第5話 展開が早すぎて俺のSAN値はレッドゲージだ
書いてたら予定にない人出てきた。
気落ちしていたらいつの間にか朝礼が終わっていた。ひかりはずっと机に顔を埋めて震えていた。こんなにも精神的にダメージを負ったのは初めてだ。
いや、まだ諦めてはいない。ひかりはきっと人見知りなんだ、そうに違いない!
だが俺のその希望?はあっさりと砕かれた。
「日川さん!」
「えあ!?な、なんでしょう?と言うか誰?」
ガバッと顔を上げてキョロキョロと教室を見回すひかり。声の主はひかりの後ろの女子生徒だった。清楚系ギャルっぽい、名前は知らないな。
「あー私です、私」
なんだその呼び方、詐欺?
「あ、えっと確か...姫野さん?でしたっけ?」
振り向いて顔を合わせて会話するひかり。
すげえひかりもうクラスメイトの名前覚えてるのか。
「え!もう名前覚えてくれたんですか!?感激です!そうです!私、姫野澪菜って言います!気軽にレイちゃんって呼んでください!日川さんのこと、ひかりんって呼んでもいいですか?」
は?俺だってひかりって呼びたいわ。姫野、お前は俺に火をつけた。見ておけ、絶対仲良くなってやる。
「え?ええいいですけど、レイちゃん?でいいのかな?またどうして急に?」
確かにどうして急に話しかけたんだ?まあひかりが魅力的なのは当たり前だが。というか馴染むの早くない?もしかして人見知りじゃないのか?だったらよりいっそう...いやこの考えはやめよう、泣きたくなる。
「あの私ですね、遠いところから引っ越してきたので友達が誰一人いなくて心細かったんですよ。だからまずは近くの席の女の子から友達になろうって思って。それにひかりんすごいかわいいし!」
姫野、分かってるじゃないか!まあ俺に話しかけてきても無視か一蹴するだけなんだけど。だって人付き合い面倒臭いし。ひかりが絡んでくるなら別だがな!
「可愛いなんて言葉お世辞でも嬉しいですよ」
「お世辞じゃないよぉ〜ほんとだもん〜!そう思うよね?えーっと...右斜め前の男子くん!」
え?俺?なんでだよ。あ、周り何故か俺以外いないじゃん。と思ったら教室の左端にグループがあった。恐らく陽乃栄か綾世良の友人同士が同じクラスになったのだろう。それがちょうど周りのヤツらだったと。
....なんでやねん。運命様は選択肢を俺にカーソルしないと気が済まないのか?てかさっき嫌われたみたいな反応されたから割と勇気いるんだけどこれ。そこんとこ理解してる?えっと...姫野だ。忘れるとこだった。でも答えなきゃ行けない流れだよなこれ。
仕方ない、ここは一つ本心をちょっとだけぶちまけてやろうではないか。
「俺?」
一応確認。間違ってたら恥かくだけだ。
「君しかいないよ〜どう?ひかりん可愛いよね?」
俺指名ですね。というかひかりがさっきから挙動不審なんだが。何その仕草、可愛いかよ。
「俺が会った女の人の中で1番可愛いと思うよ」
びくぅっ!
ひかりが硬直した。
「えーと、だからお世辞抜きで可愛いと俺は主張します」
なんか喋り方変になった。まあ一目惚れなんでね、仕方ないよね、緊張しちゃうんだよ。
「だよね!ほんとにはじめ見た時から可愛いなーって思ってたの!ってひかりん?どしたの?フラフラして、体調悪いの?保健室行く?」
見れば硬直していたひかりがフラフラしている。大丈夫かな?そう思った矢先
「...んぴぃ」
謎の声を発した途端ひかりは気絶して椅子から倒れそうになった。俺はそれを支え
「あぶな..」
「ひかりんっ!?大丈夫!?」
る前に姫野が支えた。
...別に嫉妬している訳では無い。だから姫野に心の中で呪詛を吐こうが嫉妬ではないのでなんの問題もない。
(※あります。)
「うーん、こういう時とりあえず保健室行く方がいいんだけど私場所知らないんだよなあ。君知ってる?」
「知ってるが...あと俺は君じゃない、ちゃんと新月深影という名がだな」
「ほうほう深影くん、ならみっくんだね!私のこともレイちゃん、いや恥ずかしいな。レイでいいよ!」
なんでこいつこんなフレンドリーなんだ?
