102話 青竜
大雨の中、東方の戦場では激闘が繰り広げられている。
50匹以上いたドラゴンと300人以上いた討伐隊は互いに数を減らして数匹と数十人にまでなっていた。
討伐隊にとっての最大の問題は射程。
元々、空を飛ぶドラゴンを想定して魔法使いで構成された部隊で討伐にあたっていた。
青竜以外の5メートル級のドラゴンにならば問題はない。
しかし、東方討伐部隊隊長のジルベを中心にすでに何発もの大魔法を青竜に放っているが倒すには至っていない。
高度が高すぎて青竜に届く頃には魔法のコントロールは弱くなり、それと同時に威力も弱くなる。
戦場のあちこちで王都へと帰還する光の粒子が見られる。
もはや連携が取れるのは騎士団とそれなりに力を持つものだけ。
手柄が欲しいだけで参加している者たちを制御するなんてできなかったのだ。
そのおかげで生き残れているといっても良かった。
手柄を求めた者たちは我先にと走っていき青竜へと攻撃を始めるが、たった一つの攻撃で壊滅した。
水を高圧縮した攻撃は全ての魔法を切り裂いた。
初見ではまず躱しようがなかった。
「隊長、青竜の攻撃の兆候です」
「頼んだぞ」
タンクである騎士団の後ろに退がる。
青竜の周りに水の球が浮いて高速回転を始めた。
あれが攻撃の兆候だ。
周りから水を集めて高圧縮されてどんどんと球は小さくなっていく。
そして放たれた。
高速高圧の水流を前に大楯を持った騎士だが横並びになって構える。
「ディバインシールド」
聖騎士のスキルで作られた光の壁と水流はぶつかり合う。
「くっ……」
光の壁にヒビが入るが水流の勢いは衰えない。
「城門化」
それは自身の肉体の防御力を上げる耐久向上の上位スキル。
なぜそんなものを発動したのかというと、光の壁が破られた後に自らを盾にするためである。
まずは大楯と水流がぶつかり、大楯が弾かれるが体で受け止める。
これによってタンクの犠牲はあるものの後方の魔法部隊は生き残れる。
タンクの役目をまっとうして光の粒子へと変わる。
「すまない、ありがとう」
ジルベに悲しんでる余裕はない。
どうせ王都に戻ればまた会える。
それよりもタンクが仕事をまっとうしたなら魔法使いの役目は青竜を落とすこと。
他の魔法使いのサポートを受けて数十分、ようやく超魔法を撃つ準備が整った。
「その風に触れるもの全てを過去へと変える、破滅を告げろ『終焉のそよ風』」
戦場に一陣の風が吹く。
暴風でも狂風でもなく、肌を撫でる程度の微風が駆ける。
まず風は青竜の前にいた5メートル級のドラゴンたちに破滅を告げた。
風が触れた瞬間に強靭なドラゴンの体が砂のように変わっていく。
全ての物質を風化させて終わらせる緑系最上位の魔法。
青竜も雨を滝のように降らせるが風に撫でられれば豪雨だろうと音を消す。
そして青竜までたどり着く。
「これでもダメか……」
ジルベは唇を噛んで悔しさを顔に出す。
『終焉のそよ風』では青竜の片手を持っていくので精一杯だった。
青竜は明らかな敵意をジルベに向けて高圧水流を放った。
タンクはもう防げる状態ではない。
ジルベ自身も魔力を使い果たし動けない。
目の前に近づく高圧水流を前に目を閉じずにじっと見つめる。
せめてもの抵抗だったが、自分と高圧水流の前に身を乗り出すものがいた。
服装からして騎士団ではない。
全身真っ白な特攻服に身を包み、一撃で騎士団を壊滅させるだけの高圧水流をその男は殴った。
……!?
そして弾き飛ばすのだから意味がわからない。
そして男の後ろに控えるものたちがいる。
「俺は青竜とタイマンはってくる。テメェらは残りのドラゴンを頼んだ」
「おおぅ!!」
ジルベは男たちに見覚えがある。
戦場を指揮する者として全員とまではいかないものの、ある程度力のものの顔は覚えている。
その男……いや、漢はギルド『修羅』の団長である龍だ。
そして漢の周りにいるメンバーも修羅の一員だ。
確かに力があることは王国も認めていたが、修羅は王国に迷惑をかけまくっているので騎士団からはよくは思われていない。
しかも、今回など魔法使いでさえ射程距離が問題になっているのに、タツは近接戦闘を得意にしている。
普通に考えて戦闘にもならない。
それが青竜とタイマンを張るなど馬鹿げていた。
タツは天高く空を泳ぐ青竜に向かって拳を挙げる。
「さっきの攻撃、なかなかだったよ。おもしれぇな。俺とタイマン張りやがれ。『決闘宣言』」
タツはスキルを発動した瞬間消えて、青竜の元にいた。
青竜とタツが何か透明な壁に囲まれている。
それは最強の後衛殺しのスキル。
問答無用で自分と相手を隔離空間へと移動させるスキル。
東方の戦場では竜と漢の熾烈な一対一が始まった。




