45話 アグスルトの余裕
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
クロツキは護衛として参加していたがモンスターなど一匹も出ずに肩透かしをくらっていた。
城ができていくも手伝えることはなく、ボーッと作業を見ていると肩をツンツンと触られる。
「オウカか久しぶりだな」
「久し……ぶり、どうしてクロツキはサポートなの?」
「いや、レベルが足りてないから」
「レベルなんて関係ない……強い人が戦うべき」
オウカはクロツキの装備を全身見て首を傾げる。
どう見ても四次職にも引けを取らない、というか四次職と比べてもあまりにも強力な装備の数々。
「そんなこと言われてもな」
「そういえば紹介しておくね、団長だよ」
オウカが修羅の団長を呼ぶ。
「おう、お前がクロツキかよろしくな」
「よろしくお願いします」
「なかなか面白そうな奴だな、今度殺し合おうな」
「丁重にお断りさせていただきます」
そんな会話をしていると場が騒がしくなる。
一匹の小さな黒い鳥が地面に降りる。
モンスターの襲撃かと警戒して攻撃をしようとするプレイヤーをあーさーが抑える。
「これは……ハザルの影か」
鳥は形を変えて人の姿になり喋りだす。
それはドラゴンについての情報だった。
全てを喋り終えると影は光の粒子に変わる。
ほぼそれと同時に見張りが叫ぶ。
「てっ敵が来たぞー!!」
襲撃してきたのは人型の氷像達。
様々な武器を手にした氷像が防衛拠点に攻めてきた。
「分かった、討伐部隊は氷像を無視してドラゴンにアタックを仕掛ける。ここの防衛はサポート陣を中心に頼む」
あーさーが指示を出して氷像の横を駆け抜けていく。討伐部隊の面々も後に続く。
氷像の動きは鈍くそれほど強くはないと予想されている。
討伐部隊は拠点を出てすぐにドラゴンと接敵することになった。
ドラゴンが頂上より降りてきて拠点を見つめていたのだ。
討伐部隊を見つけて竜の咆哮を放つと大気が震え、それは拠点にも届く。
「これが赤竜アグスルト、とてつもない迫力だな。だが、踵を返すわけにはいかないのだ。攻撃開始!!」
合図とともに遠距離からの攻撃がアグスルトに向かって同時に放たれる。
アグスルトはその攻撃に対して白銀の風で迎え撃つ。
全てを凍結させる風は迫りくる攻撃を防ぐだけにとどまらず、そのまま討伐部隊を襲う。
「防御を展開しろ!!」
あーさーの声で炎を操るプレイヤー達が壁を作って白銀の風から身を守る。
「あまりやりすぎるなよ、最低限抑えるだけにするんだ。攻撃よーい……」
防いでは攻撃をして防いでは攻撃をしてを繰り返す。
持ってきたポーションも切れてきて、脱落するプレイヤーも出てきた。
残ってるメンバーも満身創痍、あーさー自身も必殺の一撃の余力を残してはいるものの限界が近かった。
一貫していたのは必ず炎以外で遠距離から攻撃すること。
防御するときはそれらで守るが最低限で抑えること。
「あーさーさん、これじゃあジリ貧だよ。やっぱ炎系統で一気に攻撃した方が良かったんじゃないか」
1人の男がパニックになりあーさーに詰め寄ろうとするが、その集中した姿に後退りする。
あーさーには作戦が上手くいっていると確信があった。
最初に比べて明らかにアグスルトの冷気が弱まっている。
「そろそろいけそうだな」
あーさーは覚悟を決める。こちらの消耗度。そしてあちらの消耗度を推し量りここが最善だと。
「相棒よ悪いな。聖剣よ俺に力を……」
あーさーの持つ大剣が光で包まれていく。
圧縮された魔力により刃が粉々に砕ける。それでも神々しいほどの輝きを放って光の刃は形を作る。
「ハァァァァァァ」
アグスルト目掛けて走る。序盤なら近づいただけで凍らされてどうしようもなかっただろう。
だが今ならいける!!
アグスルトはこれまで矮小な存在に対して手を抜いていた。
この山に来てから頂点として君臨するうちに芽生えた傲慢さ。
自らの体で直接攻撃すればすぐに終わるということは分かっていてもそうはしなかった。
これまでもそうはしなかった。
相手が勝手に氷漬けになるだけなのだ。
しかし、その神々しい光は身の危険を感じさせる。
遥か彼方の遠い記憶が蘇る。
確かに他のドラゴンと比べれば動きは速くない。
しかし、腐ってもドラゴンなのだ。傲慢さゆえにダラダラと動いていたが動こうと思えば動ける。
翼を大き広げ、飛翔の構えを見せる。
確かに脅威は感じるが今にも儚く消えそうな光。
一旦空に避難すれば問題ないとアグスルトは考えた。
「くっ、届くか?」
あーさーの口から諦め半分の弱音が漏れ出た。
§
「ディー、大丈夫か?」
「キュイ」
大気を震わす咆哮に同じドラゴンであるディーが過敏に反応していた。
しかし、今では冷静さを取り戻している。
「よし、じゃあいくか!!」
クロツキはやっと仕事という仕事がやってきて張り切っていた。
ここまで作業を眺めるだけで、なんとも居心地の悪い空気を感じていた。
サポートのプレイヤー達もそうだが確かにクロツキとどう接すればいいか思い悩んでおり、それが悪い空気の原因でもあった。
しかし、クロツキが何もしてないからそうなのではなくクロツキの格好と噂が問題なのだ。
全身漆黒の装備に身を包み、戦闘時はつけるであろう骸骨のお面が今は頭の横に付けられているのも妙に不気味だし、なによりも戦闘になれば人が変わり殺人狂になるという噂。
イヴィルターズとの戦闘の動画という物的証拠もある。




