしよう……」
「どうしましょう……」




