28話 サバキノトキ
28話 サバキノトキ
ナイフの切っ先が大剣で受け止められる。
「ハハハハハハっ、残念だったな、もうスキルも打ち止めだろ」
「乱刀・突」
50以上の刺突の連撃がイーブルを襲う。
10発程度は大剣に吸われたがそのほかはイーブルの体に突き刺さる。
心臓こそ守れてはいるが致命的なダメージ。
乱刀・斬が俺との相性も良く有用なスキルだと知って同種のスキルをシュバルツメダルを使って購入しておいた。
ただし、この乱刀のスキルは止まった状態でないと発動ができない。
つまり、攻撃の際に隙を見せることになるがいらない心配だった。
恐怖に支配されたイーブルの選択は防御。
「ガハッ……あぁ、あぁ、助けて……くれ」
大剣を落とし、腰を地につけ、こちらを見上げてくる。
フルフェイスのその隙間から覗かせる目には確かな恐怖が宿っている。
「ふざけるな」
これまで命を好きなように弄んでおいて自分だけは助かろうなどと許せるはずもない。
フルフェイスから伸びる首を隠している部分を左手で少しだけ上げて、その隙間からナイフを滑り込ませる。
「ゴフッ」
首を貫いたと同時に黒い霞が一気に空気中へと霧散する。
終わったんだな。
イーブルと共にリオンにのしかかっていた鎧も光の粒子へと変わっていく。
プレイヤーは死ねば光の粒子となってまた蘇る。
俺の盾となってくれた村人達を見ても、光の粒子には変わらず、ただただ死体だけがそこに残る。
現地人と来訪者の1番の違いかもしれない。
「大丈夫?」
起き上がったリオンが声をかけてくる。
「大丈夫だよ、さっきの助かった。ありがとう」
「私の方こそ助けてもらってありがとう」
「はぁ、みんなの所へ向かおう」
森を越えるとルティとセン婆さん、くるときにお世話になった御者が馬車と共に待っていてくれた。
「あぁ、リオンよかった。それにクロツキさんも無事でよかったです」
「……ですが、何人かが俺の盾になって亡くなりました」
「クロツキ様、とりあえずは馬車に乗ってお休みください」
御者が馬車を操る。
荷台には食料も積んであり、俺はそれを見て一気にお腹が空くのを感じた。
ほとんど徹夜でご飯を食べる時間などなかった。
「好きなだけ食べていただいて結構ですよ」
馬車を操りながら前を向いている御者は荷台に乗っている俺の何かを察してそう言ってくれた。
シュバルツ家に仕える人間は全員が空気を読む能力に長けている。
ジャンヌを除いて……
「すみませんが少しログアウトしてもよろしいですか?」
「もちろんです休憩は重要ですから」
「その間の護衛は任せな」
「ありがとうございます。1時間ほどで戻ります」
俺は眠るように目を閉じてログアウトした。
ゆっくりと目を開ける。
目に映ったのはカプセルの中の壁。
馬車にあった食べ物うまそうだったな。
残念ながら家にある食べ物はほとんどが冷凍食品。
解凍してる間にルキファナスについてのトピックを読む。
俺とイヴィルターズの戦闘があってから1時間も経ってないのに早くもニュースになっている。
しかもニュースの内容は俺一人でイヴィルターズを殲滅したと書いてある。
しかも動画付きで……
時間のある時に中身を見ておかないといけない。
しかし、ニュースの内容的にこれは後から誤りだと発信したほうがいいのかどうか。
逆にそれで火がつかれても困る。
実際は色々な人の手助けあってなんとか勝つことができただけ。
ルティとリオンには話しておかないといけない。
俺一人の手柄ではないわけだし。
ささっと食事を済ませて軽くシャワーを浴びてカプセルに戻る。
寝不足な気もするが徹夜慣れしてる俺に問題はない。
ジャンヌに報告してから寝ればいい。
このカプセルには安全装置が備えられていて生命に危機を感じると強制ログアウトさせられる。
それは食事だったり睡眠だったりと色々ある。
まぁ、その段階は危険な状態なのでそれを目安にすることは公式も非推奨だ。
俺は目を閉じた。
体を起こすと馬車の中にいた。
「ありがとう」
「いえいえ、短すぎる気もしますが大丈夫ですか?」
