79話 復讐の仕返し
狂戦士のTOMOは大剣を振りまわして襲い掛かってくる。
狂戦士という職業は自らが狂乱状態に陥る代わりに全体のステータスを大幅に上昇させることができる。
さらに大司祭ニナのバフも活きているためそのステータスは四次職にも匹敵するほどだ。
「ガァァァァァァァ」
仲間が3人も殺られて怒り狂った狂戦士の雄叫びが街に響く。
怒りのボルテージが上がるほどにステータスも上昇する。
狂戦士が天高く大剣を掲げると魔力が集まっていく。
当たれば俺の紙耐久では3回は殺されるほどの威力。
まあ、当たればの話だがな。
避けるのは簡単だ。
しかし、避けると街に被害がでてしまう。 それは色々と面倒ごとがあって困る。
主に始末書などを書かされて、最悪の場合は賠償金まで払わなければいけない可能性もある。
大剣が振り下ろされようとしたとき、狂戦士の胸を黒槍が貫いた。黒槍は魔力で作られていて仕事を終え霧散していく。
がっぽりと空いた風穴の向こうにディーの姿が見えた。
4人組が二手に分かれた時からディーには片方のペアの監視を任せていた。
背後から隙をついた見事な一撃、ディーの闇槍の威力は相当なものになっている。
それだけでなく他の魔法も成長していて三次職を相手にしても十分立ち回れる。
多大なダメージを受けた狂戦士は狂乱状態が解けて死ぬまでの少しの時間だけ会話ができるようになるる。
「どうして、こんなことを……」
「それが仕事だからだよ」
それを聞いて何かを察したTOMOは顔を顰めながら光の粒子となって消えていった。
俺はとりあえず暗殺を成功したことをバーバラへと伝えた。
それを聞いた彼女の様子はなんとも言えないといった表情。
大体の依頼者はこんな感じだ。
あのパーティの話はもう聞きたくないらしく、バーバラは仕事に没頭するようになった。
バーバラの仕事ぶりは非常に優秀で何日かルティが仕事を教えただけでほとんどのことができるようになった。
部屋に積まれたダンボールは片付いて数名の履歴書以外はゴミ箱行きになり、本来の職業としての力も奮ってくれて武器や防具の手入れをしてくれている。
これは本格的に雇いたいと思うほどでそのうち打診してみよう。
俺はギルマス部屋でくつろぎながら履歴書を眺める。
今日はギルドには俺一人しかいない。
他のメンバーは全員仕事で外に出ているため、静かな時間がゆっくりと過ぎていく。
「三次職、獣騎将軍、前回の大型レイド戦で貢献度3位か」
俺は独り言を呟きながら椅子を揺らす。
獣戦士は体の一部を獣に変化させて、変化させた獣の特徴を活かして戦闘する職業だったはず。
例えば鼻を犬にすれば嗅覚が良くなり、腕をゴリラにすれば腕力は強くなる。他にも足をチーターなんかにすれば素早さが上がる。
尻尾を生やしたり、羽を生やすこともできたはず……
職業としてはかなり珍しい。
獣騎将軍はそんな獣戦士の上位職になる。
一応、前回の大型レイドで活躍しているし、弱くはないんだろうけど……
前回の大型レイドというのは俺にとってはアグスルト戦だが、この人はその一つ下のランクのレイド戦のことなんだよな。
しかも、三次職っていうのもなぁ。
影の館の正式メンバーは全員が四次職で自分としては少数精鋭でいいなと思っていたりする。
三次職でダメというわけでもないが実際に観てみないと分からないか。
獣騎将軍という職業がレアで四次職が解放されていない可能性もある。
意外とこの悩みを持つプレイヤーは少なくないらしい。
特に珍しい職業ほど情報もないため解放条件が分からないのだ。
一般的な職業はの転職もできるが、せっかく珍しい職業になったのなら、次も珍しいものを求めるのが人の性というもの。
とにかくこの獣騎将軍に関しては面接をしてみよう。
さて、次はと……
次の履歴書に手をかけたときにギルドの前の通りで大きな音が聞こえた。
何が起きているかある程度予想がついている。
俺は下の階に降りて扉を開ける。
やはり予想していた通りでTOMO、ヒイロ、ニナ、シャロットの4人がいた。
「やっぱりいやがったな!!」
「テメェのせいでクエストができなくて違約金が発生しただろうが」
あぁ、冒険者ギルドで新しい依頼を受けてたけど時間制限があって強制ログアウトとステータスダウンのペナルティでクエストが行えなかったということか。
こっちには一切関係ないけどね。
プレイヤーは殺してもデスペナの強制ログアウトが終わればすぐにゲームを再開できる。
そうなると何が起きるかというとこのように暗殺の仕返しにくるのだ。
もちろん復讐システムは作動しないが、そんなことお構いなしで攻撃してくる。
向こうからすれば一方的に殺されたのだから復讐してもいいと思っている。
まぁ、復讐代行なんてうちのギルド以外で聞いたこともないし、あまり知られていないのだろう。
「一応断っておくけど、そちらがここで踵を帰すならこちらからは何もしない」
まぁ、ギルドが数発攻撃を受けたけど高性能の結界が張られているので問題はない。
「でも、これ以上戦闘行為を続けるのならこちらも相応の対応をせざるをえない」
俺はナイフを構える。
「先に仕掛けてきたのはそっちだろうが」
TOMOがヒートアップして大剣を構えると、後ろの3人も戦闘態勢に入った。




