10話 復讐
風前の灯火のHP、被弾はもう許されない。
リオンは俺の息の根を止めようと攻撃の手を緩めない。
「惑わしの歩法」
落ちる木の葉のように脱力して、ダガーナイフを躱す。
リオンにどれだけ攻撃を当ててもダメージにならない。
ここで俺が狙うのは初めと同じ後衛のルティ……
「ハンッ、あんたの考えなんか分かってんだよ、どこかでルティを狙うってね」
俺の行動を予測していたリオンの反応は早かった。
さらに、今の俺はルティに向かって走り出し、リオンの攻撃には無防備に近い。
「殺った……」
リオンは勝利を確信していた。
ダガーナイフが俺の首を落とした。
……ように思っただろう。
ダガーナイフをギリギリで躱して影の小窓を発動、初心者ナイフが手に握られる。
俺は元からルティの方向へ走るフリをしただけで、最初から狙いはリオンの首だった。
見事に攻撃はクリティカルを出した。
「ちっ……初心者ナイフなんてどこに隠してあったのさ」
「暗器は隠してなんぼだろ」
「ハッ、いろいろと策を練ったみたいだけど、結局あんたが私につけたのはこんなかすり傷一つ」
クリティカルを出してなお、よく見ないと傷がついてるのかどうか分からないほどのかすり傷をつけるのが精一杯だった。
「いーや、それだけで十分だね」
「カハっ!?」
リオンの口から血が滴る。
「ほらね」
「なっ何を……まさか、毒? どうして初心者ナイフに……」
パリンという儚い音と共に初心者ナイフが砕け散った。
リオンとルティに勝つ確率を上げるためにゴロウさんが作ってくれた特注品。
自身よりも強すぎるアイテムは装備してもマイナスにしかならない。
ダガーナイフは珍しい事例で俺のレベルよりも格の高い武器だが扱える。
しかし、他の武器はそうはいかない。
でもこれには抜け道があったらしい。
このスキルが使える鍛治師は滅多にいないとセン婆さんが言っていた。
それが今回の初心者ナイフだ。
効果を強力にする代わりに耐久力を極限まで削った一度限りしか使えない武器。
つけた効果は紫森蛇の毒と一角ウサギのクリティカル値上昇。
再び素手になってしまったが、後は逃げているだけで勝てる。
だが、油断は禁物。
逃げるだけと言っても離れすぎてはいけない。
リオンはアイテムボックスから紫色の液体の入った瓶を取り出した。
それを飲もうとしたところを俺は瓶を持った手をはたいて邪魔をする。
瓶は地面に落ちて、液体が染みでる。
解毒用のポーションだろう。
これだけは飲ませるわけにはいかない。
解毒されるともう毒を与える手段がなくなる。
普通、ポーションを戦闘中に飲むのは難しい。飲むという行為自体が隙であるうえに、飲んだ後に硬直が入るからだ。
飲むには仲間のサポートが必須になる。
ルティはこの戦闘中も何度か青色のポーションを飲んでいたが、それはリオンという前衛がいたからだ。
青色はマナポーションでMPを回復してくれる。
俺はそれを許容して、特段邪魔をしようとは思わない。
しかし、リオンにだけはポーションを飲まれてはいけない。
どれだけ隙があろうと俺の攻撃が通じないのだから、それは最早隙とはいえない。
だから飲まれそうになると……
次は赤色のポーションを飲もうとするリオンの手をはたく。
このように邪魔をしなければいけない。
赤色はHPポーションでHPを回復する。
「テメェェ、姑息な真似をしやがって、クソが、クソが、クソがぁぁぁ」
リオンは怒りを露わにする。
まぁ、どれだけ怒鳴り散らそうが俺の有利は変わらない。
「さすがに言葉が汚すぎる。せっかくの可愛い顔が台無しだ。もう少し淑女らしくした方が可愛げがあるよ」
実際どこまでキャラクタークリエイトで外見が変わってるのかは知らないが目の前の少女が美人なのは確かな事実だ。
顔で判断は良くないというが、そんな美人が汚い言葉を使ってるとなんだか悲しくなる。
いや、そういうのが好きな人もいるらしいから、ただの好みの問題なのか。
「クロツキィィ、マジで舐めやがって、絶対に殺す」
おっと、ダガーナイフが帰ってきた。
これで多少なりはリオンを削ることができる。
そこからは一方的だった。
第三者が見ればいたぶってるように見えて確実に俺が悪者にされる。
リオンは全身傷だらけでボロボロだった。
それでも立ち向かってくる。
キルされたときは腹立たしかったが今となっては特にそんな感情もない。
素直にその諦めない精神力と根性が凄いと思う。
しかし、限界が来たのだろう。
リオンは膝から崩れ落ち、光の粒子となる。
モンスターを倒した時と同じ演出だな。
さてと、次はルティだな。
リオンが倒れたのと同時にディグレテーションが解けた、というよりは自ら解いた。
逃げることもせずに諦めている。
「何か言い残すことはあるか?」
まるでドラマのような臭いセリフを言ってしまった。
恥ずかしい……
ゲームなんだから死んでも復活するというのに。
「すみませんでした」
ルティはそう言って深々と頭を下げる。
その姿はまるで首を落とされるのを待っているようにも見られた。
実際にそうなのかもしれない。
元々、ルティはプレイヤーキルに乗り気じゃなかったわけだし、罪悪感があったのだろう。
それに答えるようにダガーナイフで首を落とす。
俺は一撃で終わらせれて良かったと安堵した。
さすがにあの状況で何度も攻撃するのは気が引ける。
魔法使い系統は防御力が高くないので俺の攻撃でも落とせたようだ。
こうして復讐を終えたわけだが気分のいいものではないな。
殺すのも殺されるのもゲームの世界だと分かっていても後味が悪い。
-復讐達成-
復讐を達成しました。
経験値を獲得しました。
エリルを獲得しました。
スキルを獲得しました。
-レベルアップ-
レベル15になりました。
-称号獲得-
復讐者の称号を獲得しました。
大物喰いの称号を獲得しました。
孤高の称号を獲得しました。