69話 暗殺ギルドにまともな人間など……
ルーのマシンガントークはとどまることなくギルド拠点の説明は続けられる。
「1階の半分は公共スペースになっています」
拡張魔法の施された室内は広々としていて、中央に受付カウンターがあり、壁沿いには談話スペースとしてなのかいくつかの丸机とそれを囲うようにイスが設置されている。
公共用トイレがあって、応接室が2つ一階には用意されている。
「受付カウンターの後ろの部屋は資料保管庫車になっていて、こちらも厳重に守られています」
なんだか役所のような作りだが決して5人で運営できるような規模ではない。
これは早急に事務員を雇う必要があると感じた。
プレイヤーだとどうしてもリアルでの用事があったりするため長時間抜ける可能性が考えられるので、現地人を雇えるというのであれば事務員には現地人を当てたい。
「地下は2階までございまして、何用にするのかはおいおい決めていけばいいとジャンヌ様はおっしゃっていました。耐久性はこの建物で最も高いので最重要保管庫にしたり、危険物取り扱いに使用したり、よくある話だと訓練室に使ったりされるのがいいかと思います」
地下1階も2階も同じ大きさと作りで白い部屋が広がっていて、シュバルツ城にあった訓練室と似た作りになっている。
俺の考えとしては訓練室でいいと思っている。
シュバルツ城の訓練室が便利すぎたのであれを目標にしたいところだ。
そして、できればあの透明な球の入手方法を知りたいところだな。
「2階は従業員スペースになっています。 従業員のための更衣室や倉庫、 簡易的な宿泊スペース、会議室などが設けられています」
既に必要そうな家具もすべて揃っていて至れり尽くせりの整備がされている。
王都にある俺が手が出せそうな一般的なホームの内覧をしたことがあるが雲泥の差だ。
この設備を使用できる権利だけでもギルドに入る価値があるかもしれない。
「3階はギルドマスター室となっています」
3階の廊下には赤の高級マットが敷かれそこを進むと重厚な黒色を基に金の装飾がこれでもかと光り輝く扉が見えてくる。
少し重さを感じる扉を開くと超高級スイートルーム……
これがギルドマスター室っておかしすぎだろ。
一人でこれを独占してたら他のギルドメンバーから恨みをかって余計な火種を抱えてしまう。
幸いなことに部屋はいくつかあるし、活用方法を考えよう。
俺は本当にこじんまりとした部屋で十分なのだ。
こんな訳の分からないベッドで眠れるか!!
色はシックな感じだが天蓋付きのベッドなんて俺は王族じゃないんだぞ、一般人にはレベルが高すぎる。
一応全階層の説明を聞き終えた感想としては、豪華すぎるとかいう部分に関しては慣れの問題なのでいいとして、問題はやはり5人での運営は難しいという結論に落ち着く。
どの程度依頼が来るのか分からないが人数はもう少し欲しい。
特に事務員は早急に必要だ。
まず受付をしてくれないと誰かが無駄な時間を過ごさなければいけなくなる。
ルーを通じてジャンヌに事務員の募集を頼む。
§
結果は惨敗だった。
完全に忘れていたがこのギルドは暗殺ギルドだった。
募集を出してから一週間、待てども待てどもくるのは見た目からヤバそうな人間ばかり。
まともそうな人間は調べて見ると実は裏の人間だったりと事務員なんて程遠い。
暗殺ギルドで働こうとする人間でまともなやつなんていないようだった。
募集を出すと同時に依頼の受付もしているが暗殺依頼はまだきていない。
しかし、他の依頼ならちょこちょこきて俺以外は割と忙しそうにしている。
俺も行こうとしたんだがギルドマスターはどんと座ってろと言われ待ってるところだ。
オウカとルティは東の山に巣食っているオークの群れを狩りにいっている。
結構な数がいるらしく殲滅戦の得意な二人が行くことになった。
リオンとジャックは街に潜む悪魔を狩りにいった。
依頼主はチャリック市長で、リオンは悪魔狩りをしてみたいとジャックについて行った。
何故か俺だけ仲間外れなのだ……
この広い空間では静寂が音を放つかのような静けさ。
一人暇を持て余していると、シュバルツの宛名の手紙が届いた。
手紙というのは初めてだな。
警戒をしながら中身を確認する。
手紙には「ハッハッハ、どうせ暇を持て余しておるだろうから依頼をしてやろう。受けるかどうかはそちらで決めてもらって結構だ」と書かれており最後の宛名にジャンヌの名前があった。
手紙と一緒に同封されていたもう一枚の紙を見ると一人の暗殺リスト。
その者の詳細と何をしたかが書かれている。
これを見て受けるかどうかを決めろということか……
まぁ、やっても問題はないと思うな。
書かれている内容が明らかにやりすぎなプレイヤーだった。
王都を中心に各地で盗みを働き、その被害総額がとんでもないことになっている。
受けるのはいいが、手紙でどうやって依頼を受領するんだ。
仕方なくセバスさんに連絡しようとしたした時に1階の受付のベルが鳴らされる。
その音はギルドマスター室にいる俺にも届く。
受付がいないのでベルを取り付けギルド内にいればどこにいてもその音が聞こえるようにしてある。
下へ降りていくとそこにはルーがいた。
「どうも、お久しぶりです。今日はジャンヌ様の依頼の受領についてお話を聞きにきました」
なんとも待ち構えていたかのようなタイミングだが、シュバルツ家のこういうところには触れないことにしようと決めている。
俺はルーに受領すると伝えて暗殺の準備に取り掛かることにした。
初の暗殺依頼で失敗するわけにはいかない。




