6話 カルマ
プレイヤーキルや詐欺などの迷惑行為が行われても基本的に運営は関与しない方針らしい。
なぜならそれすらもプレイヤーの自由だから。
これじゃあ、やりたい放題で荒れまくるじゃないか。
と、思ったが一応システムとして迷惑行為に対する対策があるらしい。
それが隠しステータスのカルマ値だ。
悪い行いをすれば悪性がたまり、良い行いをすれば善性がたまる。
この行いとは現地人やプレイヤーの個々人から反映される。
そしてこれは意思を持ってその行いをすれば必ずどちらかのカルマ値が増減する。
例え現地人からの依頼でも悪意を持ってわざとクエストを失敗すると悪性がたまる。
全力を尽くしての失敗なら悪性はたまらないかもしれないし、善性がたまることすらあるかもしれない。
カルマ値によって転職できる職業や現地人の対応など色々と変わるらしい。
そういう仕様という噂。
隠れステータスは基本的に確認ができない。
ただ、βテスト時からやっていて、今のトップを走るプレイヤー複数人がそう言ってるのだから、信憑性は高い。
俺はリオンにキルされたのでリオンは俺へ対しての悪性が少なからずたまっている。
これはルティも同じだ。
悪性分は俺が仕返ししても何の問題もない。
俺は仕返しをする気満々である。
相手の方が人数が多いとか強いとかそんなの関係なく必ずやり返す。
ゲームの中とはいえキルされるのはかなり気分が悪かった。
対策を練れば何とかなるはずだ。
2人の職業もおおよそあたりがついている。
その前にセバスさんに会って転職クエストを済ませなければいけない。
今の状態だとステータスを上げれない。
そして、初心者ナイフがロストしたこと伝えなければいけない。
それが億劫だ。
§
「リオンちゃん、こんなこともうやめようよ」
「何言ってんのよ、簡単に稼げるんだからいいじゃん」
「でも他の人に申し訳ないし、やられた人が仕返ししにくるかもしれないよ」
2人は10を超える初心者武器を売りにきていた。
普通は初心者武器などどの店でも買い取ってくれない。
しかし、ここは闇市、訳あり商品が当たり前のように流通している。
すれ違う人すれ違う人が堅気ではないイカツイ顔をしている。
「だから、わざわざ初心者を狙ってんでしょ」
「でも晒されたりしたら大変だよ」
「大丈夫だよ、今はイヴィルターズが荒らしを始める宣言してるからそれに紛れれば、私たちなんて相手にされないよ」
2人はいかにも怪しそうな店に入り、恰幅のいい男の店員に武器を渡す。
顔や腕には無数の傷跡が残っている。
男は無言でそれらを受け取ると袋に入った金をリオンに渡す。
「婆さんいる?」
リオンが尋ねると男は小さく頷き奥へと入っていく。
「リオンちゃん、クロツキさんのときは危なかったじゃん」
「クロツキの時はちょっと油断しただけだから大丈夫。暗器使いなんて素早いだけで攻撃力は皆無に等しいんだから、あのナイフがなければこっちはダメージ負わないよ。盗れてればよかったんだけどな……」
リオンは残念そうに顔を振る。
リオンの持つ盗みのスキルは何でも簡単に奪えるお手軽スキルではない。
相手のレベルと自分のレベル、そして職業のランクや武器のランクなど諸々が計算に乗っかって何を盗むかが決められる。
もちろん失敗することだってあるし、今の状態では初心者武器くらいしか盗めない。
「あんたら、また随分と暴れてきたじゃないか」
奥から現れた黒いフードを被った老婆の出で立ちは魔女のようであった。
老婆は怪訝そうに積まれた初心者武器を見る。
「うっさいな、いいでしょ。それより耳寄りの情報とかないの?」
老婆が手を差し出すと、リオンはハイハイと金を渡す。
「イヴィルターズとかいったかね、前にあんたがいってた集団が領都レストリア近郊で暴れ始めたらしいよ。それともう一つ、別の集団も暴れてるようだね」
「イヴィルターズがとうとう動き始めたか、もう一つの方の動きは分からないの?」
「さてね、そこまでは知らないよ」
「ふーん、ありがと」
リオンが店を出ようとしたところで老婆に引き止められる。
「あんたら、本当に気をつけなよ」
「大丈夫だって、少し大人しくしとくから」
「ありがとうございました」
2人は店を出て行く。
§
【LFO】PK晒しスレ
ここはPKするようなカスを晒す場です。
次スレは自動で立ちます。
1:名無しの戦士
とうとう崩壊が始まった
2:名無しの魔法使い
イヴィルターズが暴れ始めた
3:名無しのエルフ
エルフの里は安全な模様
4:名無しの戦士
イヴィルターズのリーダーが王国を主要拠点にするとかいってた
5:名無しの弓使い
王国オワタ
6:名無しの魔法使い
>4王国ってすでに初心者狩りいなかったっけ
7:名無しの弓使い
イヴィルターズに比べたら初心者狩りなんて可愛いもんじゃん。多分……
8:名無しの魔法使い
いや、初心者狩りにやられたらアイテムを取られるらしい
9:名無しの戦士
聞いたことあるな
運が悪いと初心者用アイテム盗られるらしい
10:名無しの弓使い
それって、かなりきついな
11:名無しの戦士
地道に冒険者ギルドのクエストして金貯めるしかない
12:名無しの魔法使い
しかもフォレスネに毒撒かれて何とか帰ってきたところをキルだってさ
13:名無しの弓使い
うげっ……
それはひどい
14:イヴィルターズスカウト係
王国の初心者狩りの情報求ム
15:名無しの弓使い
名前www
16:名無しの鍛治師
釣りだろ
17:名無しの弓使い
>14PKがPK探してどうすんの?
