75話 世紀の大怪盗
王都の高級住宅が並ぶ区画に一際異彩を放つ建物が一棟。
暗殺ギルド影の館の本拠地では全員が依頼を終えたことを祝して打ち上げが行われていた。
リオンとジャックは見事に悪魔ルキの討伐を終えて高額な依頼料をチャリック市長から貰い受け、さらに討伐時のドロップでも最高の結果だったと言える。
ルティとオウカもオークの群れの殲滅を終え、こちらも依頼料とさらにドロップでウハウハと言える。
完璧すぎる結果で終えた2組に対して俺は少し立つ瀬がない。
別に依頼を失敗したわけでもなく、完璧にこなしはしたのだが、2組の死闘を聞いていると自分の依頼があまりにも軽く見えた。
俺の依頼は王都を中心に多くの盗みを働いて多大な被害を起こしているプレイヤーの暗殺だった。
このプレイヤーは四次職でかなりの苦戦を覚悟していたのだが……
俺の気持ちを返してほしい。
世紀の大怪盗という職業は聞くからに盗みに特化しているというのは分かる。
しかし、リオンの稀代の大義賊も盗みに特化していながらそこそこの戦闘力を持っている。
世紀の大怪盗の正体はルブランというプレイヤーだった。
俺は盗みを終えたルブランの後をつけて、油断したところを斬りかかった。
黒の一閃が避けられても驚きはしない。
むしろそこからの戦闘に気合を入れて警戒をした。
対面した俺を相手にルブランがいの一番にとった行動は逃走だった。
煙玉を投げつけてこちらの視界を奪ってくる算段だっただろうが、俺には効かない。
さらにかなりの速度で屋根の上を駆けていくルブランを俺は余力を残しながら警戒して追跡した。
追ってる最中に罠などが張られていてそこに誘い込まれる可能性があったからだ。
追えども追えども罠らしきものは出てこないし、かといって反撃をしてくる様子も見られない。
なぜここまで警戒するかというとルブランが罠関係のスキルを持っていると聞いていたから。
ルブランは屋根から降りて二股の道を右の行き止まりの方を選択した。
だが俺には分かっている。
これは幻影で本物のルブランは左の道を選択した事を。
さらに追っているとルブランは鉄格子で行き止まりになっている路地に入って行った。
ここは警備のために夜中は閉じられる。
鉄格子の前でルブランは跳躍して再び横の屋根に飛び乗った。
鉄格子は警備のためといっているが簡単に越えることができるし、破壊も割と簡単にできる。
他にも侵入方法は多数あって四次職からすればそれは行き止まりではない。
あえてルブランが鉄格子を飛び越えて先に逃げずに横の屋根に乗ったかというとこれが幻影だからだ。
そして本物のルブランはその場で突如消えた。
といってもシャドウダイブで影に潜って鉄格子を下から潜って先へ向かっているのが丸分かりだ。
俺もシャドウダイブで追跡することにした。
ルブランは少し潜って、シャドウダイブでないと入れないような隙間からとある倉庫に入って影から出た。
「はぁ、はぁ、くそっ、なんなんだよあいつは……」
「これで鬼ごっこは終わりか」
「っ!? バカなどこから?」
ルブランは声のする方を探してキョロキョロするが俺の姿は認識できてないようだ。
影から姿を表すとルブランは腰を抜かして驚く。
「バカなっ、おっお前も首飾りを持ってるのか?」
「なんのことか分からないけど……」
ナイフを構える俺の姿を見てルブランは観念したようだった。
「くっ、くそがぁぁぁぁぁぁーーー」
あまりにも遅い拳。
本人も気づかぬうちに首を斬り落とされたルブランは粒子に変わる。
ルキファナス・オンラインでは迷惑行為をしても痛手はなかった。
復讐システムが適用されれば多少のマイナスは出るものの、それでも迷惑行為をしたプレイヤーには雀の涙ほどのマイナスでしかない。
これでは迷惑行為をするプレイヤーは後を経たず、そこで新たに導入されたのが監獄システムだ。
監獄システムはカルマ値悪性が一定以上の人間がデスペナルティとなったときにリスポーン地点を強制的に書き換えて監獄へ収容するシステム。
収容期間はカルマ値が参照される。
このルブランも監獄システムが適用されるほどの悪性が溜まっている。
監獄システム適用時は死亡演出が通常とは違うのですぐにわかる。
通常は光の粒子となって霧散していくのだが、今回は黒の粒子だった。
こうしてギルドでの初依頼は特に苦労することもなく終わってしまったのだ。
「クロツキ、祝いの席で何を暗い顔してんだよ飲もうぜ!!」
リオンが顔を赤くして千鳥足で俺の手を引っ張る。
まぁ、全員が無事に依頼をこなしたんだし気にしないでおくか。
§
ルブランはデスペナ後に自分のリスポーン地点に驚きを隠せなかった。
「まさか、ここは監獄か……」
盗みしかしていないのに監獄に送られるなんて。
「おいっ、新人!! とっととこっちにこいや」
見るからに凶悪顔の男に呼ばれる。
呼ばれた先に行くと看守が待っていて、監獄のルールを説明される。
使いっ走りのように扱われていたのはルキファナス・オンラインでも悪名高きイーブルだった。
あのイーブルが使いっ走りにされる監獄に後退りをしてしまうが、ルブランは追跡されている時のあの骸骨の方が恐ろしいことを思い出した。
今までも数多のプレイヤーを出し抜き、王国近衛兵から逃走を繰り返していたルブランは自信があった。
盗みと逃走に全振りしたようなスキル構成に装備、アイテムさえあれば盗めないものはないし捕まることもないはずだった。
殺された日を思い出す。
あの日も完璧に盗みを終えてあとは逃げるだけだった。
システム上アイテムボックスを使うことができないアイテムは多数存在する。
特に盗みなどで手に入れたアイテムや建造物の一部などは基本的にアイテムボックスは使用できず、自らの手で持ち運ばなければいけない。
しかし、世紀の大怪盗ならば制限はあるものの、盗んだものでも格納することができるスキルを持っていた。
通常のアイテムボックスと違うのは死んでしまえば格納していたアイテムがドロップしてしまう。
そのためホームまで死ぬことなく帰る必要があるのだがあの骸骨に目をつけられた。
煙玉を使って全力で逃げた。
あの骸骨は気にせずにこちらを追いかけてきていた。
まぁ、そこまで効くとは思っていなかったが、まさか一切の迷いもないとは少しだけ驚いたな。
そして次に幻影を出して別方向へ行くように見せたはずだったがこれにも骸骨は騙されなかった。
これが効かない相手は初めてだったな。
なぜ見破られたのかはいまだに謎だ。
そして極めつけは奴も影に潜れたことだ。
潜影の首飾りは一度使えば砕けて二度と使用できなくなる消費アイテムなのだが一定時間影に潜ることができる。
値段が馬鹿みたいに高いため滅多に使わないのだが失敗だった。
やられるなら別のところでやられるべきだった。
隠れ家が近くシャドウダイブで隠れ家に帰ってしまい、隠れ家が骸骨にバレてしまった。
結構溜め込んだお宝は回収されてしまうだろう。
「ある作戦に乗る気はないか?」
ガックシと肩を落としたルブランにイーブルが寄ってきて話を持ちかけた。




