60話 太古の魂
シンプルなただのフェイント。
しかし、大きなフェイント。
避けれるはずのない一撃を前にクロツキは消えた。
空を切ったラフェグの拳は地面を叩き、大きな衝撃を街に与える。
ラフェグが拳を戻すとクロツキはそこに立っていた。
最後の回避手段のシャドウダイブ。
ディーの魔力をごっそりと削るシャドウダイブは乱用ができず、最後の最後に残しておいた。
それも使わされたディーは他にも魔法を使用していたこともあり魔力が空になっていた。
回避手段がなくなっても攻撃は止まらず、しかも鋭さは増していく一方。
フェイントがあると頭に入れて回避を行うがついていけない時がついにやってきた。
完全には捉えられていなくても、ラフェグの拳に少し掠っただけで数十メートル吹き飛ばされて体が動かなくなった。
地面に横たわる俺にラフェグはゆっくりと近づいてきて邪悪な笑みを溢した。
今までならそれはありえない行動ですぐに攻撃してきたはず。
ラフェグの覚醒が進んでいる証拠でもあった。
元々の性格は残虐性があり、獲物を甚振る癖があると聞いていた。
これのおかげで助かった。
淡い光が俺を包みダメージが回復していく。
回復した足で俺はその場からすぐに離れた。
遠くの位置でソーンが回復魔法をかけてくれている。
ラフェグは俺から目を外してソーンの方を視認する。
足に力を込めて高く跳躍しひとっ飛びでソーンを囲うように布陣を組む警備隊の真上に移動した。
「逃げろーーー」
ヒーラーは真っ先に落とす。
ゲームの基本であり、ラフェグにもその程度の意識が戻ってきているのか、それとも野生の勘なのかは分からないが俺は声を上げた。
ダメだと思ったが二十人以上で連携して作る巨大なシールドは圧巻だった。
光の壁はラフェグの踏みつけを防ぎ光の壁を殴り続ける攻撃にも耐える。
時間をかけた詠唱と魔法陣などによりその場だけではあるが最強の盾を形成していた。
壁にヒビが入ればそれを修復するようにポーションを飲みながら交代して修復して維持に努める。
ラフェグは暴れに暴れてやっと動きを止めた。
まるで燃料が切れたロボットのようにその場で止まり腕をだらんと落として俯いている。
よく見ると巨木が枯れてきているような部分も見える。
やったか?
全員が怪訝そうにラフェグを注視する。
話通りに耐久して動きを止めたのだからこれで終わりな気もするが、油断はできないといった感情を全員がほぼ一致で感じてい。
ラフェグの体が灰に変わっていき、ラフェグの体の中から3メートルの悪魔が出てきた。
「奴らめ、随分と面倒な封印を……とはいえ、お前たちもそれなりには頑張ったようだからな、俺の贄となることを許そう」
ラフェグは光の壁を軽くこづいた。
それは先ほどまでラフェグの猛攻から警備隊の命を守っていた最強の盾。
それが軽い一撃で粉々に砕け散った。
「ハアアアアアア」
ロックはグランドクロスを放ち、ジャックはスロウレインでラフェグを攻撃するも、傷一つつけることができない。
ラフェグはその両腕で二人の体をしめつける。
クロツキも駆けつけて攻撃するがやはりびくともしない。
「ふんっ、貴様らがどれだけ足掻こうとも無駄だ」
ラフェグは二人を投げた。
地面に何度かバウンドしたふたりは壁にぶつかって止まる。
かろうじて息はまだある。
「ラフェグなのか?」
クロツキの問いかけに笑いながら答えるラフェグ。
「あぁ、そうだ。こっちが本来の俺の姿だ。勘違いしてもらっては困るが確かに今の俺は封印されて10パーセントも力を出せてはいないがお前たち如きに遅れは取らない。希望をもつなよ」
これで10パーセントとは本物の化け物だ。
「この街の人たちをどうするつもりだ」
クロツキはさらに問いかける。
「生贄にして俺の封印を解く一助とする。そして奴らに復讐をしてやる」
つまりはやはり、こいつはここで倒さないと街の人間どころか王国中の人たちが危険になるということか。
復讐とやらはよく分からないが、封印したものへの復讐か。
「強がっているが焦っているんだろ。魂のストックは残り少なく実はギリギリなんじゃないか?」
「貴様、何を知ったような口を」
「知っているぞ。お前はもう数千の元部下たちの魂しか残っていないだろ」
「貴様……なぜ知っている」
「さぁな」
「ふんっ、よほど死にたいらしいな。楽には死なせないぞ魂を啜って永劫の苦痛を味合わせてやろう」
突如、ラフェグについて話す声が聞こえた。
それはラフェグの中にある太古の人々の魂。
ラフェグに魂を啜られて力を奪われ、家族を奪われ、故郷を奪われ、全てを失った人たちの魂の叫び。
ラフェグに復讐せんと強く怨念を発している。
通常時、怨恨纏いはグレーアウトしていてスキルの使用ができない。
一定以上の怨念が集まるとグレーアウトから白の文字に変わりスキルの発動が可能となる。
では今はどうなのか……
グレーアウトはしていない。
しかし、白文字でもない。
怨恨纏いは不気味な赤文字となって浮かび上がってきていた。
俺は怨恨纏いを発動させた。
60話を迎えてチャリック編も佳境となってきました。
次の展開の構想もしつつ、綺麗にチャリック編をまとめられたらいいなと思ってます。
最近、暗殺者は正義の味方!? 以外にも書きたいなって物語が多くて誘惑されてますが、なんとか毎日投稿は継続していきますので、ぜひ応援のほどよろしくお願いします。
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