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兄の怒り、妹の苦悩

冒頭のひかりちゃんが唯一の癒し枠です

終礼の後、私はすぐさま一昨日聞いた言い伝えの場所に向かった。

確かD棟の横にある人気のない中庭だったよね、この情報が間違ってたらあれだけど私はお姉ちゃんを信じる!


15分ほど歩くと例の中庭に到着しました。

ここのさらにとある場所ってどこなんでしょう?文化祭の最後に打ち上げる花火を背景にって言ってたから花火が見える場所って事だよね?花火は近くの隼瀬川はやせがわから打ち上げられるらしいから方角も考えると.....あのベンチかな?

隼瀬川に背を向ける形で佇んでいるベンチに一人腰掛ける。そして何を血迷ったか訳の分からない妄想をしてしまった。


みんながグラウンドで花火を見ている中、自分たちはこのベンチで花火を背景に...いやぁぁぁぁ!恥ずかしすぎるあああああああああぁぁぁ!


人気のないひっそりとした場所でベンチに腰掛けて頭を抱えて身動ぎしながら足をジタバタさせる白髪の美少女、その名は日川ひかり。深影と家族の前以外では行動全てがお嬢様の品格を醸し出す穢れを知らぬ女の子。彼女は違う意味で穢れてしまいそうだった。


*************


結局あの後まともに話すことが出来なかった俺は一人寂しい...わけでもなく、帰路についていた。まあまだ正門すら抜けてないんだが


相も変わらずふてくされた顔で歩いていると視界にある違和感が映った。


明るい...なんで?


言わずもがな俺の視界は薄暗い。サングラスをかけてるから明るいなんてことは普通の人の目でも有り得ないはず、ということは俺の目自体が明るいと感じているということだ。


照らされているのは正門からすぐ近くにある駐車場のある車のまわりの空間。

ただなんというか、ひかりみたいなドキドキはなかった。触れても全然構わない、むしろ残り続けるような感じの光で思わず体がそっちに向かいそうになる、まあ優先順位は深紗のお迎えなんだが。


最近は俺の視界色づいてるなーと思いつつ陽乃栄付属小学校に向かった。


陽乃栄小中学校は俺の出身校だ。

それに深紗が入学してからほぼ全ての日にお迎えに行っているので先生達との面識もそこそこある。


深紗は今日から三年生になる。

幼い頃暴力ばかり見てきたからか他人に対しては優しくて思いやりのある性格になった深紗は容姿も相まって学年のアイドル的存在になっている。小学校低学年と侮るなかれ、一年前小学二年だった深紗の男子クラスメイト全員から決闘を申し込まれたことはいい思い出だ。総勢25人で果敢に立ち向かってくる姿はなかなかどうして恐怖を感じた。うわ、思い出したら行きたくなくなってきた。もちろん深紗が第一なので行かないという選択肢はないがそれでも学校に入るのは一ヵ月ぶりなので妙な緊張がある。