「えぇ、十分に食事は摂りましたから。それとイヴィルターズとの戦闘がニュースになってました」
リオンとルティにニュースの内容を伝えたがほとんど俺がやったようなものだしいいんじゃないと気にする素振りも見せない。
「それに目立ちたくもないしね」
やはりそうだよな、俺も目立ちたいわけではないんだが……
しかし、あれだけの人数相手に復讐を成功させた。
簡易的な復讐システムで新スキルの獲得はなかったが敏捷向上がランクアップして疾風になった。
復讐システムでスキル経験値を奪ってランクアップしたらしく、そんな機能があったこと知らなかった。
スキル経験値という言葉も初耳だし……
アイテムやエリルはいうほどのものでもなかった。
しかし、相手からすると復讐されて色々奪われたとメッセージが出るはず。
今後もあいつらには目をつけられる可能性は高い。
まぁ、気にしすぎても仕方ないし、なるようになるだろう。
領都レストリア、シュバルツ城に帰ってくると村人達が一区画でかたまって炊き出しを頬張っている。
数日間まともな食事をできていなかったはずだ。
一心不乱に食べている所へ近づいていくと、俺に気づいた村人から歓声が聞こえてくる。
「クロツキ様ありがとうございました」
「クロツキ様のお陰で子供達も無事でした」
「村の英雄だ!!」
食事を横に置いて頭を下げたり、拍手をしたりと様々だが、誰もが俺へ感謝の意を示してくれる。
「兄ちゃん……」
一人の男の子がゆっくりと前へ出てくる。
その子は地下牢で俺にイヴィルターズをやっつけてくれと頼んできた子ども。
先程まで泣いていたのが分かるほどに目を赤く腫らしている。
「ありがとう……」
涙を堪えての一言に俺はなにも返せなかった。
他の村人達も目を赤く腫らしている。
決して犠牲がなかったわけではない。
元々俺がいく前に死んで間に合わなかった人もいれば、俺を助けるために命を落とした人もいる。
それなのに恨み言の一つも言わないで俺なんかに感謝を述べてくれる。
俺はその人達を直視することができなかった。
逃げるようにジャンヌへの報告に向かう。
「助かったよクロツキ」
ジャンヌは優雅に紅茶を飲んでいる。
「……死んでしまった人達がいる」
「その顔はそういうことか……気にするななどといっても意味はないのだろう。恥ずかしい話じゃが国が動くまでに後数日は必要じゃった。その間に何人の犠牲があったか分からない。しかし、お前の尽力によって大勢の命を助けたのも事実じゃ、そこを見落としてはいかん。胸を張れクロツキ、村人にとって英雄なのだ」
「……ですね」
どこかで割り切らなければいけない。
頭では分かっていても簡単にできるものではない。
少しずつ自分の中で消化していくしかない。
「ルティ、リオン、今回は助かったありがとう。恩賞もあるので期待しておいてくれ」
「いえいえ、私なんて捕まってただけですし……」
リオンはなんだか人が変わったようにジャンヌに接している。
貴族相手で緊張でもしているのか。
「いやいや、最後の詰めで大いに活躍したと聞いた。素晴らしい戦果ではないか」
「私も遠くから見ていただけで何かをいただくなんてとんでもないですよ」
「そんなことはない。大規模魔法のサポートなぞ凡才にできるわけもない。それも婆さんのサポートなぞ天才でないとできない芸当。大活躍と言っても過言ではないだろう」
「そうだよあんたたち、貰えるもんは貰っときな」
「そうだ、セバス今から宴へと移行してその場で活躍を称えると同時に恩賞を渡そう!! 酒と食事を持ってくるのじゃ。宴じゃうたげーーー」
セバスさんが恭しく頭を下げて消えた……
まさしく音もなくその場から消え去った。
次の瞬間には城の中からワゴンを押してきて宴のセッティングを始めている。
メイド達も機敏に動いているが異常な光景だ。AGI極振りの俺が目で追えない動きをメイドの全員がしている。
みるみるうちに会場の準備がされていき、リオン、ルティ、村人に俺もそれには唖然としていた。




