表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

言伝、ポンコツ先生

あの後深紗と別れた俺たちは3人で学校に向かっていた。


「へえ、新月くんって妹ちゃんと二人暮しなんだー、私たちと同じような感じだね」


「そうなのか」


「うん、僕達は姉二人と僕の三人暮らしなんだ」


「そうなのか」


「む、ちょっとは興味持ってよー」


そう言われてもな、俺には開示する情報がこれぐらいしかないし他人の話題とかどうでもいいし。


「ていうか、妹ちゃんと別れた瞬間あなた別人になるのね」


「そうなのか」


「はあー、なんで姉さんはこんなことを...」


「ちょっと姉さん、まあいっか」


「どうしたお前ら」


正直どっちがどっちかわかんないから片方に話しかけると間違える可能性もあるわけで、そうすると俺は二人同時に会話するしかなくなるってことだ。


「いや、この際バラすけど私たちの姉さん、悠奈っていうんだけどその姉さんのお友達があなたに会いたいだとかなんとか。だから私たちを使って繋がりを作ろうとしてるわけ」


「それに覚えてないかもしれないけど僕は昔君に助けられたことがあったんだよ」


「待て、急すぎるし情報量が多すぎて何から説明してもらえばいいのかさっぱりなんだが」


なんでこいつらの姉の友人が俺と会いたいんだよ、俺なんもしてねえぞ。あと魁世弟、お前を助けた覚えがない。


「 なあ魁世弟、それっていつの話だ?」


「悠斗でいいって言ってるのに。助けられたのは2年前だよ。コンビニ前で怖いお兄さん達に囲まれてね、なんか女の子と勘違いしてたらしいんだけど。それでちょうどそのコンビニから出てきた君に助けられたの」


そんなのあったっけ?


「すまん記憶にない」


「あははー...5人居たうちのドアの前にいた2人を掌底でぶっ飛ばしてたのは印象に残ってるよ」


やばいマジで記憶にないんだが!?