18:イヴィルターズスカウト係
イヴィルターズにスカウトする
19:名無しの魔法使い
やばすぎ
20:名無しの鍛治師
釣り乙
21:名無しの戦士
ふざけすぎだろ、PKは消えろ
22:名無しの戦士
そんで二度と復活しないでほしい
23:名無しの魔法使い
というか、このスレにPKされた奴おる?
24:名無しの弓使い
いないだろ
25:名無しの戦士
とにかくPKはこのゲームにいらん
26:名無しの魔法使い
運営がまさかの放置だもんな
27:名無しの鍛治師
運営無能説
カルマ値なんてあっても意味がない
28:名無しの戦士
せっかくの良ゲーを壊さないでくれ
29:名無しの魔法使い
>27それも本当かどうか分からない
30:イヴィルターズスカウト係
イヴィルターズは優秀なプレイヤーを募集している。
もちろん報酬もあるからな。
§
扉も窓もない少し広めの個室の中央でイスに座って宙に投影された10を超える画面を見ている骸骨がいた。
画面にはゲームの様子やまとめサイト、掲示板などルキファナス・オンラインに関連するものが並べられている。
その後ろで瓜二つ、いや全く同じ顔の女性が5人画面を見て宙に浮かぶキーボードに何かを打ち込んでいた。
一人の女性が骸骨に向かって話しかける。
「社長、森蛇が突破できないと多くの声が上がっています」
「ガンバレ」
骸骨は一瞥もせずに一言だけ返した。
別の女性からも骸骨に話しかけられる。
「迷惑行為を行うプレイヤーをBANしろと多数の通報があります」
「それについては今システム構築中だしなぁ、とりあえず当面はあのシステムで代用しよう。さりげなくプレイヤーに情報が流れるようにしといてください。それと進捗具合の確認をお願いします」
このクレームを伝えた女性は席を立ち部屋を数歩進むと突如扉が現れてそこに入っていった。
ここはルキファナス・オンラインを運営する社員専用サーバー。
このような部屋がいくつもあってそれぞれの担当が個々の部屋で働いている。
作業方法はみな異なり、一人で閉じこもって集中するものや、逆に何人もの部下を持って全員で作業に従事するもの。
社長と呼ばれる骸骨は実際の社長である。
主な担当は全体を把握して優先順位をつけ仕事を振ること。
今は運営にきた問い合わせで王国関連のものを調査している。
また別の女性が口を開いた。
「チュートリアル・クエストが破棄されたとの問い合わせが来ています」
「どういうこと? ログを見せて」
画面にクロツキのこれまでのログが映る。
社員以外は本人でさえ絶対に見ることができないログが記録されている。
さらに社長権限でしか見ることのできない情報まで画面に流れていく。
切磋琢磨やシステムの意外性を楽しむと言った理由で社員同士ではお互いの深い所は見れないようにしてある。
もちろん大まかなところでは流れを合わせなければいけないので、何か大きなことをする前には社長とそのアシスタントにはある程度情報共有をしなければいけない。
「どうやら今は既に職業についているようですね」
「そうみたいだね。まぁ、このプレイヤーは彼女達に任せておこう」
「報告はなかったようですが追求しますか?」
「いや、いいよ。機嫌を損ねられてもやだし、この程度なら特に問題はないでしょ」
別の女性が少し微笑んで冗談めいた口調で話し始める。
「社長、世間には有給というものが存在しているのは知っていますか?」
「……知ってる、けど、どうしたの?」
「ここ数日まともに寝れてないんですが、午後から有給使って何日か休んでもいいですか?」
「えっ!? もう少しだけお願いしますよ。そうだ、休憩にしてケーキでも食べよう」
「冗談ですよ」
実際にルキファナス・オンラインを運営している『アナザルド』の社員は一日のうち8時間働きさえすれば帰ってもいいし、週休二日制だ。
この業界では珍しすぎる真っ白経営。
一日のうち8時間というのは社員側から出た要望で夜型のものやそもそもの生活習慣がガダガタなものがいたので調整した結果である。
元々は友達と始めた小さな会社で社員同士も仲がいい。
社長なんて柄ではないが、押し付けられた結果がいまの現状でそれなりに楽しめている。
みんなで作り上げたルキファナス・オンラインなのだ。




