56話 裏切り者
「貴様、どういうつもりだ」
警備隊副隊長ソーンは二人の部下と共に牢屋に閉じ込められていた。
檻の向こう側では自分に攻撃を加え気絶させた部下が見下ろしている。
「どういうつもりも何も副隊長があちらへ急行していればこんなことにはならなかったんですよ」
「ジェイ、何故裏切った。悪魔に魂を売ったのか」
裏切ったジェイと同期だった男が問いかける。
行動からしても悪魔と仲間なのは確実だった。
「魂を売った? 何を見当違いなことを。俺は元々こっち側だよ」
ジェイは悪魔へと姿を変える。
「バっバカな、悪魔だったのか……」
三人は驚きを隠せない。
数年来、仲間だと思っていた男が実は悪魔だったのだ。
「まぁ、元仲間のよしみで手荒な真似はしない。もう少しで終わるんだ。それまでは大人しくしててくれよな」
「くっ!!」
「副隊長、無駄ですよ。この牢には能力封じの効果がある。外との通話もできないし、魔法もスキルも使えませんよ」
ジェイは階段を登って元仲間達を後にする。
階段の先の部屋ではもう一人の悪魔が待機をしていた。
「お仲間と親睦でも深めていたのかい?」
「そんな意味があるのか?」
「まぁ、ないね。どうせ皆殺しだし。もう少しで完成するらしいよ」
「そうか……」
「君は不服そうだね」
「俺は興味がない。お前は楽しそうだな」
「君はそっち派なのか。僕は人が殺せればどうだっていいよ」
§
警備隊とクロツキ、ジャックは副隊長が消息を絶ったと思われる場所へ急行していた。
「隊長、殺人鬼Xをなぜ捉えないんですか?」
「お前達も見ただろ悪魔の姿を。あれは放っておいていいものではない。それにジャック殿の話を聞く限りでは複数の悪魔がこの街で確認されている。しかも全てが娼婦ならば話を聞く相手も絞れてくる」
「ここです」
戦闘の痕跡はあるが、どこに連れ去られたかは分からない。
「時間がない。ちょっと待ってろ」
隊長は少し離れて誰かと通信をしている。
「よし、許可が降りたぞ。少し強引だがあの三人を集めて話を聞く」
警備隊は現場に残り痕跡の調査に入った。
俺と隊長、ジャックは市庁舎へと向かった。
市庁舎に着くと市長と三人の男が待っていた。
「市長、これはどういうことですかな?」
「こんな夜中に召集するなど少々横暴ではないですか」
「正当な理由がなければ失脚もありえるぞ」
三人は夜の街を支配する娼館のオーナー。
シャングリラオーナー、ハリントン。
ユートピアオーナー、ヘンリー。
アヴァロンオーナー、バロン。
「大体、そこの三人はなんなのだ? 一人は知っているが後の二人は見たこともないぞ」
ハリントンは俺たちを値踏みする様にじろっと観察してくる。
それぞれがやり手の商人であり、一筋縄ではいかなさそうな雰囲気をしている。
そんな三人を前に市長はゆっくりと口を開いた。
「そこの二人は王宮が遣わしてくれた助っ人ですよ。お三方も待ち望んでいたでしょう」
市長も中々に腹黒い。当然のように嘘をついている。
「ふん、やはり王宮など頼りになりませんな。たったの二人だけとは」
ヘンリーが大きくため息をつきながら首を横に振る。
「そこは一旦、置いていただいて……それよりも重大な話があるんですよ」
「悪いがこちらも忙しい身分でね。悪ふざけに付き合ってる訳にはいかないんだよ」
バロンが席を立って、ドアノブに手をかける。
「この街で悪魔が現れました」
「悪魔だと……見間違いではないのか」
ハリントンは怪訝そうに市長に尋ねる。
「えぇ、しかも複数体。全て娼婦に姿を変えていたようです」
「娼婦とは……それでこの召集という訳ですな」
「バロン様、席にお座り下さい。詳しく話を聞かなければいけない状況なのですよ」
「バカバカしい、いっただろう。悪ふざけに付き合ってる暇はないと」
「おじさん、悪魔臭いよ。さっきまで一緒にいたんじゃない?」
ジャックはバロンの首にナイフを振りかざす。
影から尻尾が現れてナイフを止めた。
「バロン、商売人としての目が落ちたか。先程の攻撃はただの脅しだったのに見事にハマったな」
「お前が殺人鬼Xというわけか。演技は中々のものだったようで。見破れなかったのは一生の恥として心に刻みましょう」
ハリントンとヘンリーは冷静にバロンを見つめる。
「ふはははははっ、もうバレようが関係ない。全てが手遅れなのだ。捉えた警備隊の三人で100の生贄が揃う。お前たちは時間を稼げ」
「御意」
バロンの影から三体の悪魔が現れ、バロンは逃げていく。
ジャックからこれまで倒した悪魔については聞いている。イヴァヤほどの悪魔は遭遇もしたことがなかったらしい。
まぁ、あのランクの悪魔が何体もいては街どころか国が陥ちる。
娼婦に化ていた悪魔はそれほど強くはなかったらしいが、この三体はそいつらに比べれば強そうだ。
バロンの影に潜んでいたことからも腕利きの護衛といったところか。
しかし、俺たち三人相手に素でやり合って時間稼ぎがまともにできるとは思えない。
だが、俺たちはバロンの後を追うことができない。
俺たちの一人が追いかければ市長と二人のオーナーが殺される。
何かを守りながら戦うのは難しい。
職業的にも俺とジャックは守りに向いていない。
三人で目配せして隊長とジャックに一瞬だけ守りをしてもらい、俺が一瞬で一体を倒す。
室内で短い距離ではあるがそこそこのスピードは出せる。
殺った。
宵闇の小刀『月蝕』で首の切断に成功した。
二体が攻撃を仕掛けたのを二人が防いだ。
しかし、首を落とした悪魔も攻撃をしていた。
隊長のロックが腕を犠牲にしてその攻撃を防いでくれた。
状況は最悪だ。




