100話 西北レイド戦
西方討伐部隊を率いるのはターニャだ。
自身は槍を扱うが部隊員の武器はそれぞれで槍もあれば剣や弓を扱う部隊員もいる。
共通点は比較的軽装備で身軽なのが特徴だ。
遠く離れた場所から天高く咆哮が上がる。
大量の野獣が音もなく高速で討伐部隊へ近づいている。
四足歩行の獣達は明らかに部隊を視野に入れていた。
他の場所は脅威は真っ直ぐに王都を目指していて、討伐部隊など気にしていなかった。
しかし、西の脅威は違う。
通った後も村や自然が破壊された跡は残っていない。
その白き虎たちの通った後は少しだけ静かになる。
生物の音が消え去り、自然の音だけが残る。
肉も血も骨も何一つ残らない。
そう、脅威が討伐部隊に向けるモノは敵視ではなく、ただの餌。
「全員構えろ!! 行くぞーー」
ターニャの掛け声で討伐部隊も雄叫びをあげて2メートルを超える小さな虎と戦闘を開始した。
§
北方討伐部隊隊長は騎士団でなく来訪者のトーヤが指揮をしていた。
サポートに入っているのは13番隊で隊長はクルーウェル。
クルーウェルは神殿出身の聖職者であり、神殿長カレルの息子でもある。
13番隊は神殿出身者が多く、守りを得意とする騎士と神官がメインの部隊になっている。
白の断罪者であるトーヤを指揮官に置くのは必然と言えた。
「クルーウェルさん、本当に俺が指揮をしてもいいんですか?」
来訪者への風当たりは強く、命令を聞くかどうかの心配をトーヤはしていた。
今は聞いたとしても後々、不和を招いては困る。
「もちろん大丈夫ですよ。13番隊は断罪者である貴方と聖女を認めています」
その目は機械的で本心かどうか分からない。
それでも今はやるしかないと自らに言い聞かせてトーヤは大楯を強く握る。
王都での不穏な動きも気になるがそれは心の奥底にしまい込む。
「分かりました。ヒジリ旗を掲げろ。やるぞ」
北の脅威の歩みは遅い。
まさに亀の歩みである。
4つの脅威の中で最も巨大な30メートルを超える黒の甲羅を背負うそれはゆっくりと着実に王都に近づいていく。
通った後は全てが等しくひれ伏せられていた。
それらを目視したヒジリは背筋が凍る思いだった。
「うぇぇ、最悪だよ。絶対に私のところに近づけさせないでね」
「もちろんです。ヒジリ様には一切近寄らせません。我らが命にかけて!!」
祝福の光の聖騎士たちは気合を入れる。
自分たちの推しである聖女からお願いをされてはやるしかない。
「聖なる御旗のもとに」
ヒジリのスキルで旗が掲げられる。
範囲内にいる味方に精神状態異常耐性プラス全ステータスアップを付与するスキル。
普段ならばこの味方というのはパーティメンバーを指すがレイド戦ではレイドに参加している者に変わる。
つまり効率が非常に高いスキルになっている。
「うぉぉぉぉぉぉ!! 行くぞーーー!!」
ヒジリのお願いを遂行するために聖騎士たちが前線へかけていく。
それにつられるように他の討伐隊も走るがある場所を境に一気に動きが遅くなる。
聖騎士たちは動けるが、周りを見ると膝をついているものや地面に伏しているものとかなりの被害がある。
そこにヒジリの嫌いな奴らが群がる。
それは地面を這う黒色の蛇だった。
大量の蛇は動けなくなったものを毒牙にかけて殺していく。
動けるものにも巻きついたりして動きを止めてくるが、聖騎士たちは冷静に蛇を処理する。
聖騎士たちは性格はアレだが、神殿とヴァイス家に鍛えられて聖騎士になっているのだ。
例えレベルが同じでもそこらの奴らには負けない。
冷静に状況を分析して一人の聖騎士が声に出す。
「予想通り、重力を纏っている。近づくほどに重力が強くなっているようだ」
偵察隊からの情報である程度は黒の甲羅を背負う亀の力に当たりをつけていた。
そして予想通り重力。
しかし、不思議なのはお仲間である蛇は影響を受けていないように思える。
いくつかの仮説が立てられる。
この重力は仲間にはかからないようになっている。
もしくは蛇が重力を避けるスキルを持っている。
考えを纏めたいが多種多様な蛇が跋扈してくる。
お願いを遂行するためにここは一歩も通すわけにはいかない。
確実に減っていく討伐部隊を横目にさらに気合を入れる。
「兄ちゃん、どうすんの? ヤバイよ蛇の大群だよ」
「もう一度遠距離攻撃をお願いします」
後方から蛇ではなくボスである玄武を狙い撃ったが重力の壁で届かなかった。
もう一度撃っても結果は同じに終わる。
トーヤは違和感に気づく。
「どうして遠距離攻撃はみんなが倒れてる辺りから重力がかからないんだ。なぜ2種類の重力のスキルをわざわざ発動させている」
「トーヤさん、前線の蛇の動きが変わりました」
一人の騎士が報告を入れる。
蛇たちは口を大きく開いて毒の息を吐き出し始めたのだ。
「俺たちも前線に向かうぞ」
「えー、無理無理無理無理」
「この中で状態異常回復のスキルが豊富でランクが高いのがお前だろ。俺が近づかせないから行くぞ。神官も何人かついてきてくれ」
「もう……」
とうとう100話という大台にのってしまいましたね。
ここまで皆さんの応援のおかげで執筆を続けてこれました。
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まだまだ続くルキファナス・オンラインの世界を今後もよろしくお願いします。




