62話 復興のチャリック
クロツキが病院で目を覚ました時ときにはチャリックは既に市長とハリントン、ヘンリーを中心に復興作業をしていた。
市長は住民に今回の件の一連の流れを説明した。
娼婦ばかりを襲うチャリックの殺人鬼Xの正体が悪魔でその黒幕がバロンだったことも包み隠さずに話したらしい。
反発はあって市長を辞任すべきだと言う声も上がったが、それ以上に市長を応援する声が多く住民一丸となって乗り切ろうと締めくくって今の現状になっている。
街の4分の3が焦土となっていたがそこには無数の屋台が立ち並び復興に従事する土木作業員たちで賑わっている。
警備隊も復興に力を貸していて、悪魔たちと命がけの死闘をしたと住民からの信頼も少しずつ回復していっている。
警備隊の隊員は今回の件で12名の死者を出しており、そんな警備隊を責める人間はいなかった。
チャリックに来てから色々なことがありすぎて忘れていたがこれって転職クエストだったんだよな。
-転職クエスト-
『殺人鬼Xの暗殺』がをクリアしました。
領都レストリアのジャンヌに報告をしましょう。
良かった……。
転職クエストをクリアすることができている。
正直な話、殺人鬼Xの正体がよく分かっていないが一連の事件を解決できたし問題ないと言うことかな。
最初にこの話を聞いた時に思い浮かんだのがまず、切り裂きジャックであるジャック・ザ・リッパーが殺人鬼Xかなとも思ったが違ったらしい。
運営がミスリードしてきてたんだろう。
ミスリードとういう話でいえば市長の名前も怪しすぎるだろ。
モリアーティって完全に悪役の名前だし、急な事態だったから気にしないようにしていたが何故か悪魔の力を抑えていて、なんなら三体の悪魔を倒したのも市長だったらしいから何らかしらの秘密があるはずなんだが、忙しそうにしていて真相は闇の中という訳だ。
もしかしたら今後のなにかのクエストで明らかになるかもしれない。
このゲームの運営は本当にいい性格をしている。
まとめサイトでもちらほらと人を騙すような仕掛けが多数発見されていると報告もある。
かと思えばすごく親切で分かりやすいクエストもあって同じ運営とは思えないとの声もある。
プレイヤーの間ではいくつかのチームがあってその中の一つが異常に捻くれているという案で落ち着いた。
これは俺の推測だが、突然のチュートリアルの破棄や今回の転職クエストなど恐らく領都レストリア近郊とシュバルツ家関連はその捻くれチームの担当なんだろうなと思っている。
ジャンヌには以前、悪ふざけで大いに迷惑をかけられたし、あの悪戯好きな性格なんかはモロに反映されているんじゃないだろうか。
あれこれと考える時間があるのはここが病院で特にやれることがないからだ。
復興を手伝うと言ったのだが寝ていろと隊長と副隊長に強く言われて観念した。
復興作業で人通りが多くガヤガヤとした音を聴きながら空を見上げる。
今回の件で目を背けたいけど向き合わなければいけない事実がある。
怨恨纏いについてだ。
俺が原始の悪魔ラフェグを倒した英雄として祭り上げられてるみたいだが記憶がない。
赤色に光っている怨恨纏いを発動させてからの記憶が一切なく自分が倒したと言われても実感が湧かない。
大量の経験値を獲得していてレベルも一気に上がっているのだから確かに俺が倒したのは事実なのだろう。
隊長、副隊長、ジャックに話を聞くと揃って悪魔のような姿でめちゃくちゃ強かったと言っていた。
まぁ、ラフェグを一対一で倒したようなので相当な怨念が溜まっていたのだろうが強すぎる力にはリスクもある。
全てのステータスがダウンしていたのだ。
一時的とはいえ当分はまともな戦闘などできそうもない。
最初起きた時に見たらステータスがラフェグを倒す前よりも上がっていて気付かなかったのだが、実はかなりのレベルアップをしているにも関わらず少ししか上がっていなかったので違和感を覚えているところ、怨恨纏いの対価として全体のステータスがダウンしましたとインフォメッセージがあったのでそういうことなんだと納得した。
それに意識を失うとなれば安易に怨恨纏いを発動することができなくなってしまった。
それでも納得できるだけのプラスもあったのでいいとしよう。
むしろプラスの方が大きいと思うので結果オーライということだな。
さてと、そろそろレストリアへ戻るか。
ジャンヌに報告して転職クエストを完遂させる。
何に転職できるかかなり楽しみだ。
俺は病院のベッドから起き上がり部屋を出ようとすると後ろから声がかかって呼び止められる。
「どこ行くの?」
ジャックも同じ病室で隣のベッドで寝ていたが起きたらしい。
「領都レストリアへ報告しに行くんだよ」
「もう、チャリックには戻ってこない?」
「それは分かんないな、用事があればくるけどなければ来ないかな」
俺は活動拠点を王都にしようと思っている。
チャリックは王都からそれほど遠くもないがわざわざ訪れるほどのものでもないなと思っている。
「ついていってもいい?」
ジャックが悪魔を倒していたのは親の仇だったかららしく、それも終えて特に行くあてもないので俺について来たいという。
「まぁ、別に問題ないけど……」
「良かった、ありがとう」
「でも俺は面倒とか見れないぞ」
現地人は来訪者と違って生きていくためには食事も住居も必要になる。となると仕事をしなければいけないが、俺にできることはジャンヌに紹介するくらいで、それも保証があるわけではない。
まぁ、ジャックの腕前なら冒険者としてやっていけそうな気もするが、デスペナルティだけで済む来訪者と違って現地人にはリスクの高い職業である。
とりあえずはジャンヌに紹介して、それでダメなら冒険者ギルドを提案してみよう。
「大丈夫だよ、今までも路上生活だったし慣れてるよ」
うっ……さすがにそれは不憫すぎる。
なんとかジャンヌに安全そうな仕事を探してもらおう。
俺とジャックは市長と警備隊に軽く挨拶をしてチャリックの街を離れた。
これにて六章完結となります。
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