71話 盗人猛々しく
「やっと来てくれたみたいだな」
「そうですね」
リオンとジャックがテントで夜を迎えようとしていた時、テントの周りを囲む不穏な影を捉えた。
待ってましたとばかりにリオンはテントから出て戦闘態勢に入る。
ジャックも遅れてテントから出る。
「生命を吸収する『ライフイーター』みたいですね。悪魔の手先としてよく使役されるモンスターです」
「ふん、要は雑魚なんだろ」
巨大なククリ刀を構えるリオン、ジャックは手袋をするだけでナイフは持っていない。
ライフイーターはゴブリンに翼が生えて黒い肌をしているモンスター。
ゴブリンは邪悪なかおをしているがこのライフイーター達は無表情。
ただただ生命を求めてそれを吸い取るだけの存在。
リオンがククリ刀を振るうたびに小柄なライフイーター達はスパスパと斬られていく。
しかし、それでも構わずにライフイーターはリオンに近づこうとする。
ライフイーターに感情はなく恐怖もない。
一匹がリオンの足にくっついて生命を吸収しようとする。
「私から盗もうだなんて、いい度胸じゃないかっ!!」
この地域一帯の生命が枯れたのは大量のライフイーターの影響である。
人間がライフイーターに生命を吸われれば少しの倦怠感を覚えるだろう。
その程度なのだ。
一匹のライフイーターの吸える生命の限界量は決まっていて、そこまで多くはない。
しかし、それが十匹、百匹と増えればその脅威度は計り知れない。
生命を吸われ動けなくなった生き物にも容赦なくライフイーターは襲いかかる。
リオンの足にくっついたライフイーターは生命を吸おうとした瞬間に力が抜けるのを感じた。
逆に自分の生命が吸われたかのような感覚。
それははじめての感覚だった。
同じ悪魔から生まれたライフイーター達はある程度の感覚を共有している。
全てのライフイーターが生命を逆に吸われる感覚を共有した。
リオンに生命を吸収するようなスキルはない。
あるとすればスキルを盗むスキルだろうか。
生命吸収のスキルを盗まれたライフイーターは生命吸収を使えずに逆に生命吸収を使われることになったのだ。
動きの鈍ったライフイーターにジャックは攻撃を仕掛ける。
ジャックが指を動かすたびに遠く離れたライフイーターが切り刻まれていく。
闇夜で微かな月光がそれを照らす。
糸が意思を持ったかのようにライフイーターに絡みつく。
もちろん全てジャックの技量のなせる技である。
全てのライフイーターを処理すると一人の男が二人の元へ歩いてくる。
ただの人間である訳がなく、背中には翼、腰から尻尾が出ている。
特に正体を隠す気もないようだ。
「ちぇっ、もう少し待っていてくれればよかったんだけど……」
ルキは苦虫を潰したような表情を見せる。
「やっと出てきたか悪魔!!」
「気を付けてくださいリオンさん、今までの相手とは違いますよ」
「そこの坊やはチャリックにいたね、そっちの人ははじめて見た……どちらにせよラフェグ様を倒したあの男でないならば、別に問題もない」
「はぁ、舐めんじゃあねぇ!!」
リオンは大きく跳躍してククリ刀を振り下ろす。
ルキは軽々と腕で防ぎ、もう一つの腕で攻撃しようとするが糸が絡みつく。
しかし、ライフイーターと違い、簡単には傷はつかない。
ルキは力尽くで糸を引きちぎる。
「ふーん、少しはやるみたいだね」
リオンは適当に攻撃しているように見えて実はルキの実力を測ろうとしていた。
まずはどのような能力があるのか?
ステータスはどの程度なのか?
悪魔は武器を扱うのか?
それらによってリオンの戦闘スタイルは変わってくる。
戦闘中に使用できる盗みのスキルは主に3つある。
しかし、一戦闘中にどれか一つだけしか使うことができない。
使い所を誤るとリオンの職業によるメリットがほぼほぼ消え去ることになる。
さらに、使用するための条件もある。
まず、レベル差は重要になる。
相手が格上だと一気に難易度が上がり、失敗の確率が高くなる。
失敗しても一度成功するまでスキルは使用できるが少しの時間を置かないと再使用できない。
成功率にはレベル差以外にもどれだけ相手の情報を持っているかでも変わる。
ウェポンスティールは装備品を盗むことができる。
装備品のランクと盗みたい装備品の詳細を知っていれば成功率は上がる。
ステータススティールはステータスの一つを盗む。
相手にとってそのステータスが高いかどうかとステータスの詳細を知っているかどうか。
スキルスティールはスキルを盗む。
先程のライフイーターに使ったスキルだ。
スキルのランクと詳細を知っているかどうか。
どの盗みを選択するにしても情報というのは非常に重要であり必要だ。
ジャックもそのことは理解していてルキから情報を出させるように攻撃を仕掛ける。
糸による無数の斬撃もルキは全て腕で防ぐ。
背後からのリオンの薙ぎ払いは尻尾で防がれた。
どれも軽々と防ぐルキだがどこか余裕をなさそうにしていることに二人は気づいている。
そして気づかれていることにルキは気付いている。
「仕方ないですね……」
ルキが懐から取り出した石のような塊は禍々しい魔力を秘めていた。
それをルキが口にした瞬間、一気にどす黒い魔力がルキを中心に放たれて収束していく。
「素晴らしい……これがラフェグ様の感覚なのか、いや俺はラフェグを超える存在になる」
ルキが二人を見る鋭い眼光からは先ほどまでとは比べ物にならないほどの圧力が込められていた。