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15話 地下迷宮

 俺を案内してくれたサクラと共になぜかスキル屋に入る。

 ビー玉のような透明の球が商品棚に陳列されていて、スキルの名前と本当に大雑把な説明書きだけがされている。


「これは……」

 初めて見るスキルだった。

「それは潜伏だよ。隠密の下位互換だね。基本的にスキル屋って職業で獲得できるスキルの下位互換が置かれてるから」

「へぇ……」

 隠密は隠者が獲得できるスキルだ。

 何故か系統の違うサクラに解説をしてもらうとは、俺としては非常に助かる。

 なんせ店員が全くやる気がない上にいかついおっさんでは気軽に話しかけれない。

 

「ふーん、クロツキのお兄さんって隠密持ってないの?」

「えっ、どうして?」

「そのスキルって重複しないから、普通は持てないんだよ」

 スキルには重複すると別のスキルへとランクアップするものがある。

 俺はすでに経験済みで暗器術が重なって影の小窓(シャドーボックス)になっている。


 重複できないものはこの店に並べられたスキル球のようになってアイテムボックスに入るらしい。

 そしてスキル球は譲渡不可アイテムだがスキル屋でのみ他のスキル球と交換できるらしい。

 ふーん、なるほどねと思いました。


 ちなみに重複はランクアップ後のスキルでも対象になるので、俺がここで潜伏を購入して隠者に転職、隠密を獲得すると下位の潜伏がスキル球になる。

 これは欲しいな買おう。

 他にもいくつもスキル球はあるが、購入には条件もあるらしく職業やステータスなどが関係してるらしい。


 買う前に試しておかないといけないことがある。

 俺は店員にシュバルツメダルを見せる。

「これって交換できますか?」

 きっとそういうことなんだろ。

「はぁ、そんなおもちゃみたいなメダルが交換できるだぁ? 舐めてんのかお前」


 違うんかいっ!!

 セン婆さんもセバスさんも匂わせといてこれは酷いんじゃないの。

 サクラの話を聞いても絶対シュバルツメダルが交換できると思ったじゃん。

 ふっ、サクラの視線が背中に突き刺さっている。

 地獄だ……穴があればすぐさま入って砂を上からかぶせて欲しい。


 地獄のような静寂を切り裂くように、受付の奥にある階段からドタドタと降りてくる足音が響く。

 降りてきたのは見目麗しい女性だった。

 女性は店員の頭を叩くと数メートル吹き飛んで壁にめり込んだ。

 えっ、どういう筋力。

 そして、何事もなかったようなその笑顔が恐ろしい。


「本当に申し訳ありません」

 女性は恭しく頭を下げる。

「あっ……えーと、大丈夫です。はい」

 顔を上げて艶やかな黒の長髪をかき上げる。

「私の教育不足でした。何卒ご容赦をお願いします」

「大丈夫です……よ」

「寛大なお心に感謝の意もございません。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「クロツキといいます」

「クロツキ様、こちらへどうぞ。申し訳ありませんがお連れの方はお待ちいただいてもよろしいでしょうか」

「大丈夫、待ってる。面白いもの見せてくれてありがとう」


 奥の部屋へ案内されるとそこにもスキル球がいくつかあったが、先ほどのスキル球とはなんだか迫力が違う気がする。


「ご説明させていただきます。こちらのスキル球は特殊なメダルでのみ交換することが可能となっております。シュバルツメダルもそのうちの一枚でございます。今回はこちらの不手際もありましたので、こちらのどれかから一つお持ち頂いて構いません」

