47話 喧嘩最強
神々しく光り輝く聖剣に対して翼を広げ飛翔をもって回避しようとするアグスルトの両翼に突然重力がかかる。
上空から骨でできた巨大な両腕が体を押さえつける。
「飛ばせない『餓者髑髏』」
アグスルトと正面きって戦闘していたアーサー達とは別に修羅のメンバーは迂回してその隙を窺っていた。
十分な上昇ができず、そこは聖剣の攻撃範囲。
あーさーは全力を振り絞って一撃を放つ。
「聖剣グランドクロス!!」
聖なる十字の光がアグスルトへと直撃する。
「くっ……届かないか」
アグスルトの氷の鎧は砕け胸に浮き出る核らしきものは見えるがそこまでは届かなかった。
氷の鎧の防御力は想像以上だった。
「ガァァァァァァァ」
群がる虫を払い除けるように咆哮と共に体を暴れさせる。
それだけであーさーたちは吹き飛ばされ体を押さえつけていた骨の腕は砕けていく。
「後は任せな」
光の粒子に変わっていく中、あーさーの目には一人の男の背中。
この雪山で特攻服を脱ぎ、上半身裸の背中には龍の刺青が浮き上がる。
自分と同じく王国最強の一人である龍がアグストルに攻撃を仕掛ける所だった。
結果を見ることは叶わないが安心した表情でデスペナルティとなる。
武器など何も身につけずシンプルにアグスルトの核をぶん殴る。
ただそれだけで20メートル以上もある巨体が数メートル吹き飛んでいく。
核は見事に粉々に砕ける。
アグスルトは力なくよろけ、吹雪は止み、生き残ったプレイヤー達の心と連動するかの如く暖かさを山が取り戻した。
アグストルはゆっくりと歩く。
一歩、一歩と歩みを進めるたびに体に纏っていた氷が地面に落ちて溶けていく。
全ての氷が剥がれたアグスルトは全身こげ茶色をしていて弱々しくも見えた。
「チャ、チャンスだ!! 俺がラストアタックは貰ったぞ」
一般的なゲームだとこういったレイド戦でとどめを刺すと特典があったりする。
それに目が眩んだのか一人の男が大剣を首へ振り下ろす。
が、甲高い音がしただけで首には傷一つなく大剣が欠けている。
アグスルトはその男を見下ろし、踏み潰した。
氷の鎧などなくとも竜の鱗は並大抵の硬さではなかった。
「おっおい、どういうことだ。勝ったんじゃないのか?」
「なんだか、あいつの体、赤くなってないか」
勝利を確信していたプレイヤー達はうろたえる。
「ガァァァァァァァ」
咆哮と共に空中へ炎のブレスを吐くアグストル。
その体はこげ茶から真っ赤なものへと変貌していく。
暖かった温度は一転して灼熱へと上昇していく。
二つ目のブレスはプレイヤーへ向かって放たれ、別の場所にいた修羅のメンバーとブレスを耐えきったタツ以外はデスペナルティとなった。
「アホやなぁ、レイド戦なんて体力ゲージが何本かあってボスの姿が変わるなんてありきたりやのに」
湖都はうろたえて既にデスペナルティになったプレイヤー達の跡をみて呟く。
「しかも名前が赤竜でしたからなぁ」
「でも、思ってるよりもヤバいかも」
生き残った3人はアグスルトとタツが向かい合ってるのを遠くから見る。
「なかなか熱いもん持ってんじゃねぇか」
無法者系統、四次職、喧嘩最強はタイマン性能に特化した職業である。
その多くのスキルが身体強化や純粋な攻撃スキルだけの脳筋職業といえる。
搦手には弱く、多人数戦も得意としないがその代わりレイドボスのドラゴンとも殴り合えるステータスをしていた。
アグスルトの尻尾でのなぎ払いを受け止め、踏みつけは腕で弾き返す。アグスルトは火炎のブレスを吐くがそれにも耐える体力と防御力。
むしろブレスの中を歩いてきて顔面をぶん殴る。
しかも、竜の鱗のを砕くほどの攻撃力を持っている。
アグスルトは驚きを隠せない。
最強の種族の竜である自分と一対一で勝負ができるなど。
アグスルトは負けるかもしれないと考え、ある決断を下す。
本来であれば誇り高き竜にはあるまじき行為。
ただの虫相手にこんなことをするのは甚だ遺憾ではあったがアグスルトは敗北の恐怖を知っている。
負ければ全てを奪われる。
アグスルトは氷の鎧という重りのなくなった体で翼のひとかきで軽々と上空へと飛翔する。
そして上空から火炎のブレスを自分と対等に戦っていた虫へと吐く。
タツの周りは炎に包まれ、体力が異常な速度で減っていく。
「これはきちぃな」
タツはこういうことをされると途端に厳しくなる。
それがドラゴンとも殴り合えるステータスの代償ともいえるが、しかしタツは諦めない。
絶体絶命の状況でむしろ笑みを浮かべて右腕に力を込める。
「天にそびえる高き頂きへと届け!! 竜牙撃滅」
タツの唯一の遠距離攻撃はステータスアップを支えていた背中の龍の刺青が右腕へと移り、そのまま螺旋を描き空へと登っていく。
使用後は一定時間ステータスアップがなくなるため、かなりのリスクを伴う技ではあるがデスペナルティ目前であればそれはリスクとはならない。
アグスルト向かって銀龍が空を昇る。
「くそっ、避けやがったか……次があれば俺が勝つ」
炎に焼き殺されてタツはデスペナルティとなった。