33話 栄光の道
王都のメインストリートに店を構えるというのは一種のステータス。
王都で最も栄えていて王城へも続くこの道はグローリーロードと呼ばれる。
そんなグローリーロードに店を構え、成功の証としてきらびやかな生活を送っているように見える彼らは商売人。
表面上はそう見せていても腹の中では何を考えているか分からない。
実は熾烈な争いの渦中にいて、追い込まれていようがそれを他に見せるのは三流のすること。
グローリロードの席数は決まっている。その数僅か30。
常に新しい風はやってきて牙城を崩さんと心を燃やしては高い壁に阻まれて踵を返すことになる。
少しでも気を抜けば牙城はすぐさま落とされ交代が起きる。
それだけ日常茶飯事に商人同士の蹴落とし合いが行われている中で未だに落とされることなく10年以上居座り続ける商会が5つある。
そのうちの一つ、鍛治工房アメノマヒトツこそ青江が指定した場所だった。
「これは……入るのに勇気がいるな」
出入りする人数は他の商会に比べると多くはない。しかし、出入りする誰もが見るからに強力な装備をした歴戦の猛者の貫禄が漂っている。
一方で俺はボロボロの装備で場違いにも程がある。
本当にここであっているのか不安になってしまうが、勇気を出して一歩ずつ近づいていく。
「おい、あれって……」
「あぁ、そうだよな」
周りの視線が突き刺さり陰口を言われてるのがそれとなく聞こえる。
牛歩の歩みで一歩ずつ足を進めるとあまりにも歩くのが遅すぎたのか俺を抜いて若い男女の二人が店に入ろうとする。
別に列ができてるわけでもないし順番を抜かされたとかでもない。
俺はラッキーっと内心喜んだ。
この二人の後ろについてささっと店内に入ってしまおうと考えたのだ。
「ちょっと待て、悪いがアメノマヒトツは一見さんお断りでね」
だが、店に入ろうとした二人の男女は槍を持った衛兵に止められる。
「はぁ、意味わかんねぇし。客は神様だろうがよ、入れろや」
「悪いが入れることはできない」
「くそが、舐めやがって」
「ねぇ、もう他のところに行こうよ」
「お前は黙っとけ」
男は背中の剣に手をかけたとき、パンパンっと二回手を叩いて店から一人の男が出てくる。
「ハイハイ、そこまで。もちろんお客様は神様やで……」
「ならこの扱いはどういうことだよ」
「おたくらはまだお客様ちゃうやん。それにこんな往来で暴れられたら敵わんわ」
「なっ……!?」
若い男は膝から落ちて光の粒子に変わる。
何をしたか分からないが店から出てきた男が何かをしたのだろう。
「で、そっちのおたくもなんや文句あんのかい?」
女の方は走って消えていった。
「アホなやつだな、アメノマヒトツの会長に喧嘩を売るなんて」
「あぁ、噂では五次職の猛者だって話だぜ」
周りの見物人達がヒソヒソ話をしている中に気になるキーワードが。
五次職……
そもそも四次職すらまだ解放はされていなかったはずだが、それはプレイヤーのみの話し。
現地人の中にはプレイヤーを余裕で超える実力者がいるという噂がある。
俺は信憑性が高いと思っている。
そうでないとセバスさんを筆頭にシュバルツ家で働く者達の実力が合わない。
しかしこまったな。
一見さんお断りでは俺は入ることができない。
青江さんに連絡してみるか。
「どうもお初にお目にかかります。ワイは鍛治工房アメノマヒトツで会長やっとります、スメラギいいます。ささっ、どうぞこちらへ」
先程までの男女二人に見せていた威圧的な態度が嘘のように俺に低姿勢で話しかけてきた。
「えっ、でも一見さんお断りでは……」
「青江さんから話は聞いとりますので」
なるほど青江さんが既に話をつけてくれていたようだ。
できれば教えておいて欲しかった。
妙に緊張したよ。
俺は会長に案内され店の中へ入っていく。
§
クロツキが店に入った後も見物人達はその場に留まり話を続けていた。
「すげー、アメノマヒトツといえばマジのトップランカーでもないと入れないような敷居の高い店だろ」
「あぁ、しかもあの会長が低姿勢で接客するなんて何者だよ、装備は初心者に毛が生えた程度のものだったように見えたが」
「動画見てねぇのかよ、イヴィルターズを一人で壊滅させたのあの人だぞ」
「マジで!? あんな防具でか? 強そうなオーラも全く感じなかったぞ」
「あぁ、だからやばいんだって。戦闘に入るとマジで黒いオーラが見えるから」
「すげぇな、俺も一度は店の中に入ってみてぇな」
「あの動画だって怪しいですけどね」
一人の男が話に割って入る。
男の名前はリン。
槍を背中に背負った男はクロツキを怪訝な目で見ていた。
クロツキとイヴィルターズの動画は何度もチェックしてそこまでの実力はないと確信していた。
それでも気にもしていなかったのだが、今この時から明確に気に入らないという感情が芽生えていた。
リンはもう少しで四次職の実力者。自分でもゲーム内でトップクラスの自負はあるし、強敵と戦い突破してきた。
それでもアメノマヒトツの敷居を越えたことはない。
アメノマヒトツに紹介されるには一定以上の実力があれば向こうから声がかかるのだが、一向にそんな話はこない。
直談判しに行き、会長のスメラギとも話したが答えは否だった。
まだまだ実力が足りないのだろうと考えていたところに、自分よりも格下であろう男が何事もないように敷居を超えていくのを見てしまった。
リンの知っているアメノマヒトツ側から話が来るというのは正しい。
しかし、それは一定以上の実力と様々な要素が噛み合って初めて招待されるのだ。
ただ戦闘をしてるだけではその条件に合うことはない。
もう一つアメノマヒトツの店に入る方法がある。
それは客としてではなく向こう側で働く方法だ。
しかし、これは戦闘職では不可能で生産者か文化人系統の職業かつ一定以上の実力が必要。
実は青江は鍛治師としてルキファナスの世界でトップの実力を誇っていた。
リアルでの経験があった分、他の鍛治師とはスタートダッシュが違う。
そしてそんなアメノマヒトツで働く青江がクロツキを紹介したからこそクロツキは簡単に敷居を超えることができたのだ。
そこらへんの事情をリンは知らないし、クロツキもあまり理解していない。