深紗の教室の前まで来た。どうやら終礼中のようだ。

しばらくして、ありがとうございました!と元気な声が聞こえてきた。終わったらしい。二つあるドアが両方ほぼ同時に開かれる、その瞬間深紗が飛び出してきた。


「お兄ちゃん!お迎えありがと!」


「ああ、帰るか」


可愛い妹に素っ気ない返事をしてまでこの学校を一刻も早く離れたかった。その理由は、


「深紗の兄貴が来たぞー!囲めぇー!」


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


「えーまたー?」


「だから早く帰りたかったんだよ」


「私先に正門で待ってるね!頑張って!お兄ちゃん!」


「手加減はする」


「もー、一年前のこと反省してる?」


「あれはさすがにやりすぎたと思ってるから」


「クソ兄貴ぃ!てめぇのせいで俺達は全校生徒の前でおしっこ漏らしちまったんだぞ!責任取れよ!1発殴らせろぉ!」


「いややりすぎたとはいえ原因君らじゃん」


「うるせぇ!ちょっと喧嘩強いからって!俺達だって、俺達だって深紗にいいとこ見せたいんだよ!」


その瞬間、俺の中で何かが切れた。


「深紗...こいつら泣かせてもいいか?」


「私が見ないとこでなら」


「よし、正門前で待ってなさい」


「分かった」


深紗も俺の声を聞いて本気だと気づいたのだろう、いつもなら明るい声を低くして応答してくれる。だが、


「深紗ちゃんには俺らのゆうしを見てもらうんだ!見とけよ深紗ちゃん!俺達が深紗ちゃんの兄貴よりカッコイイってこと証明してやる!」


そう言って俺と深紗を男子が取り囲む。

人数は何故か前より増えて40人ほど、だが今の俺はそんなことなどどうでもよかった。


「深紗、目を閉じてなさい」


「...分かった」


こいつらは、深紗のことを何も知っていない。ただ自己のために利害が一致しただけの連中で多対一を卑怯とも思っていないひねくれた精神のゴミみたいなクソガキの集まり。


これだけの人数だ、騒ぎにもなるのだろう。何人かの教師がこちらに向かってくる。


「なんの騒ぎですか?」


声をかけてきたのは深紗の教室から出てきた教師、俺の六年生の時の担任だった人

三村真衣みむらまい先生だった。


俺は先生の方を向くと圧をかけながら問いかける。


「お久しぶりです先生」


「っえ、ええ久しぶりね。新月くん、これはどういう状況なの?」


「先生は口出ししないでください!これは俺らの戦いなんです!」


「....先生、俺の問題です、俺が解決します。ただ、こいつらは度を超えてしまった。深紗のことで暴力と言えば俺の怒りの原因も分かるでしょう?こいつらは深紗の前で暴力を振るおうとしている、それも強制的に、己の利益のためだけにです。いくら小学生でもやっていい事と悪いことがあります。深紗のいる手前暴力は使いません。ただ、荒事になるのは許していただきたいです。あと、この件が終わったらこいつら全員に生徒指導処分を要求します」


「........分かったわ、他の先生には事情を説明しておくわね。納得してくれるかどうかは分からないけど」


「ありがとうございます」


うちの家庭の事情は先生も知っている。納得もしてくれたようだ。言外に任せると、伝えられた。つまりやってもいいという事だ。


「なにグダグダ話してんだよ!もしかしておじけづいたの「お前らはクソ野郎だ」...え?」


「自分勝手に結託して俺を倒そうとするのは別に構わない。お前らが束になったってこのまま高校生になっても俺には勝てねえがな。ただ深紗に暴力を見せて何が楽しい?カッコイイところを見せる?...ふざけんなよ小便垂れ小僧共!てめぇらがそうやって俺を倒そうとするうちは深紗は誰もてめぇらみたいなクソガキを好きになんかならねえよ!何も知らないくせに幼いからってイキリ倒して相手のことを何も考えないやつらに深紗と関わる資格なんてはなからねえんだよ!分かったら俺らから離れろ!この''ピー''共!」


言いたいことは山ほどあるが今はこれで勘弁してやろう。調子にのったとはいえ相手はまだ小三だ、ん?


「俺らはただ...カッコイイところを見せたかっただけで...悪いことは何もしてないのに...」


懲りないやつだな...だったら


「分かった、お前らが一生俺に勝てない=カッコイイところを見せれないことを証明してやるよ」


そう言い放ってリーダー格のやつに対して寸止めの回し蹴りを放つ。風圧でリーダー君の髪が揺らめく。


「う、あえ?」


目をパチクリさせて呆然とするリーダー君


「どうした?殴ってこないのか?」


深紗に聞こえないぐらいの声量で問いかける俺はあえて深紗からこいつが見えないようにした。俺が殴られるのを見せないためだ。


「あ、ああぁぁぁぁぁ!」


甲高い叫び声を上げて俺の腹にグーを入れるリーダー君、だがダメージはない。こいつの攻撃は踏み込み、パワー、拳の握り方、何もかもがなっていない。親父のあの拳に比べたら...蚊が止まった方がまだダメージがある。


