80話 水鉄砲
三次職が4人、前衛が狂戦士1人、後衛が3人というバランスの悪そうなパーティ構成だが狂戦士という職業を考えれば悪くはないと思う。
後衛火力の重装砲兵、サポートに大司祭と非戦闘職の上級薬師もサポートができると聞いている。
そもそも狂戦士は戦闘能力が高い代わりに自らで狂乱状態にはいるので連携はほぼ取れない。
狂戦士にソロが多いのはそのせいだ。
ではパーティ単位で考えたときにどうするかだが、自分たちは攻撃対象に入らない位置にいればいい。
戦闘が終われば大司祭の魔法で狂乱状態を解けばなんの問題もない。
「みんなサポートは任せた。バーサークモード!!」
闇に包まれた狂戦士のTOMOが大剣を振りかざしてくる。
それと同時に大司祭ニナのバフが狂戦士にかかり、ステータスがさらに上がる。
あまりにも禍々しい大剣は呪われた魔剣だろう。
狂戦士の解放条件に戦士職で一定以上狂乱状態で戦闘を行うがあり、ほとんどが呪われた装備による効果で達成する。
稀に相手からのデバフにかかりまくって解放条件を達成するなんてこともあるらしいが、まあレアケースだろう。
フェイントや読み合いなど全くないシンプルな攻撃合戦。
単純な打ち合いなら圧倒的にスピードのある俺が有利だ。
しかし、こちらの攻撃を受けてもものともせずに前に突き進んでくる。
多少の傷はサポートからの回復があってないに等しい。
面白いのはその回復方法だ。
大司祭が回復魔法をかけるのかと思ったがバフをかけた後は防御に徹していて、自身とヒイロとシャロットを守る結界を展開している。
俺が後衛から狙うのを防いでいるようだ。
壊せないこともないがそれに時間を使ってしまうと狂戦士に隙をさらしてしまう。
傷ついた狂戦士を回復しているのは上級薬師のシャロットだ。
何かの植物を調合してポーション作成をしている。
そしてできたばかりのポーションを水鉄砲に入れて狂戦士めがけて飛ばしている。
一般的にポーションは飲まないとその効果を発揮しないのだが水鉄砲から放たれたポーションは触れた部位周辺を回復していた。
話には聞いていたが凄いな。
あの水鉄砲を作成したのはこのパーティの暗殺を依頼したバーバラだ。
本来は重装砲兵のヒイロのために作成していた銃の失敗作だったらしい。
重装砲兵は射手系統の職業なのだが、射手系統のほとんどの職業が戦闘にお金がかかる。
銃を使うには弾丸が必要でこれは完全な使い捨て。
弓を使うには矢が必要でこちらは拾うこともできるが壊れたりするのでほぼ使い捨てになる。
それを改善しようとしたのが水鉄砲だ。
水を弾にすればお金がかからない。
高圧水弾にすればダメージが出せると考えたが、どうしても高圧にするのが難しくダメージを出すには至らなかった。
できたのはおもちゃのような水鉄砲。
上級薬師のシャロットがスキルで作ったポーションは作り立てだと通常よりも高い効果を発揮してポーションに触れただけでも効果を発揮する特性があった。
それを活かして水鉄砲にポーションを入れて撃つことにより遠くにいる仲間を回復することができる。
ただし、デメリットもあって敵に当たっても効果を発揮してしまう。
水鉄砲の精度は訓練を経て磨き、 実践でも通用するレベルにまで昇華している。
狂戦士は大剣を振り下ろして、地面につく前に無理やり軌道を変えて振り上げてくる。
無理な軌道で大剣を振るたびに筋肉がちぎれ、青紫に変わっていき、ダメージとしてカウントされていた。
狂戦士の攻撃の合間にヒイロがミサイルが迫ってくる。
「ディー、頼む」
俺の声にディーが反応して『闇槍』で迎撃する。
闇の槍とミサイルがぶつかって爆発を起こす。
俺が下に降りてきたときには通行人は足早にこの近くから逃げていた。
野欠馬も多少は残っているが、それなりの実力者しか残っていないので戦闘に巻き込まれることはないはずだ。
そして建物だが、ここはありがたいことに王都の中でも屈指の高級地なので周りの建物も強力な結界が張られていて爆発で破損などしていない。
これは非常にありがたい。
もしも通常区域で戦闘なんてしていたらその被害は甚大だったはずだ。
時間を追うごとに狂戦士のステータスは上がり続けていく反面、自傷ダメージの量も増えていく。
「くそっ、なんで当たらねぇんだよ」
「もうポーションでの回復が間に合わないよ」
「どうしよう、私も回復に回ったほうがいいかな?」
「いや、そうすればお前たちが狙われる。だいたい四次職とはいえエクスキューショナーがここまで戦えているのがおかしいだろ」
3人の焦りはもう時間が少ないことを示唆している。
このままいけば狂戦士は自滅するだろう。
向こうは俺の職業がエクスキューショナーと勘違いしているようだが、確かにエクスキューショナーはソロ向けの戦闘職とはいえ、4対1を圧倒できるのはおかしいだろうな。
まぁ、ディーがいるので4対2のようなものだが……
それは置いといて、俺の本当の職業の黒の断罪者は相手のカルマ値悪性に応じて戦闘能力が上がっていく。
4人はこれまでもそこそこ悪行を積んできたようだし、俺への攻撃でさらにカルマ値悪性がたまっている。
「ディー、あれをやるぞ」
影から出てきたディーが俺の体を包むように姿を変えた。