34話 商人の眼
アメノマヒトツの店は喧騒な外とは比べものにならないほど静かでそれでいて、小さなBGMに接客の声があり嫌な静けさではない。
そう、表現するなら優雅、大金持ちの休日のようなVIP感を味わえる。
「おぉ、クロツキ、よくぞきてくれた。こっちで色々と準備をしてるのでなこっちで話そう」
青江さんが奥の工房から顔を出す。
そこは客室、おそらくは交渉の席などで使われる部屋だろう。
社畜時代の営業を思い出してしまう。こういう場にいい思い出はない。
「青江さん、お久しぶりです」
「わざわざ足を運んでもらって悪かったのう。それとなこちらの会長さんがクロツキと話がしたいらしく同席してもいいかのう?」
ソファに腰掛ける俺の対面には青江さんがいて、その隣に会長のスメラギもいる。
「えろうすんまへん。青江さんはウチでもトップクラスの職人でな、そんな人が気にいる人はどんなもんか気になってなぁ。教えていうても頑なに教えてくれへんし」
「特に問題はないですけど……」
「おおきに、単刀直入に聞くけどなんでなん?」
関西弁だし関西人のような会長はさすがというべきか、ずけずけと押してくるな。
「クロツキ、あれを見せてやってはくれんかの」
あれとは青江さんが感動したと言っていた小刀のことだろう。
俺は小刀『刹那無常』を机の上に置く。
「これは……ユニークアイテムやな、鑑定しても?」
「えぇ、どうぞ」
「刹那無常、瞬間瞬間で物事は変化していく。そしてこの小刀は言葉通りに変化は当然として変化しないものを許さない能力」
完璧な鑑定。俺よりも詳しく刹那無常を知られたのではないかと不安になるほどのもの。
「ユニークアイテムにしては地味やな」
「えっ……」
「それはそうやろ、ユニークアイテムっていうのは奇跡ともいえる代物や攻撃力は低いし能力も固定ダメージだけなんてしょぼいやん。この程度なら頑張ったら作れてまうわ」
「会長さんがそういうのなら確かなんじゃろうな。でもワシはその小刀に異様な魅力を感じるが……」
「まぁまぁ、話は最後まで聞いてや、こいつは今のところはその程度ってことで、条件開放することでほんまもんの能力を発揮するはずや」
確かに攻撃力はダガーナイフよりも低いし固定ダメージも俺からすればありがたいが他の人からすれば有用でない可能性が高い。
今までは最適化された結果だと思っていたが、スメラギの話を聞いているとしょぼい気もしてきた。
オウカの餓者髑髏と比べると確かに見劣りするか。
「条件というのは?」
「それは分からん。倒したボスモンスターに関連してると思うけどなぁ」
倒したボスモンスターはスケルトンオーバーロード・ヴェルヴァだった。
それを二人に話してみたが確証はないが関連しそうなのは怨念や死者というアバウトな結果に落ち着いた。
この話はこれ以上しても仕方ないので当初の予定である防具の話題へと移る。
「今のそれは暗殺者のフルセットじゃよな」
「その通りです」
「よくそんなんであの戦闘を切り抜けたなぁ、ほんまおもろすぎ」
確かに色々とあって防具に時間かける暇がなかったがそこまで笑わなくてもいいのにと思う。
どうやら一般的に武器や防具は自分の戦闘スタイルに合わせて鍛治師に頼んで調整をしてもらうらしく、俺のように買ったままの状態で使う人は滅多にいないらしい。
「会長さんはちょっと静かにしといてもらえるかのう。職業と戦闘スタイルを教えてくれるか?」
「あははは、いやぁ悪気はないんやけどクロツキはんはあまりにも無警戒やしおもろくてな」
無警戒とはどういうことだろうか。
「まず、ユニークモンスターの情報も武器についてもそんなポンポン話したらあかんわ。情報は武器やで、金になるんやで」
「はぁ……」
「まぁ、聞いてもうたもんはしゃあないし、さっきの青江さんの質問、ワイが答えてあげてもいいよ」
「……!? 会長さんが人の鑑定をしてそれを教えてくれると」
「せやなぁ、無料ほど高いもんもないからなぁ」
「どういうことでしょうか」
「会長さんにこれを頼めば1000万は下らない。全てを見られる代わりに全てを知ることができる。それは未来の可能性までも……」
「もちろん、お金なんて取らへん。さっきの情報のお返しや」
鑑定するだけでそんなに金が必要なもんなのか。
普通なら詐欺を疑うところだが王国でも屈指の商会の会長だし、青江さんもなんかそれだけの価値はあるみたいな反応だし。
「それではお願いします」
とりあえず頼んでみることにした。
「ほな遠慮なく」
スメラギの視線の質が変わったように思える。
「職業は暗殺者、しかも変わったルートからのようやな。これは中々……ステ振りはAGI極振り、ナイフがメインの近接型。ふーん、そんな感じなんか……大体見えたな。クロツキはんの持ってるアイテムいくつか貰えたら良い感じになりそうやな」
時間にして数秒で全てが分かったようだ。
名前:クロツキ
種族:人間
称号:復讐者
職業:暗殺者(Lv8)
Lv:38
HP:580
MP:49
STR:49
VIT:49
INT:49
DEX:87
AGI:135
SP:0
武器:ダガーナイフ、小刀『刹那無常』
防具:暗殺者のローブ、暗殺者のブーツ、暗殺者の手袋
装飾:白骨の仮面
スキル
影の小窓、敏捷向上、虚像の振る舞い、怠の眼、夜目、復讐の代価、恐怖の象徴、乱刀・斬、潜伏、不意打ち、怨恨纏い、状態異常耐性、環境適応、乱刀・突
所持称号
復讐者、大物喰い、孤高、不死殺し、英雄
経験職業
暗器使い(仮)(Lv10max)、暗器使い(Lv20max)
しかし、防具を作るというのはかなりの大作業になるとのことで数日かかるらしく、俺はスメラギさんに幾つかのアイテムを渡し工房を半ば強制的に追い出された。
スメラギは完全に商人スイッチが入ったようでやる気に満ち溢れ、青江さんはついていけていなかった。
「久々におもろくなりそうやでー。あっ最後にクロツキはんにアドバイスや、悪いことはしたらあかんで。ほんで人助けしてたらいいことあるわ。まっ、今まで通り行きやってことやね。それとAGI特化はいい選択やで」
数日となると卵を孵すための素材集めをしたいが、防具の揃ってない俺が行くには不安材料しかない場所だ。
そもそも、素材集めのために防具をなおそうと思ったのに……
パーティを組むか。
冒険者ギルド王都支店へ足を踏み入れる。
さすがの賑わいで人が多いが冒険者の建物も広くいのでそこまで窮屈には思わない。
受付もいくつもあって、多くのギルド職員が忙しなく動いている。
見知った二人の少女と顔が合って、あの黒歴史が蘇る。
「あっ、ルティ、クロツキだよ」
「えっ……」
「久しぶ……」
ほぼそれと同時にプレイヤー全員の動きが一瞬固まり歓声が沸き起こる。
ちょうど公式からメッセージが届いたのだ。
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