68話 シャドーハウス
ジャンヌの指差したのは俺?
ではなく、俺の後ろにいたジャック?
「ジャック? ジャックもギルドに参加できるのか」
ギルドメンバーになるための条件はないが、 それはプレイヤーだけだと思っていた。
まさか現地人もギルドに参加できるとは……
さすがはルキファナス・オンライン、自由度の高さを見せてくれる。
本当に顔見知りばかり集まった形でこのメンバーなら特に気を遣わすに済みそうだ。
ジャンヌは俺を驚かそうとしていたようだが、残念ながらオウカの参加の方が衝撃は強かった。
「初めましてジャックといいます」
ジャックがロ火を切って挨拶をする。
幼く整った中性的な顔立ちで編されそうだが、悪魔を狩りまくっている暗殺者だ。
直接、戦闘したからこそ分かるが、その実力はかなりのものだ。
さらに、セバスさんに鍛えてもらっていることを考えればさらに力をつけている。
「リオンだ。よろしく」
ルティの妹で珍しい職業の義賊だったリオン。
戦闘スタイルは近接メインの強気いけいけタイプ。
義賊のスキルを使用してバフを撒いていたがどう成長したか楽しみだ。
「ルティです。よろしくお願いします」
リオンの姉でこちらも珍しい職業の黒巫女だ。
戦闘スタイルは後方からの遠距離魔法攻撃。
このギルドで唯一の後衛タイプ魔法使い職になる。
「オウカ、よろしく」
オウカは戦闘スタイルが独特で職業的にはタンクになるはずなんだが、スキルが巨大な鎧を顕現させて自らは動けなくなってしまうものなので連携を取るのが難しいかもしれない。
わざわざ修羅からこちらのギルドへ来てくれた。
少しの静寂が訪れて全員の目が俺に向く。
ああ、俺の番か!!
完全に他人事で油断していた。
「ギルドマスターになるクロツキです。 迷惑をかけることもあると思いますが、 なるべく頑張りますのでよろしくお願いします」
ちょっと業務的な挨拶だったかな。
何も準備していなくてこれしか出なかった。
「クロツキ、ギルドの名前は何にするんじゃ?」
名前を考えておけと言われていたので準備はしている。
しかし、これでいいのか、受け入れてくれるのか。
一筋の不安を抱きつつも俺はギルド名を発表する。
「『影の館』で行こうと思う。どうだろうか?」
ギルドにはいくつか種類がある。
それによってギルド権限が与えらたりするので、ギルドメンバーはそこを精査して入るかどうかを決めたりするらしい。
今回は例外で作る前からメンバーが決まっていたが……
ジャンヌにこのギルドの主な目的を聞いたときは驚きましたが、シュバルツ家や俺の職業を考えればしっくりくる。
暗殺ギルド『影の館』。
依頼を受けて暗殺をこなすダーティなギルド。
特に否定的な声は出ずになんとか認めてもらえたようだ。
紹介も終えて俺たちはギルドハウスのある王都へと向かう。
ドラゴンに乗った空の旅も慣れたものだ。
送ってくれるのはストルフさんで、いつもは背中に乗せてもらっていたが、人数が多いため籠をドラゴンが持ってそこに俺たちは乗り込む。
こんな移動手段として簡単にドラゴンを出してもらって申し訳なく思ってしまう。
経験のない4人の反応はまちまちで、リオンとジャックは目を輝かせていて、反対にルティは少し怯えている。
オウカは割と普通の反応だった。
王都に着くとストルフさんからフットマンのルーにタッチしてギルドハウスまで案内をしてもらう。
歩く道が不安になるようなほど豪華絢爛なものばかりで、人生の勝ち組が集結したかのような場所だ。
王都ではグローリロードも栄えていて豪華絢爛な店の数々が並んでいたが、こちらはもう少し静かで厳かな雰囲気の漂う住宅街といったところか。
こんな中でやっていけるのかと思ってしまう。
しかし、そんな不安も吹っ飛ぶ思いをすぐにすることになる。
「こちらが暗殺ギルド『影の館』の本拠地になります。
このやっていけるかと不安になっていた区画で最も異彩を放っていた三階建ての建物。
外壁は重厚な黒で染められていて見るからに高そうな装飾が散りばめられている。
「ここ?」
「そうでございます。ジャンヌ様曰く、王族の住居にも負けない性能を誇るとのことです」
そこから俺は圧倒されすぎてひたすらにルーの説明を聞くだけのカカシとかした。
「まずは防衛機能ですが、超高性能の結界が張られていて大型ドラゴンのブレスなら簡単に弾くほどです。さらに、営業外の時間は外敵の侵入を検知して自動で攻撃を行うようになっております。設定は後ほど変更できます」
大型ドラゴンのブレスを軽々と防ぐってどんだけだよ。
でもないよりはあった方が絶対にいいからな。
これはありがたい。
「中は魔法技術によって空間拡張されていますので外観よりも数倍は広くなっています」
外観だけでも十分広く見えたのに中はさらに広いとかどうなってんだ。
5人ではあまりにも広い。
お客さんがいたとしても手に余る広さだ。




