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41話 レイド戦開幕

「じゅっ……十億エリルだって……」

 桁が違いすぎる。

 初心者ナイフは1000エリルだぞ。

 一体なにが起きてるんだ。

「はははっ、やりすぎちゃって」

 スメラギは乾いた笑いを飛ばしながら目はどこか遠くを見ている。

「もっ、もちろんお金なんてとるつもりはないから安心してくれ」

 棒読みだ……


「まっ、まぁ本当にクロツキからお金を取るつもりはないから遠慮せず受け取っておくれ。会長さんは気にせんでいいからの。ちょっとだけ副会長に絞られただけじゃから」

「ハハッ……はははっ」

「十億もするなんて受け取れるわけないでしょ」

「実はの……」

 どうしてこんなことになったのか青江さんが説明をしてくれた。

 十数人の職人が最初は気持ちだけ手伝うつもりが、やはりそこは職人なのだろう。

 熱くなりすぎてこの有様だ。


「とにかくものをみてもらわんとな」

 運び込まれたのはマネキンだが全身にフル装備だ。

「えっと、これ全部ですか?」

「まぁ、そういうことじゃな」


 何度か断ったがオーダーメイドで俺専用なので受け取ってもらわないと困ると断固として拒否され受け取ることにした。

「さっ、装備して感想を聞かせておくれ」

「すごくフィットしますし問題はなさそうですね」

 このゲームの装備はサイズなどない。勝手に装備者にベストなサイズへと変化するからだ。

 しかし、装備ペナルティが発生することがあるため確認は必要になる。

 この装備品を全て装備しても特にペナルティはない。


「アー、似合ってるね。装備の具合を確かめるついでに一つお願いしてもいいかな」

「なんでしょうか?」

 まぁ、これだけのものをもらって断るというのは難しい。

「大丈夫、そんなに難しくないから。素材調達班の護衛をお願いしたいんだよね。場所はユニオール山脈鉱山跡地」

「Bランク区域じゃないですか、俺のレベルではきついですよ」

「大丈夫大丈夫、他にも護衛はいるし。それに今の君なら割となんとかなると思うよ」



§



 ユニオール山脈は王国の端、国境にそびえる山脈でそこを越えれば中立地区が広がっている。

 中立地区は大陸のほとんどを占めており多くの国が同盟を結んでいる。

 国同士で争っていてはモンスターを始めとする侵略を止めれないと設立された同盟だ。


 俺たちは今ユニオール山脈の麓にある街でアタックの準備を整えていた。

 街といっても華やかさはなく、どこか寂れた雰囲気を醸し出している。


 ユニオール山脈鉱山跡地、かつてはその鉱山から大量の素材が湯水のようにとれ、人の出入りも激しくこの街も栄えていた。

 しかし今では鉱山跡地なのだ。人の出入りが減っていくとともに街も衰退していった。

 素材が取れなくなったわけではない。

 一匹のドラゴンが住み着いてからユニオール山脈は人の立ち入れる場所ではなくなった。

 環境は大きく変化しモンスターのレベルが上がり、最奥にはドラゴンが待ち構えている。


 馬車が30台以上並び多くのプレイヤーも参加している。

 今回のこれはリリース1ヶ月イベントのレイド戦なのだ。

 すこし前から公式からレイド戦についての周知があったがスメラギのあれがレイド戦の護衛だとは思わなかった。

 装備の具合確認で軽く受けるものでは決してない。


 参加できるのは一定以上のレベルもしくは別枠の資格を有するもの。

 このレイド戦に参加できないプレイヤーは別のレイド戦が用意されている。

 俺はどちらも選べる状態だったが、スメラギの願いでもあったのでこっちを選択した。

 このレイド戦に参加できるのは王国所属でレベル60以上の猛者達。

 リリース当初からガンガンレベルを上げ、ゲームを進めてきたプレイヤー達だ。

 そのほとんどが参加を表明し、38人の四次職が集まっている。

 ほとんどの人が有名なプレイヤー達で配信であったりブログであったりと誰もが一度は攻略サイトでお世話になっているであろう人たち。


 ちなみに俺のレベルは51しかない。

 別口で、というかアメノマヒトツの推薦で護衛役として参加している。

 ドラゴンは相手にしないがその他のモンスターから職人達を守る役目がある。

 青江さんは職人としてレベル57で参加している。

 そんな俺たちのようなサポートプレイヤー30人ほどを含めてプレイヤーの総数は70弱。


 ユニオール山脈は高さ8000メートル。

 目的の鉱山跡地は5000メートル付近にあり、3つのルートで同じ場所にたどり着ける。

 レベル60以上だけで構成した先行隊が3つのルートに分かれてモンスターを倒しながら道を切り開いていく。

 その後ろを第二陣の部隊がついて行って標高5000メートル地点で防衛基地を設置。

 先行隊はすこし先へ進み防衛線を張ってドラゴンの撃退に移る。

 第三陣の部隊は採掘をする職人部隊。俺はここの護衛となっている。

 先行隊は最悪、採掘が済むまでの時間稼ぎとなる。


 つまり9つの部隊に分かれるということになる。

 3つのルートに分かれるのは、同じ道を大量の物資を運んでの登山となるとモンスターの襲撃に対策がとりづらく、さらに多くのモンスターを倒すことで後々採掘を邪魔されず退路の確保もできるからという理由だ。


 作戦会議のおりに四次職の間で揉め事があったみたいだがとりあえずは収まったらしく、当初の予定通り先行隊の3部隊が出発していく。

 俺はまだまだ待機だ。

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