「いいんですか?」

「もちろんでございます」

 5つのスキル球が机に置かれる。

 どれにするか迷いに迷って一つを選択した。


「ありがとうございます。次回、特殊メダルと交換できる特殊スキル球のスキル獲得は48時間後となりますので、またのご来店をよろしくお願いいたします」

 特殊スキルはまとめ買いができないようだ。



§



 アルムニッツの街から東へ進むと緑豊かな渓谷が広がる。

 遥か彼方の巨大な二つの山から流れてくる透き通った水が小川を作る。

 レストリア近郊の森のようなおどろおどろしい雰囲気はなく緑の間を抜けてさす光は神聖さを感じさせる。


 サンドロ渓谷にはモンスターがほとんどポップしない。

 ここの狩場は地下にある。

 サンドロ渓谷の地下に張り巡らされたサンドロ地下迷宮こそがレベリングにはもってこいの狩場だ。

 ここはいわゆるダンジョンというもので迷宮のボスを倒すとドロップアイテム以外にダンジョン内の功績に応じたレアアイテムを貰える。


 しかし、人気の狩場だけあって人が多い。

 レストリアとアルムニッツの間でプレイヤーを見なかったのはあそこで狩るよりもこのダンジョンに潜った方が旨味があるからなのかもしれない。


 俺は今サクラとダンジョンに潜っている。

 正直、人が多いためモンスターはポップしてこない。

 サクラは前にも潜ったことがあるらしく、サクサクとダンジョンを進んでいく。

 ごく稀に骸骨のモンスターがポップしたりもしたがサクラの拳の前に塵と消える。


 迷宮というのにもはや攻略されていて正解のルートが分かっている。

 俺は正しいルートは知らなかったが同じ方向を目指すプレイヤー達は通路が別れていても同じ道を選ぶためそちらが正解なのだと分かってしまう。

 これでは迷宮もかたなしだ。

 さらに進むとそこにはプレイヤーの行列があった。


 ダンジョンで行儀良く並ぶ列は異様な光景だ。

 ここのダンジョンボスのいる部屋に入れるのは1パーティで4人までと決まっている。

 そして、前のパーティの戦闘が終わるまで次のパーティは入れない。

 それがこの行列の正体だ。


「これはかなりかかりそうだな」

「こっちこっち」

 列に並ぶのかと思いきやサクラは横の抜け道を先行して歩く。

 何もない行き止まりに辿り着くと、サクラは壁を殴つた。


「なっ!?」

「こっちこっち」

 壁は崩れ、通路が現れる。

 先へ進むとワープゲートがあり、サクラは臆することなくその中に入っていく。

 まぁついていくしかない。


 飛んだ先はさっきまでのダンジョンと似たような通路が続いていた。

 だが、明らかに空気が重い。


「サクラここはなんなんだ?」

「隠しダンジョンの一つ」

「他にもあるのか」

「ダンジョンには大体こういうのがある。難易度も上がる」

 のんびりとした印象のサクラが集中しているのが分かる。

 三次職のプレイヤーが警戒するダンジョン。

 俺には早い気もするが今はサクラがパーティにいるんだ。

 やれるだけはやってみるしかない。


「きた……」

 サクラの言葉通りモンスターが三体きた。

 剣を持った骸骨兵士の『スケルトン・ソルジャー』が襲ってくる。


 パーティの戦闘って色々と決まり事があったような、連携とかどうすればいいんだろうか。

 初めてなんだよな。

「好きにやっていいよ」

 悩んでいる俺を見ると、そう言ってサクラはソルジャーへ向かって走り出す。

「ありがとう」


 俺もサクラも前衛職、やることは比較的簡単だ。

 とりあえず攻撃しとけばいい。

 サクラを追い越し先制攻撃を仕掛ける。


「『乱刀(らんとう)(ざん)』」

 スキル屋で購入した特殊スキルを早速使ってみる。

 刃を扱う職業には割とオーソドックスな複数の斬撃を生むスキルがいくつかある。

 このスキルも一回の斬る行動で複数の斬撃を生むのだが、特殊スキルなだけあってその効果は絶大だった。


 一般的な似たスキルだと二回だとか三回だとか斬撃の数が決まっている。

 しかしこのスキルはAGIに応じて斬撃の数が変わる。


 ソルジャーの背後からダガーナイフを一回振ると5つの斬撃が発生した。

 これはかなり気持ちがいい。

 二次職の俺で5つの斬撃ならもっとレベルが上がればさらに増えていくことになる。


 だがソルジャーは未だに倒れていない。

 ダメージは出てるものの一撃一撃が弱すぎて倒せなかった。

『乱刀・斬』は確かに俺と相性がいいように思えるが元が弱いと意味がないか。

 攻撃力を上げるようなスキルも探してみたがなかったので仕方がない。

 そもそも暗器使いにはないのか、それとも俺の問題なのか。


『乱刀・斬』の次の発動までクールタイムがあるので連発はできない。

 初心に帰って地道に削っていく。

 ソルジャーの攻撃は大雑把で遅い。

 避けては斬って、避けては斬る。

 どれだけ斬ったか分からないがようやく倒せた。

 横を見るとすでに戦闘が終わっていた。


「すまない時間がかかった」

「面白いものを見せて貰ったから大丈夫」

 うっ……面白いものとはスケルトン相手に時間が掛かったことだろうか。

 スケルトン種は防御力が低い種族でこれだけ時間がかかるのは珍しいのかもしれない。


「やはりSTRにも振った方がいいのか……」

 ずっと考えていたことだ。

 防御の高い相手が倒せないのでは詰む状況がやってくる。

 どうやら俺は独り言を呟いていたらしい。

 サクラから答えが返ってくる。

「それはどうだろう、中途半端に上げても焼け石に水」

 確かにそれもそうだが、うーん……

 この件はもう少し保留にしておこう。


 というか、そんな考えをしている余裕はなかった。

 すぐに次のモンスターがやってくる。


 先程のソルジャーが二体と後ろに魔導書を持った『スケルトン・ウィザード』が一体。

 この場合は先にウィザードからやるのがいいよな。


「ウィザードは任せてくれ」

「おっけー」

 ソルジャーの横を抜けてウィザードへ一直線に向かう。


 ウィザードの魔導書が光り出した。

 魔法発動の証だ。

 俺は何がきてもいいように集中する。


 炎の矢が数発飛んでくるが全て躱して高速で接近する。

 もう少しでナイフの届く範囲だと思った矢先、目の前が赤色に変わる。

 広範囲の炎の魔法だと瞬時に分かったし、範囲を広げたせいで威力が極端に減っているのも分かった。


 逃げるスペースはなくAGIは活かせない。

 威力が減っているといっても俺には大ダメージ、下手をすれば一撃の可能性もある。


 取れる行動といえば両腕をクロスさせて顔を守ることくらいだ。

 恐らく素早い敵を倒すための魔法。

 俺は死を直前にモンスターも工夫してるんだなと感心してしまった。

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