24話 サバキノジュンビ
-クエスト-
『罪を犯し者への裁き』を受注しました。
リストにあるターゲットを処分せよ。
出発の直前にジャンヌからあるリストを渡された。
「これをクロツキに渡しておこう。そこにある名前の者を相手にする場合、簡易的な復讐システムが発動するようになっている。好きなだけ殺し尽くしてこい」
殺し尽くしてこいと言ったジャンヌの目の色が変わる。
そこに普段のクマのぬいぐるみを抱いた年相応の少女の姿はなく、幾多の殺し合いを経験してきた歴戦の猛者のオーラを感じた。
このジャンヌのオーラや執事の戦闘力、暗殺リストなどシュバルツ家は何者なのかとか色々思うこともあるが、そんな余計なことは気にしないことにしよう。
大体、アニメの定番ではそういうことを気にしたやつは消されるのだ。
現状大事なのは復讐システムの適用が俺には追い風になるということだけ。
目的の村まではシュバルツ家の馬車で向かう。
着くまで少しの休息。
どういう戦いになるかを頭の中でイメージしたり、ステータスや装備の確認をする。
名前:クロツキ
種族:人間
称号:復讐者
職業:暗殺者(Lv0)
Lv:30
HP:500
MP:41
STR:41
VIT:41
INT:41
DEX:71
AGI:111
SP:0
武器:ダガーナイフ、小刀『刹那無常』
防具:暗殺者のローブ、暗殺者のブーツ、暗殺者の手袋
装飾:白骨の仮面
スキル
影の小窓、敏捷向上、虚像の振る舞い、怠の眼、夜目、復讐の代価、恐怖の象徴、乱刀・斬、潜伏、不意打ち、怨恨纏い、状態異常耐性……
称号は復讐者を選択しておく。
簡易的とはいえ復讐状態であることには変わりないので、俺の持つ称号の中で最もステータスが上がる復讐者を選んだ。
武器は普段はダガーナイフ、硬そうな敵は影の小窓に設定している小刀『刹那無常』に替えて攻める。
防具は隠者セットから暗殺者セットへとフルチェンジしている。
これはジャンヌからの手土産だ。
装飾品にはユニークアイテムではないものの、地下迷宮でヴェルヴァを倒した時にドロップした白骨の仮面をつける。
そしてアイテムボックスには罠に使ったり、奇襲に使ったりするアイテムを限界まで入れている。
スキルについてだが、暗器使いの職業レベルが20になった時に獲得した影のオーラというスキルがある。一定時間、自身の体を影が覆って相手に動きが把握されづらくなるスキルだ。
しかし、スキル欄には載っていない。
惑わしの歩法と合わさって虚像の振る舞いにランクアップしている。
動きが把握されづらいだけではなく、相手に誤った動きの虚像を見せるスキルになった。
そして、暗殺者の初期スキルである二つのパッシブスキル。
状態異常耐性は名前の通りのスキル。
今までもよりも状態異常にかかりにくくなった。
環境適応はその場の環境に一定時間いれば、適応することができるようになる。
例えば暑い地域に一定時間いれば暑さに強くなる。
ただし、その場を離れると時間経過で適応状態は解けるといったスキル。
今のところはまだよく分かっていない。
AGIは100の大台を超えている。
これは中々いないはずだ。
今回の作戦はこの暴力的なスピードを生かしてのヒットアンドアウェイ。
持ってきた様々なアイテムを駆使して敵を減らしていく。
どれだけ泥臭くてもやりきらなければいけない。
「クロツキ様、到着いたしました」
御者の声で外に出る。
村はまだ見えていない。村へ続く街道はイヴィルターズに見張られているし、それ以外は森に囲まれている。
ここからは徒歩で森の中を歩いていく。
ルティ達は既に村を確認できるところで準備を進めていると聞いている。
「ありがとうございました」
そう伝えると御者は颯爽と踵を返す。
細心の注意を払って息を潜め、送られたマップを頼りにゆっくりと森を進む。
潜伏は激しい行動をすると解けてしまう。
道中、数人のプレイヤーとすれ違うが気づかれてはいない。
セン婆さんの人払いの魔法もあってそうそうは気付かれないらしい。
実際に目的地に辿り着いてもルティとセン婆さんの姿は見えず、気配は小鳥などの小動物のものしか感じなかった。
しかし、突如二人の姿が現れた。
……!?
驚くが声を出すわけにはいかない。
ルティが手招きしてくる。
「準備はできとるかの?」
セン婆さんはこちらを見ずに問いかけてくる。
大規模魔法の準備、それに神経を注いでいるのは見てすぐに分かった。
「大丈夫です」
「そうか、ワシとルティはここから動けない。全てお前さんに任せるぞ」
「クロツキさん、お願いします」
「村の中心まで人払いの魔法で導く。戦闘が始まればすぐに効果が切れるから準備が整ってから仕掛けるんだよ」
§
「……ふぅ」
ゆっくりと慎重に、それでいて素早く仕掛けを済ませていく。
村の中心へ一歩近づく度に緊張のレベルが上がっていく。
「ハハハ、あの女またリーダーに喧嘩売って痛い目にあってんのか」
「痛い目っていってもログアウトされたら意味ないんだけどな」
「つーか、このゲーム自由度高いのにお楽しみはできないなんて生殺しもいいとこだぜ」
「それはリアルで解消してこいっつーの」
下衆な会話をする男達の横を通ってもそこに俺がいるとは誰も気づかない。
まるで空気のように何も存在しないかのように歩みを進める。
イヴィルターズは荒らし専門のプロゲーマー集団として有名だ。
しかし、一括りにイヴィルターズといっても全員がプロゲーマーではない。
過激な配信が好きなだけの腰巾着やこのゲーム内でスカウトしたプレイヤーなどは一般人レベルといえる。
イヴィルターズで本当に注意しなければいけないのはリーダーであるイーブルを筆頭に幹部であるナナシ、いるか、PX441の4人だ。
ゲームを始めた日が一緒なのにプロと一般人でそこまでの違いが出る訳がないとイヴィルターズに喧嘩を売るプレイヤーもいたが盛大に散っていった。
確かにこのゲームでは歴は同じでも、他のゲームに費やした時間は経験となり、それは他のゲームの理解度を高める。
簡単に言えばゲームの進め方を知っているしコツを掴むのもはやい。
特にVRMMOはリアルでの能力も反映されたりするのでそこでも違いは出る。
例え同じステータスでも差は出てしまう。
もう少しで村の中心に辿り着き、仕掛けも全てつつがなく完了しようとしていた……
「ちっ、テメェらなにをくっちゃべってんだよ、敵だろうが!!」
一つの民家から出てきた忍び装束の男が下衆な会話をしていた男達を怒鳴りつける。
それと同時に4人の男と目が合う。
一度敵に認識されてしまえば潜伏も人払いの魔法も解ける。
仕掛けは8割といったところか。
4人の男は突如現れた俺に動揺を隠せていない。
ダガーナイフで一人の首をかっきり、職業が忍者のいるかの足元へ毒煙玉を投げつけた。
さらに追加で自分の足元にも2個叩きつける。
紫色の煙が急速に広がっていく。




