22話 拉致監禁
さすがにジャンヌの話でははしょりすぎていて理解できない。
セバスさんの提案で経緯をルティが話してくれることになった。
セバスさんは有能だよなぁ。
事件発生日は俺がオウカとダンジョンに潜っている頃、二人はレストリアから南へ行った辺りでモンスターを狩っていたらしい。
「くそーー、クロツキのせいで捗らないよ」
「もう忘れなよ、ペナルティは終わったでしょ」
「でもそのせいで遅れてんだよ」
「それは自業自得でしょ。スキルも元に戻ったんだしラッキーだったと思いなよ」
デスペナルティの獲得経験値減少は時間経過によって解消した。
クロツキに奪われてランクダウンしたスキルもモンスターを倒しているうちにランクアップして元のスキルの『盗賊の心得』と『ナイトメア』に戻っていた。
「あれっ、ルティあそこに複数パーティがいるよ」
リオンはゲーム内ではたとえ二人でもロープレを忘れない。
ゲーム内でお姉ちゃんと呼ぶなど言語道断である。
リオンが見つけたのは数人の男たち、それを見ていると特にモンスターを狩っているというわけでもなく村の周りをウロウロとする集団があった。
「なんだろうね」
「なんか怪しいよ、近づいてみよう」
あれだけの人数で行動するならレイドボスの可能性もあるが、未だに公式からは発表されていないし、そんなイベントがあったという情報も出ていない。
かといってここのヒコ村は人数が集まるようなクエストがあるとは思えない。
何よりも周りを警戒しているのが怪しすぎる。
二人は森に身を潜めながら村の中を見てみる。
そこでは外にいた仲間と思われる奴らが村人を蹂躙している光景が広がっていた。
倒された村人はどこかへと運び込まれていく。
せめてもの救いは虐殺ではなかったことか。
しかし、どうしてわざわざ村を襲って村人を監禁するのかが分からない。
最悪な発想ではあるが殺すのなら経験値が貰える。
しかも人間はモンスターよりも簡単に倒せて経験値も高いときている。
クロツキの公表した復讐システムでPKが少しは減った。
では現地人を狙うかといわれたらそうはならない。
リスクが高すぎる。
プレイヤー同士のいざこざに国は出張っては来ない。だがその矛先が現地人なら国が動く。
下手をすれば国外追放やギルドが使用できなくなったりする。
こいつらが何をしているかは村人の連れて行かれる場所を見ないと分からない。
「あぁ、どうしてこんなとこに美女が二人もいんのかねぇ」
それは不意の一言。
背後から男の声が聞こえた。
振り向いてもそこには誰もいない。
「見たところ二次職ってところか」
声がするのは木の上からだった。
「ルティ!!」
リオンの掛け声でルティは詠唱を始める。
降りかかる手裏剣を前衛のリオンが弾き飛ばす。
「ディグレテーション」
選択したのはステータスを全体的に下げる魔法。
相手が隠者系統だというのは見てすぐに分かった。
忍び装束に手裏剣を投げてクナイを構えるのは忍者以外の何者でもない。
隠者系統に精神系状態異常は効きづらい。
「火遁・焔玉」
忍者の男が印を結んで口に手を当てるとそこから炎の玉が飛んでくる。
一般的な忍者は防御が低いがそれ以外のステータスは均等に振ってきて接近戦も遠距離もこなせる万能タイプに育てるのが一般的。
「パワースラッシュ」
ルティに向かう炎の玉はリオンの斬撃で打ち消された。
いや、少しのダメージをリオンは負ったが問題ない。
ルティは既に次の魔法の詠唱に入っていた。
クロツキとの戦闘時、ディグレテーションの熟練度も低くかけ続けなければいけなかったが今では一度かけると一定時間はその状態が維持される。
「闇鎖」
一本の黒い鎖が木の上にいる忍者を追いかける。
避けるために木の上から降りてきたところをリオンが追撃。
ナイフとクナイがぶつかり合う。
忍者は鎖を避けながらリオンと打ち合うが余裕の表情だ。
「全く、何を一人で楽しんでんだよ」
森を上がってきたのは斧を担いだ大男だった。
ここは忍者の仲間がいて時間が経てば立つほど援軍がやってくる。
忍者がわざわざ仲間を呼ばないのは余裕があって戦闘を楽しみたいからだろう。
「ルティあれをやるよ」
「分かった、闇霧」
忍者と大男の周りが黒い霧で包まれていく。
相手の視界を潰すための魔法。
二人は声を出さずに目配せで撤退を決める。
背を向けて逃げようとした時だった。
「こんなものが俺に効くとでも思ったのか」
忍者は霧を抜けて正確にルティに攻撃を仕掛けてきた。
「外道の一撃」
横からリオンの左拳が忍者の脇腹にクリーンヒットする。
状態異常に二つ以上かかっている相手に対して攻撃力が上がる一撃。
忍者は抵抗力が高いとはいえ、ディグレテーションの弱化と闇霧の暗闇の二つの状態異常にかかっていた。
予想外だったのは忍者のクナイがリオンの左拳に掠っていて、麻痺が付与されていたこと。
リオンはその場で痺れて動けなくなった。
最後の力を振り絞り声を出す。
「逃げ……て……」
「ごめん……」
ルティに選択肢は残されていない。
逃げて助けを呼んでくるしかなかった。
幸いなことに大男は暗闇状態、忍者はリオンの一撃ですぐには動けない。
走って走って走った。
そして、セン婆に助けを求めて今に至る。




