53話 チャリック警備隊
「市長どういうことですか?」
「そうですよ、あんな部外者の手を借りるってことなんですか?」
昨晩の出来事から一夜明け、市長同席の元、顔合わせが行われたがチャリック警備隊は俺の存在が気にいらないようだ。
30人以上が市長に詰め寄って抗議をしているのを俺はただ傍観している。
「大変だな」
「大変ですね」
俺の隣で警備隊の一人が他人事のように俺と同じく、騒がしい光景を眺めていた。
「あなたは抗議しなくていいんですか?」
「だって戦力は多い方がいいじゃん。もう毎夜毎夜巡回するのもおっさんには辛いわけよ。解決できるなら猫の手でも借りたいくらいさ」
男は少し伸びた顎髭を触りながらため息をつく。
「隊長そんなところで何をしてるんですか? そんな不審人物とお喋りするくらいなら隊長も市長にガツンと言ってやってください」
抗議をしていた女性が俺の隣の男にそう話しかける。
隊長だったのか。まぁ、この中で頭一つ抜けて強そうだったから薄々は気づいていたけど。
次いで強そうなのがこの長髪ブロンドの女性だ。
それにしてもいいのか、隊長と隊員でこんなにもズレがあって。
「まぁまぁ、副隊長落ち着いたらどうだい。戦力が増えるのはいいことじゃないか」
「そんな怪しい奴と一緒に動いては後方にも警戒が必要になるじゃないですか」
「国の要請の元、彼が来てくれたのなら身分はこれ以上ないほどに信用に足るじゃないか」
「しかし……国のいうことなど……それに実力も分からないではないですか」
王国はあまり頼りにされてはいないようだ。イヴィルターズとあの村の一件からも分かるように国の対応はお役所仕事で基本的に遅い。
「それは昨日のあれで十分……いや、そんなに気に入らないなら直接戦ってみればいいさ」
「分かりました」
「えっ……」
どうしてそんな流れになるんだ。
§
「くっ……」
模擬戦が始まったが残すは副隊長だけ。
隊長は見学だけで参加していない。
残りは地面に倒れている。副隊長も倒れてる隊員と同程度のダメージを受けているが立ち上がってきた。
警備隊は率直にいって強くない。
全員が三次職の低レベルでその上、実戦経験もほとんどないときている。
元々、この街に警備隊は存在していなかった。
最初はどこも見向きもしない小さな街だったのを現在の市長が商人達と力を合わせてここまで発展させてきた。
そして、問題が起きれば各々の商店が自分たちの力で解決してきている。商店は警備隊よりも強力な戦力を所持していたり、雇ったりしている。
街の経済が発展して国の介入があってから警備隊が創設された。
だが、残念なのが集められた人員が問題児ばかり。
正確には王国にとっての問題児が集められた。不正を許さないだとか。国民の目線に立って物事を考えるだとか。そういう正義感を振りかざすようなメンツばかり。
目の前の副隊長も正義感だけで立ち上がってきている。
どれだけ剣を振るったとしても俺の体には擦りもしない。
あくまでもこれは模擬戦でこれ以上は大怪我に繋がるかもしれない。
「そこまでだ」
隊長の声が響く。
「待ってください。自分はまだ戦えます」
「後ろを見てみろ、君以外は倒れ、しかも手加減をされてるんだ。実戦なら全員死んでるよ」
「しかし……」
「隊長、そんな怪しい奴に頼るくらいなら、死んだ方がマシですよ」
「俺もですよ」
倒れていた隊員達も立ち上がってきた。
「では聞くが君たちは何のために立ち上がっているんだ?」
「決まってるじゃないですか。戦うためですよ」
隊長の問いに一人の隊員が答えた。
「じゃあ、君達は戦って満足して、残された人々はどうするんだ? 殺人鬼に殺されていくが、それでも君達は満足なのか?」
隊長の語気が強くなり、さらに続ける。
「警備隊は何のために戦っているんだ。君たちの下らないプライドのためか。人々の幸せを蔑ろにしてまでも自身のエゴを通すというのか。だったら君たちは君たちの嫌う汚職役人と何ら変わらないではないか」
「そっ、そんなつもりは……私たちはただ……」
隊長の喝が効いたのか副隊長を含めた隊員達は意気消沈してしまった。
「すまなかったなクロツキ殿。恥ずかしいところを見せてしまった」
「いえいえ、気にしてませんよ」
「ただ、警備隊がこの程度だと思われて信用をなくしても困るのでな、一矢報わせてもらおうかなと思う」
隊長は背に担いだ大剣を構えた。
市長はオロオロとしているだけ。隊員達は端に避けている。
完全にやる流れだな。
先程まで使っていたのは宵闇の小刀『月蝕』一本のみだったが、左手に赤竜氷牙アグスルトを握る。
隊長には全力で挑まないと勝てなさそうな気がする。
先に動いたの向こうだった。
緩やかに動いているように見えるが無駄のない体捌きは隙がない。
真上から振り下ろしてくる大剣を避けて横に回ろうとした時には下から大剣が振り上げられていた。
回避はできたけど驚いたな。
「あれを躱されるとは驚いたな」
当たっていたらあばらが粉砕してただろう威力。
「大剣を枝のように振っておいて何を言っているのか……」
「ウチには優秀なヒーラーがいてな、本気でかかってこい」
隊長の圧力が一層強くなる。
これはマジで殺すつもりでいかないと勝負にならないな。
俺は仮面を被った。




