113話 復活のクロツキ
「お……お兄さん、あっ、あの……わたし……」
「いいんだ」
「ごっ、ごめんなさい」
少女は涙をボロボロと流し大泣きする。
「こんなものは捨てておきなさい」
包丁を少女の手から取って地面に放り捨て、頭を撫でる。
「ベローチェ、いるんだろう」
「クロツキ……」
「あんたがどうして俺を騙そうとしたのかは知っている。この子を連れて安全な場所へ」
「ありがとう」
ベローチェは身寄りのない子どものためにお金を稼いでいた。
随分と汚いことにも手を出したようだが、まだ許せる。
しかし、こいつは許せない。
イーブルと目が合う。
「クロツキ、またお前か。今更何をしにきた?」
「お前を殺しに戻ってきた」
「一人で何ができる? 大体、そいつらを守ってどうする? お前を叩いてた連中だぞ。あのクソガキにしたってそうだ。自分を殺した奴を助けてどうすんだよ」
「さぁ? 自分でも分からない。でも自分の心に素直になるのなら、お前を殺せばスッキリしそうだ」
「バカがっ!! テメェじゃ勝てねぇんだよ」
イーブルは黒い靄に包まれていき、3メートルを超す巨体になった。
仮面を被り、マントをなびかせる。
体調はよくない。というより、ステータスダウンしてるせいで体が重い。
怨恨纏いは発動できるな。
王都どころか王国中から怨念が集まっている。
それだけイーブルが恨まれているということ。
怨恨纏いを発動させる。
黒い靄が全身を包み込んでいく。
かなりの怨念だが、以前のように精神がおかしくなるようなことは起きていない。
むしろ頭はスッキリとしている。
「行くぞ!!」
「グガァァァァァァァ」
俺の怨恨纏いと同系統と思われるスキルにイーブルは完全に飲まれている。
イーブルが拳を振るとそこから黒雷が飛び散る。
黒の残像を残して攻撃を躱す。
やることはいつもと同じで、削って削って削る。
ちょうど分かりやすいように黒い靄を纏ってくれているんだ。
それを全て剥がしてやる。
§
パニックを起こし逃げ惑うだけだった人々が自然と足を止めてイーブルとクロツキの戦闘を遠くから見守る。
正直な話、今日初めて二人を見た人間ならどっちが悪者なのか見分けがつかないはずだ。
両方がどす黒い何かを全身に纏っていて禍々しいオーラを放っている。
イーブルの方は黒の鎧を着ているようにも見えて、動くたびに黒雷を体から発している。
そしてクロツキは骸骨の仮面もそうだが、他の装備もはなから怪しすぎる。
こちらは動くたびに黒の残像が残り、実態を掴ませない。
どちらが優勢かと言われると難しい。
イーブルが拳を振るがクロツキは全てを躱す。
クロツキが攻撃してもイーブルは一切動じずにダメージが入っているようには見えない。
イーブルが天に拳を上げて振り下ろすと上空の黒雲から黒雷が落ちてきて無数に枝分かれする。
クロツキはそれに対して躱せる分だけ躱し、当たりそうなものは黒槍を上空に放ち黒雷と相殺させる。
イーブルが再び天に拳を挙げると次はイーブルの拳から黒雷が天に向かって伸びていく。
そして、イーブルは自身の体を雷に変えて伸びた先に移動していった。
空中から一方的に地上にいるクロツキを攻撃する。
空中への攻撃手段など職業によっては絶望ものだ。
攻撃は回避しているものの打つ手がないように思えたが、クロツキは対空射撃で黒炎を放つ。
イーブルに焦った様子はなく、黒雷が別の位置に伸びてその先に移動して攻撃を躱す。
黒槍を複数放つも雷の速度には追いつけない。
魔法職顔負けの魔法の連発だったがやはり下からだと分が悪い。
するとクロツキは空を駆けてイーブルのいる天高くまで登っていく。
戦いは地上戦から空中戦に移る。
イーブルは体を雷に変えて移動し、クロツキは当たり前のように空中を駆ける。
未だに雷は何もない王都に虚しく降り注いでいる。
あまりにも酷すぎる惨状。
一時は一番隊隊長ラインハルトがイーブルを倒してくれると思ったが、国王の安全を第一に考え戦場を去った。
どうすることもできずに逃げるしかできなかった人々は上を見上げて、互角の戦闘を繰り広げる二人を見る。
しかも、守ってくれているのは自分たちが叩きまくっていたクロツキだ。
少女が先頭に立って叫ぶ。
「がんばれーーー」
教会の子どもたちもそれに続く。
「骸骨の人、がんばれーーー」
大人もそれを見てイーブルと戦うことはできなかったが応援するくらいならできると声を出す。
今更手のひらを返してなんだと思われるかもしれない。
どれだけ謝っても許されないかもしれない。
それでも今の希望はクロツキしかいなかった。
すがるようにクロツキを応援する。
「クロツキ、勝ってくれーーー」
「負けるなーー」
「がんばれーーー」
応援の声は遠く離れた二人の耳にも入っていた。
「ふん、都合のいい奴らだとは思わないか」
「応援ありがたいじゃないか」
「目障りな奴らだ。お前を殺した後、皆殺しにしてやる。大体、応援で何かが変わるとでも思っているのか、おめでたい奴らだ。力の差は歴然なんだよ、なぁクロツキ」
形勢はクロツキが不利だった。
避けてるように見えても雷の範囲が細かく少しでも擦れば電気が体に伝う。
徐々に徐々にHPが削られているのはクロツキだった。
さらに、MPの問題もある。
影踏を使用して空中戦に挑んでいるがMP消費は膨大なものだった。
「はぁ、はぁ、俺はそうは思わないけどね」
クロツキは不適に笑う。
仮面をしているがイーブルにもそれは伝わり、骸骨が不気味に笑っているように見えた。




