27話 プロの実力
イーブルと向かい合う。
村人は安全圏まで逃げることができた。
村に残るのは俺とイーブルとリオンの3人だけ。
リオンも逃げようと思えば逃げれるはずだし、救出はおおむね成功と言えるだろう。
イーブルとわざわざ決着をつける必要があるのかどうか。
相性は最悪。勝てる確率はかなり低い。
それでも俺は戦う。
殺し尽くせと心が叫ぶ、怨念も恨みを晴らすべく力を与えてくれる。
「まさかここまでやるとは思わなかった、だがお前が俺に勝つことなどありえない」
大剣でのなぎ払いを避けてダガーナイフで腕を攻撃するが鎧に弾かれてダメージは通らない。
「残念だがお前の攻撃は俺には効かないなぁ」
スキルで防御力を上げられてはダガーナイフではどうにもならない。
ダガーナイフをしまって刹那無常のみを装備する。
「なんだ諦めたのか?」
再び同じ展開が繰り返されるが先程と違うのはダメージが入っていること。
「ん、ダメージを受けているな、固定ダメージの武器か、いいもん持ってるな」
刹那無常は変化をしないことを許さない。
ダメージがゼロでHPに変化がないことを許さず確実にHPを1ずつ削る。
「おいおい、まさか1ずつ俺のHP削って0にするつもりか? はっは、こいつはとんだ馬鹿だな。何千回攻撃を振るつもりだ馬鹿がよぉ!!」
ダメージを入れていると言っても一回の斬撃で1ダメージ。
どれだけ攻撃を重ねても遠く及ばない。
それでも確実に削り続ける。
削って削って削る。
「あぁぁぁぁぁぁ、めんどくせぇ、チョロチョロとよ」
§
イーブルは口ではイラついているように見せたが内心は至って冷静そのもので、クロツキの能力の分析を始めていた。
過激な言動で炎上を度々していてもプロゲーマーとして生き残れているのには確かな実力が備わっているからで、特に分析能力には定評があった。
クロツキのステータスの高さは異常だ。
特にAGIは尋常じゃない。さらに他のステータスも低く感じない。
他のプレイヤーからバフを受けている様子もないことを考えると称号やスキルによるステータスアップは確実だ。
称号はスキルと違って制限時間はないはずでどうしようもないが、そこまで劇的に変わるとは思えない。
となると、問題はあの黒い霞だな。
あれが体を覆ってから一気にステータスが上がった。
そして、確実に時間を稼げば大丈夫だと確信できる。
戦闘をすればするほど黒い霞は薄くなっている。
だが、謎なのはそれでもクロツキが戦いを続ける理由が分からない。
状況的にクロツキが勝つには第三者、しかもかなりの実力者の介入でもなければ逆転は不可能。
何かを待っているのか。
リオンとかいう女では無理だ、となると援軍の可能性もあるのか?
それなら始めから援軍と共に来ればいいだけのはず。
その可能性は0ではない。
ともすれば負ける可能性があるのか……
イヴィルターズなんて名前で暴れても許されていたのは力があったからだ。
それがこんな無名のザコプレイヤーに負けたなどとなれば、どれほどの屈辱を受けるか。
負けるわけにはいかない。
やられるわけにはいかないんだ……
先程までは受けの姿勢だったイーブルが突如攻撃的なスタイルに変わる。
大剣を振り回して一撃でも当たれば終わりだと言わんばかりに隙だらけで攻撃を仕掛ける。
いくらクロツキがチクチクと攻撃を当ててきても一撃でも当たれば終わりなのだ。
今までキルしてきた奴らの中にも避けるのが上手い奴はいた。
しかし、一つでもミスをすれば終わりのプレッシャーの中で延々と避け続けることなどできない。
現にそうして俺はそいつらを倒してきた。
「この状況でその選択は……思考が鈍ってるんじゃないか?」
淡々と作業のように1ずつダメージを与えてきていたクロツキが久しぶりに口を開いた。
「何をバカなっ!?」
先程まではヒットアンドアウェイで攻撃したらすぐに遠くに離れるをしていたクロツキはあろうことか、イーブルの攻撃の届く範囲内に留まりながら回避をしはじめた。
自ら死地へ足を踏み入れ、それでいて笑って回避をし続ける。
イーブルはクロツキに恐怖を感じはじめた。
さらに絶望へと落とし込むように黒い靄が再びクロツキの体を覆っていく。
ようやく終わりが見えてきたというのに、ここに来てまたやり直し……
クロツキにとって一撃で終わるなど普通のことだった。
むしろ大振りになったおかげで回避も楽になっている。
最もやられて嫌なのは当てるだけの攻撃だ。
一撃で死ぬことはなくても動きが止まればそれは死と同義なのだから。
だからこそイーブルに正しくない選択だと言った。
今のイーブルは恐怖に怯えて正しい判断ができていないのだ。
それは死の恐怖か、それとも……
恐怖の象徴というスキルは攻撃に恐怖を付与するがダメージを与えなければいけない。
その点、刹那無常と非常に相性が良かった。
ここまで何百とダメージを与えて、恐怖をばら撒いている。
さらに発動すると攻撃全てに黒いエフェクトが発生するのだが、偶然にも怨念纏いの黒い霞に隠れて発動しているのも気付いていない。
さらに追い込むために虚像の振る舞いを発動させた。
影が虚像を見せる。
明らかに俺を捉えられていない。
この状態なら攻撃を受けることはないだろう。
後は決定的な一撃をどうやって入れるか。
状態異常にしても毒のようにHPが減るわけでもない。
黒い霞もかなり薄まってきている。
時間もないし、ここが勝負どころだった。
通話で作戦決行の合図を出す。
「なっ!?」
イーブルの胴体の鎧が消えた。
消えた鎧はイーブルの後ろに忍び寄ってたリオンの元にあった。
「むぎゃっ」
リオンは鎧の重みとペナルティで転倒した。
それと同時にイーブルの足元に魔法陣が現れそこから出た4本のステータスを下げる黒の鎖が両腕を抑える。
後はガラ空きの心臓にナイフを刺せば勝利。
刹那無常を攻撃力の高いダガーナイフに替える。
「ここで落ちろ」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ」
右腕が黒の鎖を引きちぎり持っていた大剣の腹で心臓を庇う。
あまりにも強すぎる敗北への恐怖がイーブルの体を動かした。




