64話 断罪者
ギルドの話は一旦置いておいて問題は転職クエストですよ。
俺は三次職暗殺者なわけだが次の職業は一体何なのか気になる。
三次職までは割とありきたりな職業が多く、他のプレイヤーとよく被ったりする。
しかし、四次職からは個性が出てきて、聞き慣れない職業が増えてくる。
それもそのはずで職業というのはプレイヤーのゲームの楽しみ方によって変わってくる。
三次職までではプレイ時間がまだまだ足りず一人一人の個性が反映しきっていないといえる。
四次職からがルキファナス・オンラインのスタートといっても過言ではないと何かの記事で読んだ覚えがある。
-転職クエスト-
ジャンヌへの報告が完了しました。
黒の断罪者へと転職します。
うん、全く聞いたこともない職業だが、ある程度の予想はつく。
恐らくシュバルツ家関連の職業なんだろう。
「ジャンヌ、黒の断罪者っていうのはなんなの?」
「それは、超ウルトラスーパーレアな職業だ」
「いや、どういう特徴があるとかさ……」
「まぁ、今までと大して変わらんだろうな。カルマ値を参照に能力値が上限するといったところかの。それからジャックとパーティを組んで職業が何になっているのかを見てもらうといい」
どういうことだ?
パーティに入れば仲間の職業も見ることができるが普通に黒の断罪者になるんじゃないのか。
とりあえずは言われた通りにジャックとパーティを組む。
「ジャック、俺の職業はどう見える?」
「エクスキューショナーになってるよ」
エクスキューショナー?
処刑執行者のことだな。意味で言うと断罪者と近いような気もするが……
「そのように、他者には本当の職業が見えないようになっておるのであまり他言はしすぎないようにな」
普段のおちゃらけた雰囲気とは一転、釘を刺す一言には重みがある。
「分かりました」
「ではそんなスーパーでウルトラでハイパーな職業についてを学びたいだろう。こちらとしてもその職業についた者が不甲斐ないのでは困る。セバス!!」
また一転して、ジャンヌが笑みを一つ溢すと、空気が軽くなる。
「では私めがクロツキ様に指導をさせていただきますがよろしいですか?」
「これを乗り越えればスーパーなギルドが手に入るので精進するのだ」
こちらとしても指導してくれるのはありがたい話だ。
しかもギルドまで用意してくれるのだから断るわけもない。
「お願いします」
頭を下げた瞬間に庭で大きな爆発音が聞こえ、そのすぐ後、女性の大声が響く。
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
真っ赤な長髪をなびかせる女性が赤と黒の混じる鎧を身につけて空から降ってきた……!?
庭の一部が落下の衝撃で大きく陥没している。
しかし、女性は無傷のようで何事もなかったかのように平然とこちらへ歩いてくる。
ジャンヌとセバスさん、その他の使用人の様子を見るにシュバルツ家の関係者であることは明白。
「サンドラ、またお嬢様の前ではしたない真似を……」
「爺さんは黙ってな」
女性は背中に黒と赤の槍を一本ずつ背負っている。
そのうちの赤の槍を抜いてセバスさんに向けた。
「お嬢様、申し訳ありません。私の教育不足でございます。クロツキ様、ジャック様も大変申し訳ありません」
セバスさんは向けられた槍を気にもせずに恭しく頭を下げる。
「気にするなセバス。我はサンドラのそういうところが気に入っておる。クロツキ、紹介しよう執事のサンドラじゃ」
サンドラはこっちをめちゃくちゃ睨んできてる。
「ところでサンドラは何用できたんじゃ」
「ジャンヌ様と爺さんが気にかけている男がいるとストルフから聞いて是非挨拶をと思いましてね」
挨拶という雰囲気は一切感じられない。
むしろ殺気だだ漏れで恐怖しかないです。
「そうか、そうか、新たな断罪者のクロツキじゃ」
「ハァァァァァァ、くそっ、もう転職したってことですか。一足遅かった……」
サンドラは俺の職業を聞いて地団駄を踏む。
「サンドラ、お嬢様の決定に不満があるのか?」
「いーや、そんな訳があるはずもない。しかし、断罪者に選ばれる実力は是非知りたい。もしも、足りてないなら何度殺してでも相応の実力に引き上げなきゃダメだろ」
「ですから、そのための指導を今から行おうと思っていたところであなたが横から入ってきたのでしょう」
あの温厚なセバスさんがサンドラには強く当たる。
なかなか見れない光景だ。
そして会話の所々に怪しいワードが盛り込まれているが何がなんだか頭がパンクしそうだ。
「その役目、私に代わってもらおう」
「ハァ……」
セバスさんはジャンヌを見る。
「よい、クロツキの指導はサンドラに任せるとしよう。セバスはそこのジャックの面倒を見てやるといい」
俺とサンドラ、ジャックとセバスさんは指導を受けるべく別々の訓練室へと向かった。
シュバルツ城の訓練室は何度か使わせてもらったことがあったが今日きたのはいつもとは違う場所だった。
「部屋に入る前にそこの球体に数秒手を当てな」
「……?」
「いいから、言われた通りにすればいいんだよ」
扉の前にいくつかの透明の球体が並べられている。
その一つに手を触れると徐々に色が濃く変わっていき、濃い灰色になったところで球体が少し震えた。
「もういいよ、入ってきな」
部屋へ入ると中は他と変わりない真っ白な四角の部屋。
サンドラが赤の槍を手に持つと、一段と俺への殺気が強まり、肌がピリピリと震える。
「構えな」
「はい」
実戦形式なのだろうと判断して、『月蝕』を右手に、『刹那無常』を左手に構え、全神経をサンドラに注ぐ。
「行くよ」
サンドラのその声で殺気はさらに高まり、目の前の敵があまりにも危険だと脳が危険信号を送ってくる。
……!?
浴びせられていた殺気で体が重く感じるほどだったのに急にその殺気が消える。
それと同時に体が軽くなった気がする。
気が緩んだのか?
サンドラはいつの間にか目の前にいて赤の槍は俺の心臓を貫いていた。




