18話 ヴェルヴァ
元々見えていた名前はスケルトンアサシンだったはずが、攻撃を当ててから『スケルトンオーバーロード・ヴェルヴァ』と名前を変えた。
偽装が解けた証拠だ。
幅広く使用されるスキルで特に職業や実力を隠したいときに使用されると聞いたことがある。
熟練度を上げれば名前や姿も変えれる。
現在オウカと戦闘中のスケルトンオーバーロードだったモンスターも名前を変え、『スケルトンネクロマンサー・フォメレス』となっている。
まさか二体もユニークモンスターがいたとは驚きだ。
「ヴェルヴァ様、こちらもすぐに終わらせますので、少しお待ちください」
ヴェルヴァとフォメレスの関係が分かる一言だった。
ヴェルヴァの格好はナイフを持っていてアサシンだが戦闘方法は魔法がメイン。
逃げながら魔法を放ってくる。
しかし、闇槍が俺の体に当たることはない。
「くっ……フォメレス、まだか……」
後ろでコソコソと隠れていた時から思っていたがオーバーロードの風格はない。
実力は本物なのだろうが、フォメレスの方が王の風格があった。
俺への攻撃は継続しながらもフォメレスへの援護もしている。
つまりは俺が舐められている訳だが『恐怖の象徴』を発動しての攻撃を何発か当てている。
ヴェルヴァの傷は増えていくが恐怖がかかっているかは微妙なとこだな。
俺も期待してるわけではない。
こういう種族には状態異常が効きにくかったりする。
このままいけば俺はヴェルヴァを倒すことができるだろう。
ただし、その前にオウカがフォメレスに敗れればその瞬間、俺達に勝ちの目はなくなる。
より深い集中が必要だ。
怠の眼を発動させる。
敏捷向上を発動させる。
相手の攻撃をダメージを受けずに避けるのすら無駄、薄皮一枚で1ダメージに抑える極限の回避。
それによってできる僅かな時間を全て攻撃に回す。
§
ありえない……
こんなことはあり得ないはずだ。
生前の記憶はない。
あるのはスケルトンとして蘇ってからの膨大な時間の記憶だけ。
弱肉強食の世界で脅かされることなどなかった。
なぜなら自分は強者で周りは弱者だったからだ。
唯一といっていい相手はフォメレスが生きていた頃だろう。
人間でありながら闇に魅了され力を求めて自分の元へとやってきた。
弱者の分際で強者である自分を配下にしようとしたのはいただけないが、長い年月の中で多少は楽しませてくれた存在として殺した後に力を与えてやった。
フォメレスを配下にしてからより盤石となった自分の戦力を前にここに辿り着ける存在すらなくなっていた。
いつしか待つのも飽きてフォメレスにオーバーロードを名乗るよう命じた。
久しく現れた挑戦者は全身鎧を纏った一人の少女だった。
一度目、二度目とフォメレスの前で命を散らし自分の存在にすら気づいていない様子。
三度目でようやく自分の存在を認識したようだが遠く及ばない。
そして四度目は二人で現れた。
少女は来る度に力をつけて来ていた。
横に立つ男はそんな少女とは比べものにならないほど矮小な存在。
気配も希薄でなんともつまらない男を連れてきたものだと自分は嘆いた。
少女が先頭に立ち男は後ろへ下がる。
やはり足手まといでしかないようだ。
なぜ連れて来たのか理解に苦しむ。
それと同時に少女の力の上昇に久々に感情を高められた。
それは異常といえるほどの力。
フォメレスを圧倒するほどの力を見せたのだ。
自分の援護がなければフォメレスでは敵わないことはすぐに分かった。
少女の奮闘に久しぶりに楽しめるかと思いつつ、男は何をしているのだと目を向けると消えていた。
気づけば自分の存在を捉えて攻撃を仕掛けようとしていた。
その黒き男の攻撃を受ける度に生前の記憶が呼び起こされる。
長い年月で初めての経験。
そもそも攻撃を受けたのすら初なのだ。
思い出すのは生前の死の瞬間、なす術もなく強者に蹂躙される最後の記憶。
弱者だと思っていた男の姿が大きく見え、体の動きが鈍くなる。
初めて恐怖を知った瞬間だった。
ありえない……
こんなことはあり得ないはずだ。
強者として君臨してきた自分が恐怖を感じることなど許されるわけがない。
数多の魔法を放つが当たる気配はない。
それでも打ち続けているとようやく魔法がかすり始め、もう捉えたと思い安堵してしまう。
しかし、安堵はすぐに消え去り、恐怖がより強くなっていた。
わざと攻撃をかすらせてまでも自分に死を運んできてるのだと悟ってしまったのだ。
「フォメレス……!?」
最も信頼できる配下の名前を呼び、目を向けると灰と消えていく最後の姿が目に映った。
恐怖のあまり援護がおざなりになっていたせいで、少女に滅ぼされてしまったのか。
全力で黒の男から逃げていた足が止まる。
再び悟ってしまった。
自分はこの弱者だと思っていた強者によって滅ぼされるのだと……
諦めると自然と恐怖が薄れていった。
逃げるのを止め、最後の攻撃を放つ。
「闇槍」
10本の闇の槍が男めがけて飛んでいく。
自分は当たったかどうかを確認することができなかった。
目の前が真っ暗になり体が崩れていく感覚だけが残る。
不思議と悪い気はしなかった。