表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能楽スクランブル!  作者: 夜宵氷雨
第2章 黒い助っ人
11/52

ツインテール少女、登場

「失礼しま~す。こちらは、能楽部さんなのですかぁ」

 扉が開き、少々舌っ足らずで、鼻にかかった甘い声がした。真新しい制服に、やや長く膝が隠れる程のスカート丈。ツインテールの黒髪を外巻きにし、結び目を大きめのチャームの付いたカラフルなゴムで飾った髪型が、やや幼めの顔立ちによく似合っている。

「ええ、私が部長の榛木佳織よ」

「うわぁ、そのリボン可愛いですぅ。私も、エンジのリボンがよかったですぅ。それに、中学から峰雀生でいらっしゃるんですね」

「まあ、そうだけど……あなたは、新入生かしら」

「はい、申し遅れましたぁ。一年E組の越野由梨っていいます。ゆりりんって呼んでくださいなのです」

 越野由梨と名乗った新入生は、右腕を挙手したポーズで満面の笑みを浮かべると、両手を胸の前で合わせて小首を傾げた。左の手首に、ピンクゴールドのメタルバンドが見える。佳織は、できれば関わりたくないタイプの人種だと、内心ため息を吐いた。

「そ、それは遠慮しとくわ……越野さん」

「え~苗字呼びなんて淋しいですぅ。先輩になる方と仲良くしたいだけなのに……」

「じゃ、じゃあ由梨ちゃん。って、私が先輩ってことは、入部希望なの」

「はい。よろしくお願いしますです、かおりん先輩」

 目を輝かせる一年生に対し、佳織は罪悪感と安堵との入り交じった複雑な感情を抱えながら、彼女にとっては残念な事実を伝えた。

「『ん』はいらないから……それに、本当に申し訳ないのだけれど、今、能楽部は活動自粛中で、新入生の受け入れができないの。ごめんなさい」

「そんなぁ……能楽部入るの楽しみにしてたのに、酷いですぅ。これじゃオッキーに……」

 由梨は、瞳をうるませて抗議した。しかし、いくら「自主的」に活動を自粛しているとはいえ、ほとんど学校側から通達された処分のようなものだ。泣かれたところで、佳織にどうこうできるものではない。

「中学からの持ち上がりなら、何とかなるのですが……ああ、失礼。僕は二年の城之内透と申します。よろしくお願いします、ゆりりんさん」

 口を出した城之内は、顔色一つ変えず、由梨のことを、本人の希望通り「ゆりりん」と呼んだ。それに気をよくしたのか、泣いていたはずの由梨は、いつの間にか笑顔になり、マイワールドを展開する。よく見れば、涙の痕など全くない。

「よろしくですぅ。イケメンさんで眼鏡に敬語なんて、絶対鬼畜ですよね、とーる先輩」

「どこ情報ですか、それ」

 由梨の勝手な理屈に対し、城之内は突っ込みを入れながらも呆れた様子はなく、むしろ満更でもなさそうな顔をしてる。

「当たらずとも遠からず、って気がしないでもないけど……って、そうじゃなくて、城之内君。いたいけな一年生を、悪巧みに巻き込んじゃだめよ。全く、何考えてるのよ」

 由梨の言葉に、うっかり同意してしまった佳織は、慌てて、よからぬ企みに巻き込まれる被害者は自分一人で充分だと、城之内を窘めた。

「ゆりりんさんのことを……泣いてる女性を、放っておくわけにはいきませんので。女性が困っていたら、助けるのが男の義務です」

 一見、真面目な堅物に見える城之内だが、その内実は祥平と大差ないのかもしれない。そう考えた佳織は、これからのことを思い、今度は隠さずに、大きな溜め息を吐いた。

 やや沈黙の後、始めに口を開いたのは由梨であった。

「あの……中学から峰雀生だったらぁ、能楽部に入れるんですかぁ」

「この状況では、普通は入れません。ですが、方法がないわけではありません。先生方にお願いして、少々辻褄を合わせます。ただ、残念ながら、高校からの入学ですと、辻褄を合わせる余地がないんですよ」

「だから、その『お願い』方法が問題なのよ……」

 佳織の呟きに、由梨の目が見開かれる。裏の意味を、理解したようだ。必要以上に幼い話し方と雰囲気だが、頭の回転は速いのかもしれない。

「なるほどぉ、とーる先輩は、鬼畜じゃなくて腹黒さんでしたかぁ」

「ふっ、見抜かれてしまいましたか」

 何故か嬉しそうな反応をする由梨と、それに対して、またもや満更でもない表情を見せる城之内。二人の感覚についていけない佳織は、疲れた声で呟いた。

「鬼畜と腹黒って、どう違うのよ……」

「それはですねぇ……鬼畜っていうのは、非道いことを言ったりやったりしちゃうタイプで、腹黒っていうのは、人前ではと~っても紳士で、でも裏では、非道いことを言ったりやったりしちゃうタイプのことですぅ。ちなみに、どちらも愛情がないとダメなのですっ」

 嬉々として語る由梨に、佳織は自身の失言を悔いながら、とりあえず一言でまとめた。

「結局、酷いってことなのね」

 佳織が目を離した隙に、城之内が由梨の耳元で囁いている。

「ところでゆりりんさん、先ほどのオッキーというのは、カブセンの細川忠興ですか」

「あはっ、わかっちゃいましたか。みんなには、内緒にしてくださいなのです」

 二人とも声をひそめてはいるが、狭い部室のこと。全て佳織の耳にも届いている。

「僕も人のことは言えませんが、随分不純な動機ですね。まあいいでしょう。代わりに、僕の言うことを聞いてくださいね」

「うわぁ~、早速腹黒モード発動なのです。萌え萌えなのですぅ」

 細川忠興はともかく、それ以外は全く理解できない会話に、佳織はそれ以上突っ込むことを諦め、話を元に戻すことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