46話 防衛戦
氷像と防衛拠点に残ったプレイヤー達の戦闘が始まった。
防衛部隊を指揮するのは四次職の虎徹、補佐をするようにベルドールとサフラン、この3人が討伐部隊には参加せずに防衛に残っている。
「下がりすぎるな!! 漏れた氷像を一体一体確実に減していくんだ。居合・一閃」
虎徹は腰に下げた刀に手をかけ居合で敵を斬り抜く。
一体ならなんの問題もない。
問題は山頂から下ってくる無数の氷像。これだけで士気がかなり落ちたのは確かだ。
ここに残っているのは三次職ばかり。三次職が一人で一体を相手にするには些かハードルが高い。
防衛線をギリギリ保っていられるのはサフランとベルドールの力が大きかった。
「サフラン、いけるか?」
「……ふぅ、大丈夫よ」
「ベルドール頼む」
「全員下がれー、ディバインウォール」
光の壁が氷像とプレイヤーの間に入り侵攻を止める。
サフランは青色ポーションを飲んで、詠唱を始める。
「急いでくれ、そんなにはもたないぞ」
「いくわ、降り注げ爆炎の雨『レッドミーティア』」
上空へと放たれた巨大な火炎球は氷像の真上で爆発を起こす。
幾つもの爆炎が流星如く氷像に降り注ぐ。
激しい爆風と熱が起きるがベルドールのディバインウォールによってプレイヤーにはダメージはなく氷像にだけダメージを与える。
本日2発目の大規模魔法にサフランは息を切らす。それはベルドールも同じで広範囲に渡る光の壁の展開で疲労はピークに達する。
サフランに続いて他のプレイヤー達も持てる最大火力の魔法を撃ち放つ。
しかし、多くの氷像を葬ることはできても敵は未だにそれなりの数を残していた。
「うぉぉぉぉぉ」
激しい爆発でアドレナリンが出たのか、1人の男が氷像に向かって剣を振り下ろす。
「前に出過ぎるな!!」
虎徹の忠告は虚しくも彼の耳には届かない。
氷像の体にヒットした剣は逆に砕けて、首を掴まれる。
彼は体の芯まで凍らされ、砕かれて光の粒子へと変わっていく。
「くそっ、一人でも惜しいというのに……」
三次職が氷像を相手にするには複数人でかかるしかない。
しかし、圧倒的に戦力が足りていない。
全員の疲労はピークに近かった。
§
クロツキは戦闘に参加していなかった。元々の依頼が護衛ということもあり、職人達につきっきりだった。
しかし、状況が変わり戦力不足ということで戦闘に参加する許可を貰った。
襲いくる氷像はどれも人の形をしている。
俺からすれば戦いやすくてありがたい。
どうにも対人経験が多いのと、職業的にも人間が一番戦いやすい。
実は少し興奮している。フル装備をお披露目できる機会がやっときたのだから。
既に戦闘は始まっていてこちらが少し押され気味。
「ディー、準備はいいかい」
「キュイキュイ」
「じゃあ行こうか」
横にずらしていた仮面を顔に嵌めて足に少しだけ力を入れる。
「おっ、おい、あいつがとうとう動くみたいだぜ」
「なんか独り言喋ってねぇか」
「そんなの気にするなよ、あの格好の方がやばいだろ」
「しかし、大丈夫なのか? クロツキが強いといっても氷像もめちゃくちゃ強いらしいし」
「無駄口を叩く暇があるんだったら仕事をしやがれ」
「あいよ!!」
「あれっ、さっきまでいたのにクロツキはどこに行った?」
「いいから早くこい」
少し足に力を込めただけで恐ろしい速度が出る。
一瞬で戦闘区域まで着いたな。
氷像とプレイヤー達が戦闘をしている。
しかし、士気はかなり低く投げやりに近い。
なんとか四次職の3人が奮闘しているが崩壊も近そうだ。
移動中に襲われそうになっている魔法使いの女性が一人。
氷像に触られるとその部位から凍結が侵食していくらしい。
そうなると接近戦メインの職業は厳しいな。特にタンクはかなり厳しいんじゃないか。
あれこれと考えながら女性に伸びる氷像の手を斬り落とす。
硬いと聞いていたが簡単に斬れたな。
さすがは青江さんの自信作といったところか。
宵闇の小刀『月蝕』、元々の攻撃力は低いが、速度の出た状態の攻撃に補正がかかる。
俺の攻撃力不足を補ってくれる最高の武器だ。
停止状態だと効力を発揮せずに初心者ナイフと同じ攻撃力しか出ないがその場合は影の小窓を使って武器を替えれば問題ない。
影の小窓のメリットは状況に応じて瞬時に武器を付け替えれるのが特徴だからな。
「あっ、あの、ありがとうございま、ひっ……」
なぜ彼女はこんなにも怯えているんだ。
まぁ、氷像に襲われたら恐ろしいか。
「もう少し下がった方がいい」
「でも下がるなって」
「ラインは俺が……」
「キュイ」
「俺たちが維持するからもう少し下がってくれ」
「あっ危ない、氷像がっ!?」
氷像が俺に近づいてきてると勘違いしたのか。
既に腕を落とすと同時に首も落としている。
近づいているように見えたのは倒れるところだ。
彼女を下がらせる。
魔法使いが殴り合いに参加するなんてカオスすぎる。
防衛線は崩壊しているも同然だな。
「キュイキュイ」
「悪かったよ、俺たちで守るんだよな」
「でも、もう少し待っといてくれな。心配しなくてもすぐに活躍の機会はやってくるはずさ」
俺は宵闇の小刀『月蝕』の力を余すことなく使うため、高速で移動しながら氷像を倒して回る。
氷像の数も減ってプレイヤーにも余裕が戻ってきたようだ。
こっちはもう大丈夫そうだな。
上はどうなっているのか、ドラゴンの咆哮が山に響き渡る。