112話 翻弄される少女
イーブルは腰を落として瀕死になりながらも再度、負の感情を吸収して回復する。
そして計画の修正をしなければいけない。
一番隊の化け物ぶりは想定外だった。
あれらが守護する王に攻撃するのはあまりにも無謀すぎる。
となると王自らに敗北を宣言させるか、王が命令すれば一番隊は従う以外の道がない。
現国王は歴代の王の中でも最も国民に寄り添う善なる王として認知されている。
国民をある程度殺して、国王に訴えかけさせるのもありだ。
それが最も可能性がある。
思考しているうちにイーブルは周りの視線に気づく。
一旦戦闘が落ち着いたこともあって、何百人もの市民がおあつらえ向きにイーブルに怒りの視線を向けていた。
手には武器を持っているが勝てるとでも思っているのだろうか。
その負の感情がよりイーブルに力を与えるとも知らずに。
市民は怯えながらも徐々に距離を詰めてくる。
やはり、植え付けられた恐怖はよっぽどだということだろう。
イーブルが立ち上がると市民は後退りする。
人混みをかき分けて父を殺された少女が前に出てくる。
手には包丁を持っている。
「なんだクソガキが俺にようか?」
「父ちゃんの仇だ」
「待ちなさい、あいつは危険なんだ」
避難活動をしていた騎士3人が少女を止めようとする。
イーブルは天に手を掲げて降ろすと、騎士目掛けて黒雷が落ちて騎士は黒焦げになる。
彼らは復活後に率先して避難活動をしていた。
神の救いに二度目の奇跡は起きない。
騎士は光の粒子になることはなく、その場で横たわっている。
「うぅ……」
少女はその光景を見て涙目になり体を震わす。
既に崩壊する建物の瓦礫に押し潰され復活した後の少女に次はない。
それでも父との楽しい思い出を頭に浮かべてイーブルに向かって走り出す。
もちろん容赦などするはずがない。
手から放たれた黒雷は少女に襲いかかる。
その威力は明らかで少女ごと後ろにいた市民を数十人襲って光の粒子に変えた。
少女は姿形も残さず消えて、周りにいた市民は自身が復活すると分かっていても腰を抜かす。
イーブルは顔を訝しげにする。
いくら黒雷の威力が強く、少女が弱くても死体を姿形も残さずにというのはありえない。
§
目を覚ますと壊滅状態になっている王都の状況が映し出されていた。
……!?
どうしてこんなことになってるんだ。
もしかしてどこかのレイド戦が失敗して王都がこんな状態になったのか?
寝ている間になんてことになってるんだよ。
ギルドは無事なのか?
みんなはどうしてるんだろう。
考えれば考えるほどに疑問は後を絶たない。
とにかくネットで状況を確認する。
どうやら、東西南北の4体の巨大モンスターは倒したが、実は5体目がいて王都に潜んでいた。
しかも、イーブルにとり憑いているらしい。
これがあの時イーブルが言っていた王国への復讐ということか。
急いでカプセルに入って、ルキファナス・オンラインを起動、ログインする。
あたりを見回すが影の館のギルドマスターの部屋に戻ってこれた。
つまりギルドの機能は無事ということ。
特段、部屋が破壊されているということもなさそうだ。
ギルドメンバーに連絡を取ろうとしてもノイズがあって連絡が取れない。
レイド戦の時は基本連絡が取れないので不思議ではないが……
ギルドから外に出てみると、まぁものの見事に周りの建物はボロボロになっている。
完全に崩壊はしてないが今にも壊れそうだ。
振り返ると影の館も負けず劣らずボロボロだった。
ギリギリ耐えているが結界は完全に壊れている。
次の大きな攻撃があれば耐えれないだろう。
高度な結界の施されているこの一画でさえこんな状態なのだ、一般の住宅街に向かうと急に光景が変わる。
ほとんど更地に近い。
瓦礫が辺りに散らばっていて建物はほぼ残っていない。
禍々しい魔力の源へと近づいていく。
そこにはイーブルとイーブルを囲う市民たちがいた。
どうやらイーブルを殺そうとしているようだが無理なのは明らかだ。
負の感情を吸収しているのが目に見える。
断罪者の眼のお陰なのか、怨恨を纏ってきたからなのかは分からないがはっきりと見える。
見覚えのある少女がイーブルの前に立つ。
忘れることはできない。
俺を殺した張本人だからだ。
あの時の少女の顔と痛みがフラッシュバックする。
気づいた時には少女を止めようとする騎士たちが殺された。
イーブルの手が少女に向けられた。
俺が父を殺したと思っている少女を助ける。
少女は何を思うのか。
下手をすればまた包丁を刺されることになる。
俺があの場に立ってどうなる?
未だに俺を不審に思っている人間は多くいる。
どうするのが正解か分からない。
分からないが、体はすでに動いていた。
少女を抱えて黒雷を躱す。
後ろの人たちは申し訳ない。
光の粒子になったってことは復活できるんだろうから許してほしい。
問題は少女だな。
少女の目がじっとこちらを見つめている。




