第4話 昔から好きな人が同じクラスだとドキドキするよね
私の名前は日川ひかり、ちょっと特殊な眼を持ったそれ以外は至って平凡な中三...違う今日から高校生でした。
ちょっとワクワクしながら八重洲高等学校の体育館に向かいます。入学式はそこで行われるのです。先生方のありがたい言葉を心に留める、人生の先輩からの助言だからこういうのはしっかり聞くようにしています。30分ほどして新入生の名前読み上げが始まりました。そうして自分のクラスの番が来ました、私は10組です。
そうして聞いていると『にいづきみかげ』と担任の先生が呼ぶ声がしました。驚きで目が見開いてると思います。その名前を何度反芻したか、その瞬間心臓が高鳴って顔がニヤけそうになるのを抑えます。みかげくんもこの高校、しかも同じクラスだなんて....運命感じちゃいますよ!
そう、私はにいづきみかげくんに恋をしていました。3年前のあの日からずっと心の隅にみかげくんがいた。帰りにもしかしたら会うかもしれない。会ってみたいけど.....お姉ちゃんに怒られそうだな、あはは...
お姉ちゃんは私に対して過保護なところがある気がするけど優しくて頼りになるんです。
そんな姉が車で時間ピッタリに迎えに来てくれると言うのに恋愛にうつつを抜かしてはダメだ。悔しいけど明後日の始業式まで待ちましょう。
長い読み上げの後、20分程で入学式は終了したので急いで校門まで歩く。気になる視線があったけど気のせいだよね?
「お姉ちゃんお迎えありがとね」
車の助手席に乗り込むと同時にお礼を言う。運転席に座る髪の赤い女性、これが私の姉、日川緋音だ。
「いいのいいの任せてこれぐらい。お姉ちゃんひかりのためならマリアナ海溝でも素潜りしてくるから」
「それはやめて欲しいかな」
本当にお願いしたら実行しそうで怖い。
「ねえ、さっき後ろからこの車に向かって走ってきて項垂れて引き返して行った生徒さんがいるんだけど心当たりある?」
「え?ないけど」
さっきの視線の人かな?みかげくんじゃないよね?もしかして気づいてくれた?でも私のこと忘れてたらどうしよう、いやでも顔を合わせたら思い出す可能性もあるかもって何弱気になってるの私!意志を強く持って、でも気づいてくれてたなら私無視したことになるんじゃ.....
「...り?..かり?ひかり!」
「はわっ!な、なに?お姉ちゃん」
「なに?じゃないわよそんなにボーッとして。男に一目惚れでもしたの?あ、待って想像したら泣きそうやばい」
「違うから落ち着いて」
本当は初恋の人に再会した(一方的)からなんだけど言ったらお姉ちゃん気絶しそうだから言わないでおきます。
「そういえばお姉ちゃんも八重洲校に通ってたよね?何か面白かったことってある?」
「面白かったこと?んーとね、2年の時全校集会で教頭のヅラがだんだんズレていって最後には壇上にボトッて落ちたヅラを死んだ目で見ながらありがたいお話を聞かせてくれたことかな」
「ごめんよく分からない」
それは教頭先生かわいそう。
「他には何かある?イベントみたいな」
「個人的に面白かったのは文化祭だね。八重洲って広いからさ、誰かが残していった言い伝えみたいなのもあるわけ」
「ふむふむ」
「中でも有名なのが人気のないD棟の横にある小さな中庭のとある場所で文化祭最後のイベント、打ち上げ花火を背景にキスした人は永遠に結ばれるっていうやつなの。あまりにも信憑性ないから噂だけが大きくなって実行する人は誰もいないんだけどね。まあないとは思うけどひかりが誰かとそれを実行しようもんなら私は死ねる自信があるね。
.....ひかり?おーい」
なるほど、明後日はそこに下見に行かないといけないようだ。文化祭が楽しみになってきたよ。
「お姉ちゃん!」
「うわあ!?どうしたの黙ったり叫んだり!」
「私高校生活楽しみ!」
「そ、そう...ひかりが楽しそうでなによりよ。でもひかり?運転中の人にいきなり叫ぶのはやめましょう。びっくりします」
「あ、ごめんなさい...」
「ああっ!ごめんて、本気で怒ってないから!大丈夫だからそんな暗い顔しないでお願いお姉ちゃん心が痛くなるから!」
そうだよね、命の危険もあるのにそれを背負ってる人にいきなり叫ぶのは良くないよね。反省しないと。
「お願いだから笑顔でいてひかりー!お姉ちゃんはそれを切に願います!」
泣きそうなお姉ちゃんの声が車内に響くのだった。
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今日は初登校の日だ。ワクワクやら緊張やらで表情が強ばってしまう。足取りを速めて校門を抜け、B棟にある10組の教室に向かいます。
教室に入ると目測半数ほどのクラスメイトがいるようでした。黒板に貼られた席順のプリントを見て位置を確認します。
右から4列目、前からも4列目、何か不吉ですね。そのまま自然ににいづきみかげの名前を探す、名簿順なので探しやすい。た、つ、と、と、に....この人かな?新月深影...しんげつってことはないと思うからこの人だよね。でもこの人の席...私の右隣なんですけど。運命ですか?
