7話 裏道
どんよりとした気持ちでセバスさんの前に立つ。
俺は全てを話しました。
一角ウサギ、紫森蛇、キルされたこと、初心者ナイフが盗まれたことなど。
「素晴らしいではないですか、紫森蛇を倒せるとは思いませんでした」
「でも、初心者ナイフを盗まれた上にキルまでされたんですよ」
「クロツキ様はどうされたいんですか?」
「仕返しはしたいとは思ってますが、手立てがありません。とりあえずレベルが上限になったので転職を考えています」
セバスさんは俺が殺されたというのにどことなく嬉しそうだ。
「相手にはカルマ値悪性も溜まっているでしょうし、早速ですが暗殺の準備に取り掛かりましょう」
「えっ……!?」
驚いたのは現地人のセバスさんからカルマ値の話が出たからだ。
ということは隠れステータスのカルマ値は実在するで確定だ。
俺はセバスさんにカルマ値について詳しく聞くことにした。
概ね、まとめサイトで見た情報と一致している。
新たな発見はカルマ値が時間経過で徐々にだが減少していくということ。
セバスさんは有無を言わさずに早口でカルマ値の説明をすると準備を始めて、俺はセバスさんに再び指導を受けることとなった。
暗器使いの本来の戦い方を……
-転職クエスト-
『執事の嗜み2』をクリアしました。
暗器使い(仮)を暗器使いへと転職します。
-暗器使い-
DEXとAGIが成長しやすく補正がかかります。
重量の軽い武器の取り扱いが得意。
初期スキル:『暗器術』『夜目』
暗器術は既に獲得していたため『影の小窓』へとランクアップしました。
暗器術がランクアップして影の小窓なるスキルを獲得した。
暗器術は設定した武器を身につけていないといけなかったが、こちらはアイテムボックスとは別の空間へと収納しておけて、発動と同時に武器スロットの武器と入れ替えることができる。
夜目はパッシブスキルといって、常時発動型のスキルで視界が悪くても通常時に近い状態の視界を維持してくれる。
「クロツキ様、おめでとうございます」
セバスさんが転職した俺へ賛辞の言葉をかけてくれる。
「ありがとうございます」
「貸していたダガーナイフなんですが……」
そういえばダガーナイフを返してしまうと俺は武器がなくなってしまう。
「お譲りします。そのままお使いくださいませ」
「いいんですか」
「えぇ、武器がなくては困るでしょう。復讐の成功率を上げるためにも良い武器が必要ですから」
「ありがとうございます」
これはリオンに感謝しなければいけないな。
ダガーナイフが手に入ってしまった。
次こそは殺されないように気をつけなければ。
「それからここに行ってみてください。私も時々使用する情報屋です。相手の場所を教えてくれるかもしれません。それに教えた暗器術の武器の調達もここならできるでしょう」
これは願ったり叶ったりの店じゃないか。
そもそもキルしたプレイヤーを探すのが最も難しい。
どこにいるかの情報は非常に有用だ。
§
セバスさん、本当にここで合ってますか?
俺はセバスさんに教えられた店へ向かっている。
マップに記された店へ行くにはここを通るしかない。
しかし、この道へ近づく人間はいなかった。
なのに、この通りは賑わっている。
堅気ではないであろう裏の住人達が跋扈している。
スキンヘッドで片目が潰れた人や、腕に刺青を入れてるが傷だらけでなんの模様か分からない人など。
女性は妖艶すぎて目のやり場に困るな。
目が合うたびに睨まれる。
肉食獣の檻に羊一匹の気分だ。
早足で目的地へと向かう。
その時はとうとうやってきた。
「おいおい、誰の許可を得てここを通ってんだ?」
なんだこの男の格好は。
男の後ろからもゾロゾロとこちらへ近づいてきてる。
肩口が破られていて、肩にトゲトゲが乗っかっている。
全員が剣やナイフで武装しているのにイマイチ緊張感がない。
「ちょっと用事がありまして……」
「そうか、ここを堅気が通りたけりゃ通行料がいるんだよ」
男はサーベルを振り下ろしてくる。
しかし、随分とゆっくりした攻撃だ。
俺は軽く躱して首元にナイフを当てる。
「ひっ、いつのまに」
男に俺の動きは見えなかったようだ。
しかし、困った。戦闘は出来るだけ避けたいのだが……
目の前の変な格好の奴らは弱そうだが、見物してる人間の中に俺よりも格上そうなのが何人もいる。
所詮、俺はまだレベル10の初心者なのだ。
「あんたら何を騒いでんのさ」
店の中から魔女みたいな老婆が出てきた。
後ろにヤバそうなクマみたいな体格の男を連れている。
「セン婆さん、俺は堅気がウロウロしてたから注意しただけだぜ」
「小銭稼ぎで殺されたら世話ないね、あんた悪いが離してやってくれないか」
俺は突きつけたダガーナイフを下ろした。
「なんの用があってこんなとこにやってきたんだい? ここはそいつが言うように堅気が気軽に通っていい道じゃないさね」
「情報屋に用があってきました」
「ここに情報屋は一軒しかないよ。それに表向きは情報屋じゃない。誰に聞いて来たんだい」
セバスさんのことを話してもいいのか?
でも、何かあったら名前を出してもいいって言ってたしな。
「セバスチャンという人物に聞いてきました」
「ヒッヒッヒッ、執事のセバスかい?」
どうやら知り合いのようだ。
「げっ、兄さん悪かったな、じゃあな」
さっきまでの男たちは逃げるように何処かへ行ってしまった。
見物人達までも蜘蛛の子を散らすように消えていく。
セバスさんとは一体何者なのだ。