「分かったよ姫野」
「レイ」
「ひめ...」
「レイ」
「ひ」
「レイ」
「....レイ」
「はいはいレイちゃんですよー!」
やりづれえ。
「あ、みっくんのせいで話逸れた。あのさ、保健室の場所知ってるならひかりんつれてってくれない?」
「なんでまた俺が」
「嫌なら別の人に頼m」
「行かないとは言ってない」
「....よっし任せた!」
**********
勢いで言ってしまった。
今俺は人生最大の試練を受けている。初恋の人を背負って保健室に行くという過去最高難度のミッションだ。
姫野...レイは先生にひかりのことを伝えに職員室に行っている。
正直に言う、誰か助けてくれ。これ以上は心臓への負担が高すぎる。さっきから背中に爆弾をおぶっているも同然の状態。柔らかい何かが脅すように俺に押し付けられる。早く行かないと幸せで天国に召されるぞこれ。
保健室はD棟の1階にあるのだがB棟からD棟までの距離は普通の学校ではありえないほど遠い。最短ルートでも10分はかかるし普段歩く場所ならもっとかかる。そう、今最大の問題はこの長距離をこの状態で行かないといけないということだ。途中チャイムが鳴ったがそんなことは気にせず歩く。幸い今は1限目で上級生達は休み明けテスト、1年生はオリエンテーションで視線はない。あれば羞恥心で死んでいただろう。
三分ほど歩いたところで俺は天才的発想を得た。邪念を払い思考を捨てて心を無にすれば何も感じなくなる。最強の感覚制御法だ。
早速実行に移る。
..........................
「んぅ....っ!?」
虚無は崩れ去った。なに今の、俺なんかした?無理無理心を無にとか馬鹿かよ出来るわけねえじゃん。はぁ、誰か助けてくれ〜!
10分ほど歩いた、もうすぐ着くだろう。
やっとこのエデンから解放される。疲れた、精神的に疲れた。もう無理だ、よく理性を保った、自分に拍手喝采。
やっとの思いで保健室に着くとすぐさまひかりをベッドに寝かせて養護教諭に事情を説明して教室に戻った。心無しか背中が寂しくなった気がする。
ただ好きな人にはやっぱり隣にいて欲しいと左の空いた席を見ながら思う深影だった。
***********
後ろのクラスメイトに声をかけられた。一瞬深影くんだと思って焦ってしまったけど気にしない。
確か私の後ろの人の名前は姫野さんだったはずです。
振り向いて会話する姿勢を作ります。
「あ、えっと確か...姫野さん?でしたっけ?」
「え!もう名前覚えてくれたんですか!?感激です!そうです!私、姫野澪菜って言います!気軽にレイちゃんって呼んでください!日川さんのこと、ひかりんって呼んでもいいですか?」
フレンドリーな人ですね。こういう人は話しやすくて好きです。
「え?ええいいですけど、レイちゃん?でいいのかな?またどうして急に?」
「あの私ですね、遠いところから引っ越してきたので友達が誰一人いなくて心細かったんですよ。だからまずは近くの席の女の子から友達になろうって思って。それにひかりんすごいかわいいし!」
可愛いという言葉はよく言われますけど自分では自信ないですよ?
「可愛いなんて言葉お世辞でも嬉しいですよ」
「お世辞じゃないよぉ〜ほんとだもん〜!そう思うよね?えーっと...右斜め前の男子くん!」
思考停止
復帰
右斜め前の男子=深影くんじゃないですか!なんでそんなピンポイントに....って周りに人がいない!?そんな...まだ心の準備が....
(告白ではないです)
「俺?」
ほら!深影くんも戸惑ってるよ!
「君しかいないよ〜どう?ひかりん可愛いよね?」
うう...姫野さん、じゃなかったレイちゃん...私の心の準備がまだ...
「俺が会った女の人の中で1番可愛いと思うよ」
思考停止(n回目
復帰(n回目
今なんて?今なんてなんてなんてなんてなんてなん
「えーと、だからお世辞抜きで可愛いと俺は主張します」
はわ、はわわ、はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!?
えへぇ!?なんて!?深影くん今なんて!?
ダメだ嬉しすぎて目眩が。幸せがキャパオーバーしたよ。頭がショートする。
「だよね!ほんとにはじめ見た時から可愛いなーって思ってたの!ってひかりん?どしたの?フラフラして、体調悪いの?保健室行く?」
もう無理です
「...んぴぃ」
私は幸せに身を委ねて意識を天国に向けた。
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体が揺らされるのが分かります。だんだんと意識が覚醒してきました。
薄目を開けて周りの様子を...ちょっと起きた感じにしてみようかな?
「んぅ....っ!?」
え!?深影くん!?顔近い!?待って状況理解したいです!
おおお落ち着いて客観的に見て見ましょう。
恐らくおぶられていますね。それでどこかに、私は気絶したはずだから保健室かな?
「俺が今まで会った女の人の中で1番可愛いですよ」
「えーと、だからお世辞抜きで可愛いと俺は主張します」
あっダメだこれ
私はまた意識を天国に向けた。