心の中でガッツポーズをしながら席を見るとそこにはなんと....影がありました。
3年前と同じ...いや、それよりも暗くなっている気がします。優しく包み込んでくれそうな、そんなイメージ。
鼓動が早鐘を鳴らしているのを感じながら席に着きます。
どうやら寝ているようです。無意識にまじまじと見つめてしまいました。
あれ?前会った時は眼鏡をしていたと思うんですけど、今はかけてないんでしょうか?
その寝顔はあどけなくて、幼い感じがします。思わず庇護欲をそそられる程に。
.....頭を撫でたい気分になりますよこれ。
ダメダメダメそんなの!と頭を振ってさっきまでの思考を捨てる。恥ずかしさで机に突っ伏してしまう。これ以上は深影くん成分多量で死んじゃうから寝たフリをしておこう。
深影くんが起きたタイミングで話しかければいいや。
恥ずかしさで謎プランを建てた私は深影くんがいつ起きるかドキドキしていた。
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目を覚ますと目の前に白い光が、ってえ!?
きききてんじゃんひかりきてんじゃん!
やべえ起きたくない。でも話しかけたい。でも寝てるしな.....今なら行けるか?
机から体を離して大きく伸びをする。そして横を見ると、ひかりがこちらを見ていた。
思わず見蕩れてしまう。
どれくらい見つめ合っただろうか、たまたま目があっただけだと思うのだが妙な気まずさが流れる。少ししてからひかりがハッと反応したかと思うとそのまま俯いてしまった。
え?俺?もしかして俺が怖かった?ごめん普段から死んだ目でふてくされた顔してるけど心境は空飛び跳ねるぐらいドキドキしてるから安心して。ってただの情緒不安定じゃん。
てかずっとぷるぷる震えてるのはなんでなの?そんなに怖い?泣きそうなんだけど。
でも話しかけないと始まらないよな。よし!
「あの...3年前スーパーで会いましたよね?覚えてますよ俺」
声をかけるとひかりはきょきょろした後俺に顔を向けてそのままフリーズした。え、何その反応、覚えてないとか?ショック!いや当たり前なんだけどさ。3年前ぶつかっただけの人の名前覚えてるの俺くらいだろうし。
「あのー?」
フリーズしたままなので思わず顔を覗き込む。ほんとに大丈夫?無視とかされてないよね?
その瞬間、目の前に熟れたりんごが現れた。
「あわ、あわわわわわ」
「え?ちょ、落ち着いt」
「はふぅ〜」
急にあわあわしだしたと思ったら顔真っ赤にして焦点の合わない目をこちらに向けた後机に倒れた.....
「....嫌われた?」
悲しすぎる。話しかけるのは控えた方が良さそうだ。覚えてなさそうだったし...
すっかりお通夜ムードになってしまった俺だった。
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幸せです。もう言葉で表すのは無理な程幸せです。まさか深影くんから声をかけてくるとは予想してなかった...しかも覚えてるって!にゃあああ幸せすぎるぅ〜!しかも顔すごい近かったよ!?もうやばいマジやばみなんですけど!
5分後
いけないキャラが崩壊してた。
落ち着いて深呼吸...すーはーすーはー。
「覚えてますよ、俺」
うにゃあああ〜無理だああ!
一瞬にして恋愛脳のポンコツと化したひかりだった。