26話 怨恨
地下牢から地上へ出ると20人ほどの人間が一塊に集まっていた。
もちろんその中にリオンもいて、捕らえられている。
「クロツキ……本当に来たんだ、でも私のことはいいからその人達を守りなさいよ」
その人達とは俺の後ろにいる村人のことだろう。
自分の身よりも村人を助けてか……
こっちもそのつもりだが、一人で守り切るのは難しい。
戦闘のできる村人にも手伝ってもらう予定だ。
といっても軽い攻撃で牽制しながら退がってもらうだけだが、危険がない訳ではない。
さて、見事に相手の面々は男から女に至るまで気に入らない顔をしている。
顔の良し悪しではなく、村人を獲物と見立てて狩りを楽しむ下卑た笑いを浮かべている。
最も楽しそうのはリオンの隣にいるイヴィルターズリーダーのイーブルだ。
全身を巨大な鎧で包んでいる。オウカと似たようなフルアーマー装備だが違うのは背に大剣を携えているところ。
「お前、クロツキというのか、どうしてこんな無駄なことをする?」
「無駄とはどういうことだ」
「所詮NPCだろ、ゲームじゃないか」
ニヤニヤとしたその顔からは俺へ対しての挑発が感じられる。
俺が怒りを感じる言葉をチョイスしてるのが分かる。
そしてスキルが発動しているのも分かる。
「悪いけどそれには同意できないな」
「そうか、残念だよ。いるかを倒したようだし優秀なんだろうが、ゴミ共に感情移入するようなあまちゃんはウチにはいらねぇからな」
「そうか……」
一瞬でイーブルの懐へ潜り込む。
レベルの低い者からは消えたように見えたかもしれない。
今の俺のステータスは爆上がりしている。
復讐者の称号と、新装備でのステータスアップ。
これに敏捷向上のスキルを発動させればAGIは200を超える。
特に復讐者の称号の効力が強い。
それだけ今までのこいつらの行いが腐っているともいえる。
近づいた刹那、イーブルと顔が合う。
その顔に焦りはなく、不適に笑みを溢している。
自分がやられるなど一切感じていない。
それは正しく、ステータスが上がってもほんのかすり傷が与えれればいい方だろう。
ダガーナイフでギリギリかすり傷、刹那無常で1の固定ダメージ。
それが余計に腹立たしいが俺の気持ちは一旦横に置いてやるべきことをやる。
俺は両手に持ったナイフを使わずに余った毒煙玉を全て足元へ叩きつける。
「攻撃開始!!」
俺の掛け声で村人から投げ槍や矢が無数飛ばされる。
煙で狙いなどつけることはできない。
俺は降り注ぐそれらを避けながら端から削っていく。
「ぎゃあーーー」
「くそっ、前が見えねぇ」
まずは邪魔な奴らを消していく。
「リーダー、どうしますか?」
「とりあえず煙が邪魔だな」
「りょーかい」
突如強い突風が吹いて毒の煙幕が晴れていく。
風の中心にいるのは要注意人物の魔法使いPX441。
煙は晴らされたが十分な成果はあり、かなりの人数にダメージを入れることができた。
「うぅ、助けて……ください」
槍が腹部に刺さった男がイーブルへ声をかける。
「ふん、この程度の攻撃も何とかできないゴミなどイヴィルターズにはいらん」
大剣が男の首をはね、光の粒子へと変える。
この間にも村人は撤退を始めている。
「PX、逃すな」
イーブルの声でPX441が詠唱を始める。
投擲ナイフを投げて邪魔をしようとするがナナシの二本の剣で弾かれる。
「早く逃げろ!!」
風の刃は容赦なく村人へ向けられる。
咄嗟に体が動いてしまった。
最もやってはいけない行動をとってしまった。
「くっ……」
俺は村人の前へ移動して二本のナイフをクロスさせて風の刃を受け止める。
止めることはできたが全身に無数の傷を負ってしまい、もう全力で動くことはできない。
「時間を……稼ぐ……逃げて」
「クロツキ様」
「ここは任せてください!!」
「バカな……何を……」
「ここであんたがやられちまったら家族が助けらんねぇ」
「オイラたちの命で家族が助かるなら……」
数人の村の男が俺の前に立ちポーションを渡してくる。
「家族をお願いします」
切実な願いだった。
二度と会えなくなるかもしれない。
それを覚悟して、震える足を、手を抑えてイーブルたちの前に立つ。
一瞬で村の男達は蹴散らされた。
一つしかない命を踏み潰された。
逃げる家族の背中を見て涙を流して死んでいく。
「とんだ茶番だったな」
イーブルは息絶えた村人をゴミを横へ寄せるように蹴った。
「おい、どういうつもりだ?」
「ポーションで回復したみたいだが、それでどうする、何ができる?」
「なぜその人たちを殺した」
もはや怒りが通り越して怒鳴る事すら忘れ、淡々とイーブルに問いかける。
「何を熱くなってんだ。所詮はNPCだってのに、そんな怒んなよ」
「その人たちは現地人だ。たしかにこの世界で生きている人たちだ。妻がいて、子どもがいて、ただただ幸せに暮らしていただけなのに」
「ちっ、会話になんねぇな。面倒くせぇ、テメェらとっとと殺っちまえ」
「……お前達を殺し尽くす」
グレーアウトして使うことができなかったスキルが今こそ使えと言わんばかりに使用可能になる。
「怨恨纏い、発動」
怨念が黒い霞となって様々なところから俺の体へと集まってくる。
先程命を失った村人からも霞が発生している。
気づけば体が黒い霞で覆われている。
力が溢れてくる。
奴らを殺し尽くせと心が叫ぶ。
相手はイーブル、ナナシ、PX441と数人。
一瞬でキョロキョロしている男の背後へ周り首を掻っ切る。
これをあと二回繰り返して残すは三人。
仲間がやられても動く気配すら見せない。
まずはPX441からだ。
俺の動き出しを察知して、PX441は風の刃を放ってくる。
魔法の中では速度の速い風の刃も今の俺には当たる気配すらない。
近づく俺に風の刃を連発するも一撃も掠らない。
焦ったPX441は自身と俺との間に風の壁を作った。
だがこれは前方を防ぐだけのもので高速で移動して背後を取れば首を落とすのは容易い。
「まずは一人……」
「ナナシ」
イーブルの声で双剣士のナナシが飛びかかってくる。
俺も二本のナイフで応戦する。
双剣のメリットは手数の多さだが、俺の攻撃の方が手数が多い。
攻撃力は確かに高くはないが、確実にナナシの体にダメージを与えていく。
「はぁぁぁぁぁぁ、双剣乱舞」
双剣による連続攻撃のスキル。
「乱刀・斬」
AGIに応じて斬撃の数が変わるスキル。
「面白いっ!!」
乱刀・斬が攻撃力が上がらないのに対して双剣乱舞は攻撃力が上がる。
普通ならそれほど斬撃の数も変わらない。
自らの方が有利だとでも思ってるんだろう。
「普通はな……」
双剣乱舞の10回の斬撃に対して、AGI極振りに称号によるステータスアップ、さらに怨恨纏いのステータスアップで俺の乱刀・斬の斬撃の数は50を超える。
あまりにも斬撃の数が違いすぎた。
お互いのスキルがぶつかり合うとナナシ斬撃を俺の斬撃が飲み込んで、両腕はバラバラに切り刻まれ、さらに肩、首へと傷跡が広がっていき、最後は光の粒子に変わる。
「二人目……」
残るは一人。