「え?なんで効かないの?全力でムグッ!?」


「深紗の前で俺を殴ったなんて言ったら、今度こそコロス」


「ヒッ!?」


小便を垂らして気絶するリーダー君、所詮君はその程度だよ。少し威圧しただけでチビる、そんなザマじゃ深紗は守れない。守ると決めた人は自分が壊れようとも守る、それが俺の持論だ。それが出来ない奴に深紗はやれない。別に深紗に彼氏が出来るのは構わないが傷心の深紗の彼氏になるには俺とも話し合わないといけない。こいつらにはその勇気すらない。小学生?それがどうした。人として何かを守りたいなら全てをかなぐり捨ててでも守るのは小学生でも出来る。


「他の奴らも...やるか?」


少しの殺意を乗せながら睨みつける。するとなんということだろう、蜘蛛の巣を散らすように逃げてしまった。実に情けない。


「はあ、深紗。もういいぞ」


「うん、ごめんね。いつも私のせいで」


「いや、深紗は悪くないさ」


誰も悪くない、そう言おうとした時


「お兄ちゃん...ちょっと、立てないかも」


多分少しだけトラウマがフラッシュバックしてしまったのだろう、腰が抜けてへなへなと倒れ込んでしまっている。


「ごめんな、もっと手はあったのに。どうも感情がうまく制御出来ない」


「それだけ私を大事にしてくれてるってことでしょ?それだけで私は満足だよ」


やっぱり深紗は強い。暴力に対する異常なトラウマを持っていても、誰かに優しくしようとしたり、自分が震えていても折れない心はそう持てるものじゃない。


「おんぶするか?」


「あ、おねがーい!」


いや、甘え上手?


「よいしょっと、ん?」


「少し話せるかしら?」


深紗をおぶって帰ろうとすると、三村先生に止められた。背中の深紗と目配せをする。


「...一分だけなら」


「十分よ。その...ごめんなさい!」


そう言って突然先生は頭を下げた。は?え?どういうこと?


「今回の件は私の責任でもあるの。2年の最後の授業で好きな子が出来たらカッコイイところを見せればいいって生徒達に言っちゃって...それで影響されてこんなことをしたんだと思う。だから責めないであげて」


懇願するように再度頭を下げる先生、そんなことを言われたらこちらの立場が弱くなってしまう。


「分かりました。ただ、あいつらに伝えておいてください。深紗のいない、もしくは見えない場所でならいつでもかかってこい。って」


「ええ、分かったわ。時間取らせてごめんなさいね、それじゃあさようなら」


「さようなら。明日も来ますよ」


「せんせーさよならー!」


ニコニコと手を振る三村先生を背に家に帰る俺と深紗だった。


***********


私の名前は新月深紗、今日小学三年生になった。だと言うのにまさかあんなことになるなんて...

自分の部屋のベッドに寝転がって考える。

最近お兄ちゃんに迷惑かけてばっかりだよ。お兄ちゃんは自分のやり方が上手くできていないって言ってるけど本当は分かってるんだ。お母さんは私を産んで死んでしまった。そのせいでお父さんもおかしくなって....いや、お父さんのことは考えちゃダメだ。またお兄ちゃんに迷惑かけちゃう。

うん、分かってるんだよ。原因は私だって、

でもそれを言ったらお兄ちゃんきっとすごく怒る。怒ったお兄ちゃんは正直ちょっと怖い

それにお兄ちゃんがどれだけ私を大切にしてくれているかは嫌でも分かる。


【物事は必然で起こるものであり偶然なんてものはありえない、世にある偶然は必然が重なって起こる事象である。ただそれでも運命の存在だけは、俺は信じている】


お兄ちゃんの言葉だ。これを私も信じて運命の人探しをしている。お兄ちゃんが信じているものは私も信じるから。


お兄ちゃんが運命の人だとは思わない。だって私は生まれた時からお兄ちゃんの必然だから。


はあ、悩み事はやめにしよう。


さて!お昼ご飯何かなー!

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