78話 復讐代行
暗殺に必要な情報を集める。
俺は王都を出てモンスターを狩りに行く4人のターゲットを発見した。
気配を消し後をつけて、戦闘をじっくりと観察する。
ターゲットの職業、 ステータス、装備、 アイテム、性格や行動から、まず暗殺が可能かを判断する。
もちろん無理そうなら依頼は断るしかない。
俺よりも強者なんて腐るほど存在している。
そして今回のようにターゲットが複数でパーティを組んでいるとなると暗殺の難易度が上がる。
概ねの情報は今回の依頼人であるバーバラから聞いているが、やはり直接確認するのが一番である。
リーダーの男の名前は『TOMO』、三次職狂戦士。
もう一人の男が 『ヒイロ』、三次職重装砲兵。
女性の一人が『ニナ』三次職大司祭。
最後の1人が『シャロット』三次職上級薬師。
見る限りでは暗殺に問題はなさそうだ。
偵察を終えてギルドへ戻ると仕事を終えて一旦帰ってきていたギルドメンバーのジャックから話しかけられる。
「マスター、新しい仕事が入ったって聞いたよ。手伝おうか?」
「ジャックお疲れ。そっちの仕事が終わりそうなら手伝ってもらおうかな」
「うーん、まだもう少しかかりそう。 あいつら逃げ足だけは早くてさ」
現在、ジャックが受けている依頼はとある盗賊団の捕縛依頼。
『|影の館シャドーハウス』は暗殺ギルトだが、暗殺依頼は意外と少なく、 犯罪者の捕縛やモンスターの討伐などの方が多い。
「俺一人でも大丈夫だよ、それほど難しくなさそうな依頼だし」
三次職が4人、しかも生産職と後衛職が1人ずつで火力のある二人も問題ない。
俺一人で十分に対処できる依頼と判断する。
もちろん三次職でも四次職に匹敵する力を持つプレイヤーだっている。
ルキファナス・オンラインでは単純にステータスや職業などでは優劣をつけるのは難しい。
そのために直接ターゲットを確認しに行ったのだ。
夜の街を歩く。
多くの人で賑わい、飲食店はどこも満席の大繁盛。
そのうちの一つの店に入り、ごく自然に席について軽めの料理を注文した。
今では普通の店でもお酒が飲めて酔うこともできるが今は仕事中なので控える。
俺の目の先にはターゲットの4人がクエスト成功の打ち上げをしている。
店を出た4人は2組に分かれて移動を開始するのだが、どう動くかは既にリサーチ済みで今夜暗殺を決行する。
まずはヒイロとシャロットのペアの後をつけて、人混みの少ない通りに入ったところで話しかける。
「すみません。ちょっといいですか?」
「あぁ!? なんだよ、こっちはこれからお楽しみなんだぞ」
顔を赤くして完全に酔っ払っているヒイロを支えるようにシャロットが肩を持っている。
近づいて一閃。
ヒイロの首を斬り落とす。
重装砲兵は重量のある銃火器をメインウェポンにしていて、火力、射程が高く殲滅力はかなりのもので、さらに防御力も高いときている。
しかし、装備の重量がかなりあって移動速度が遅い。
こういった重装備の職業は街中では装備が邪魔になるので多くがサブ装備や私服のような戦闘には不向きな装備に着替える。
ヒイロもサブ装備に着替えていたし、メインウェポンはアイテムボックスに入れていた。
フル装備でここが王都の中心でなければそこそこの勝負ができたかもしれないが、今の状態では相手にもならない。
何が起きたか分からず呆然と落ちた首を眺めるシャロットはようやく俺が何をしたか理解できたようで腰につけていた護身用のナイフを手に持つ。
「あんた、王都でこんなことしていいと思ってんの!?」
王都で犯罪を行えば衛兵が動く上に通常時よりもカルマ値の悪性が高くつく。
恐らくそのことをシャロットは言っているのだろう。
だが、暗殺ギルドが暗殺依頼を受けれて他のギルドが受けないのには訳がある。
暗殺ギルドが依頼を受領すれば依頼者からターゲットに溜まったカルマ値を依頼遂行者に移行できる。
他のギルドが暗殺を受けて実行すると、ギルド側が他者を一方的に攻撃したとみなされてギルドはペナルティを受けてしまう。
そういったペナルティを受けなくて済むのが『|影の館シャドーハウス』のもう一つの権限の一つである、復讐代行だ。
「どうにもならないよ」
戦闘職ではないシャロットに俺の動きは追えず、簡単に背後へ移動して首を掻っ切った。
そして次のターゲットの元へと向かう。
場所は把握している。
人通りの少ない場所にはいるが随分と警戒しているな。
シャロットが死に際に連絡をしていたようだ。
ここは改善点と言えるだろう。
まぁ、関係ないけどね。
まずは、ヒーラーのニナから落とすか。
俺は屋根の上から二人を確認して、足に力を込める。
防御を上げるバフをかけてたみたいだが速度を上げた俺から放たれる小刀『宵闇』の黒き一閃は防げない。
ニナの首がコロンと落ちて、俺が地面に着地すると同時に大剣が振り下ろされる。
軽く回避すると、地面が大きく割れる。
重量のある大剣を片手で軽々と振りまわし、邪悪なオーラを纏った狂戦士。




