32話 たまご
やはり空の旅は快適の一言だった。
俺は再びストルフに送ってもらっていた。
王都へつけばドラゴンが手に入るのだ。
楽しみな気持ちが抑えきれないな。
「クロツキ様はドラゴンを欲しいとお嬢様に直談判したとお聞きしました。まさかそんな命しら……じゃなくて、ドラゴン愛がある方だとは思いもしませんでした。私もドラゴン愛だけは誰にも負けてないと自負してましたが、まだまだだと思い知らされましたよ」
そこまでのつもりは全くなく、軽い気持ちでドラゴンが欲しかったから口走ってしまっただけなんだけどな。
「まさか、私も本当に頂けるなんて思いもしていなかったので楽しみで仕方ないですよ」
「どんなドラゴンか楽しみですね」
「ストルフさんも知らないんですか?」
「あぁ、もしかしたら勘違いされてるかもしれませんがいきなりドラゴンは貰えないんですよ。貰えるのはドラゴンの卵でそこから自分で育てないといけないんです。あらゆるモンスターの中でもトップクラスの育成の難しさで手間暇がかかるんですけど、その分、愛も深くなりますよ」
そうなのか、ドラゴンが直接貰えると思ってたが卵からなのか。
まぁ、どちらにせよ貰えることに変わりはないから関係ないな。
むしろ楽しみが増えたぐらいだ。
「どんな種類かもランダムなんですか?」
「いえ、ナヴィと同じ黒竜種グウェンドですよ。同じといっても一体一体個性がありますからね」
ナヴィは今俺を王都まで運んでくれている黒竜なのだがこのドラゴンと同じ種族らしい。
「黒竜種のグウェンドということは他にも種類があるんですか?」
「もちろんそうですよ。まず、大まかに分けて竜と言うのは6種類に分類されます。黒竜………………」
どうやら俺は押してはいけないスイッチを押してしまったらしい。
ストルフさんのドラゴン愛が爆発してマシンガントークが止まらない。
マシンガンは王都に辿り着くまで弾切れを起こさずに撃ち続けられた。
まぁ、ドラゴンへの興味は俺にもあったしそれなりに聞きいってしまった。
要約するとまず大まかに6種類のドラゴンに分けられて、そこから身体的特徴などで細分化される。
大まかな6種類とは分かりやすく色が違う。
身体的特徴は羽の形であったり尻尾、そもそも羽が生えていないなど結構細分化されているらしい。
中でも黒竜グウェンドはドラゴンの中でも比較的古い種族で強大な力を持つらしい。
ドラゴンだけでなくモンスターも古い種族の方が力が強いとのことだ。
「おっと、もう少し熱く語りたかったですがついてしまいましたね」
黒竜のナヴィは王都から飛び立った時と同じ場所へ降り立つ。
「お帰りなさいませストルフ様。約束の品は用意できています」
「あぁ、ありがとう」
執事服の少女は頭を下げて待っていた。
「クロツキ様フットマンのルーです。ルーは基本的にこの屋敷にいますので、もし王都で何か困りごとがあればルーに話をすれば私に伝言を残せますので」
フットマンといえば執事見習いのような立場だったっけかな。
「よろしく、ルー」
「クロツキ様。よろしくお願いいたします」
3人で廊下を歩く。
廊下の壁に飾られているのは様々なドラゴンの絵画だ。
そして足が止まってしまう。どうしても歩きながら流し見をすることはできない絵が一枚。
それは最も大きな絵で、絵画でありながら本物のドラゴンのような威圧感を放っている。
黒き鱗を身に纏い、黒よりも黒い翼を二対広げている。
「これは黒竜の王族ともいえるグウェンマグナです。この威圧感ながらグウェンマグナの中では弱い部類なのですよ。それでも一国を軽々と滅ぼす程度の力は持っていますけど」
「これは……凄いですね」
「とある芸術家に依頼し、スキルを用いて描いてもらいました」
「なるほど……」
この威圧感は芸術家のスキルによるものなのか。
それともモチーフとなった黒竜の偉大さが心に響くのか。
その両方だろうなと俺は結論づけた。
とある部屋へ案内され入ると部屋の中央に卵が置かれていた。
「クロツキ様、こちらがお約束のものになります。お受け取りください」
「ありがとうございます」
大きさにして直径50センチほどで重さは10キロ程度。
アイテムボックスに入れることができてよかった。
ドラゴンの卵はただ置いていても孵ることはないらしい。
いくつかのアイテムが必要でストルフさんにリスト化してもらった。
モンスターを狩って素材を入手しなければいけない。
なんだか凄くRPG感が出てきた気がする。
俺のルキファナス・オンラインはなぜかモンスターと戦闘するよりもプレイヤーとの戦闘の方が印象深い。というかPKだな。
初心者狩りのリオンとルティ、そして先日のイヴィルターズ。オウカとも一瞬だけ戦闘したな。
素材入手のためのモンスターは今の俺からすると中々に強力だ。
まずは準備から始めないといけない。
イヴィルターズを倒したことでレベルも上がったし、装備もなおさないといけない。
イヴィルターズとの一戦でかなりボロボロになってしまっている。
装備といえば青江さんから連絡があったけど、レストリアにいたから王都につけば連絡を入れるといっていたんだ。
「もしもし、青江さんですか。お久しぶりです」
「おぉ、クロツキではないか、連絡がなかなかこなかったので忘れられてるんじゃないかと思うとったわ」
「すみません。色々と立て込んでまして」
「いいわいいわ、知っとるから。動画を見たぞ。どうやら派手に巻き込まれたようじゃな」
どうやらあのイヴィルターズとの動画を見てくれていたらしい。
「よくもまぁ、勝てたもんじゃわい」
「手助けもありながらなんとか」
「防具はまだ変えとらんのだろ」
「そうなんですよ、それで相談をしようかと連絡しました」
「任せろい、もちろん素材の準備はバッチリしてある。後は話し合ってクロツキの戦闘スタイルに合わせた防具を作るのでな、できれば直接会いたいんじゃが」
「それなら今からとかどうですか?」
「おぉ、そりゃあ丁度よかった」
青江さんからマップが送られてきてその場所へ向かう。