「ごめんやっぱ覚えてないわ」


ていうか基本面倒事はこっちに被害がない限り傍観か通報が俺のスタイルなんだけど。


「まあ感謝はしてるってこと、気持ちぐらいは素直に受け取ってよ」


「そんなもんかね?」


「ちなみに私はなんの接点もないわ!」


ドヤ顔で胸を張る魁世姉を横目に見ながら俺は魁世弟もとい悠斗の耳元に今年最大の純粋な善意を持って囁いた。


「なあ、お前の姉さん冗談抜きで精神科に行った方がいいんじゃないか?初対面でここまで人をイラッとさせるのは一種の病気だぞ」


「実の弟を前によく言えたね...まあ否定出来ないのが痛いんだけど」


辟易した表情で俺からの反応がなかったからなのか喚く姉を眺める俺と悠斗、それに気づいたのかなにやらまた喚いてきた。


「何よ二人共そんな可哀想なものを見るような目で私を見て、あーもしかして見惚れちゃった?ねえねえ」


「いや、ありえん」「なんで見惚れる必要が?」


俺が見惚れるのはひかりだけだ。

...ひかりのことを考えるのはよそう、嫌な記憶が蘇る。


「....だいたいあんたはなんで私より女子力高いのよ、瓜二つでも性別まで真似られたら姉の立場が無くなるんだけど?」


「いっつもズボラで僕とお姉ちゃんにご飯ねだるくせしてなんで否定的になってるの、作らないよ弁当」


「本日はお日頃もよく謝罪するに快適な土の質感で土下座も躊躇いなくできる最高のコンディションですね、頭下げるんで許していただけませんでしょうか」


....何やってんだこいつら、主に姉。

てか弟に女子力負けてたら瓜二つだから実質性別交換してるようなもんだぞ。


俺が頭を空にしている間魁世姉弟はバカ騒ぎをしていた。なんだろう、こういうの見てると落ち着くわ。


「お前ら置いてくぞ」


「あっ!ちょっと待って!伝えたい事があって!」


「放課後にしろ」


めんどくさい、むしろ来世まで持ち越しとけ。


「人の話は最後までー、聞けやぁー!」


その瞬間俺の背中に魁世姉の見事なバックドロップが炸裂!する訳でもなく、普通に受け止めた。

.....具体的なことは言うまい、たとえ受け止め方がちょっと相手側にドキッとするような状態だったとしても文句は言えないような体勢だ。場合によっては怒られる。


「新月くんや、攻撃したのにお姫様抱っこされてるとはこれ如何に?」


「出された足を引っ張って抱えただけだ、他意はない」


事実だしな。


「ほらよ」


「おっとっと、ありがとう。じゃなくて!」


下ろしたら怒鳴られた。これが世にいう理不尽と言うやつか、勉強になる。


「人の話を聞けって言ってるのよ!もぉー!」


「はあー、聞いてやるから落ち着け」


「誰のせいだと!?」


話を聞いてやると言っているのになんで怒られなきゃいけないんだよ。


「新月くん、僕からもお願いするよ」


「要件だけ言え、無駄話してると遅刻する」


「初めから聞いてりゃい「無駄話」...はい」


お前ら学校着いてからも十分ぐらい歩かないといけないの知ってるだろ、はよしろや。


「今日の放課後お姉ちゃんの友達、陽子さんに会ってもらいたいの。場所は明嵐の中にあるサニバ、時間は17時」


「なぜ明嵐?そしてサニバとは?」


俺の問いに目の前の2人が固まった。こいつ嘘だろみたいな目で見てくる。え?そんな有名なのそのサニバってやつ。


「サニバっていうのはサニーバックス、喫茶店の名前よ。すごい有名なのに、ちなみに私のオススメは抹茶クリームフラペチーノ」


「最後の情報に関しては誰も聞いてない」


「僕は抹茶クリームフラペチーノが好きだよ」


「お前はなぜこのタイミングで会話に入ってきた、そして人気だな抹茶クリームフラペチーノ。あと魁世弟、助詞が も じゃなくて は のところに姉と好みを合わせたくない意思が見えるぞ。拒絶しすぎだろ」


ちなみに明嵐とは明嵐大学の略で八重洲校に隣接している大学の事だ。ただし校門から向こうの正門まで徒歩で30分かかるのだが。

あとあの学校学部が多くて八重洲の生徒の80%は進路が明嵐になる。


閑話休題


「そういえば悠斗、お前のクラスって何組?」


「9組だよ」


なんとなく発した問いに返ってきたのは絶望の声だった。何を隠そう9組、一番離れているA棟の三階、そこの最奥に位置するクラスなのだ。学校に着いてからも15分は歩かねばならない苦痛、まさに地獄である。しかもあの棟の階段異様に段差が大きいので躓きやすい、そして体力消費が激しい。まさに日常に潜む拷問。


これには深影も思わず


「そうか、強く生きろ」


と返してしまう。

そんな深影の反応が予想外だったのか悠斗はポカンとした表情をした。


「どうしたあほ面晒して」


「ひどくない?いや否定しないけどさ、ひどくない?えっとね、君からそんな言葉が出てくるとは思わなくて」


「ああ、さすがに同情せざるおえないからな。俺があのクラスだったと思うと...」


浮かんでくるのはひかりと深紗の顔、今ある状況は奇跡としか言いようがないので違う場合を考えた時の絶望も比例して大きくなる。


「確かにあそこは私も勘弁と思ったわー」


「いいよなー姉さんと新月くんは一番楽な場所で、変わって欲しいよ」


悠斗の発言に2人は声を揃えて言った。


「「お断りする(わ)」」


「ですよねー」


**********


B棟前で悠斗と別れた俺たちは教室に向かっていた。登校中騒いでいたからか予定より15分も遅れてしまった。さすがにこの時間になると他の生徒もほとんど登校している。


ドアを開けると全員の視線がこちらを向いたがそれもすぐに無くなり俺は静かに自分の席に座る。その瞬間後ろからうるさい声が聞こえた。


「おはよっ新月くん!」


「ん?えーと....あ、レイだ。よっ」


「ねえ、今私の名前忘れてたでしょ」


「思い出したんだからいいだろ」


「そういう問題じゃないのよ!」


魁世姉みたいな反応するな。組み合わせたら気が合うんじゃなかろうかと思う。


「あ、あの...おはようございます深影くん」


「ああ、おはようひかり......ヘブッ!」


朝の記憶をデリートするため頭を強めに殴った。よし、今日も平和だ。


「え、どうしたんですか!?」


「いや、なんでもないよ」


「そんなことないと思うんですが...」


うーん何かいい感じの嘘は...


「あー、ひかりが可愛くて見惚れてたから自分を戒めようと」


「はうっ!..............そ、それは仕方ないですね!はい!そ、そんなこともありますよね!」


「ええ、もう可愛すぎて吐血するところだった」


「はうぅー......そ、それは大変ですね!頭を叩くのも分かります!」


「あのー、イチャイチャなら外でやってくんない?」


急に形成された糖分過多の空気に耐えられなかったのか悠希がジト目で2人を見る。心無しかレイも同調しているように見える。


「な、何言ってんだ!イチャイチャなんてする訳ねえだろ!」


「そ、そうですよ!」


それに対しこれみよがしにため息を吐く2人


「な、なんですか」「なんだよ」


「「いや、無意識なら尚タチが悪いわ」」


なんだよと二の句を発しようとした深影だったが朝礼のチャイムが鳴ったことにより会話が中断された。


「おはよぉー諸君!今日もいい朝だね!」


元気ハツラツに教室に入ってきたのはこのクラスの担任になった間島佳織(まじまかおり)先生だ。今年で三十路になるらしく本人は自己紹介の時にまだ二十代を全力で主張してきた未婚者である。独身とも言う。初っ端から男子全員に先生が好きになったら言ってくれ、卒業したら結婚するから!と真顔で言ってきたぐらいは焦っている。男子全員が引いたのは言うまでもない。ちなみにこの時深影はひかりのことで頭がいっぱいだった。


「今日の連絡、お前ら1時限目に自己紹介してもらうから内容考えとけよー」


は?


クラスメイト全員の意思が揃った瞬間である。


「「「「「「「「はあああああああ!?」」」」」」」」


「いやー昨日連絡する予定だったんだが合コンがあって浮かれてたというか...すんませんした」


普通自己紹介というものはこれから一年間関わっていくクラスメイトに対しての大々的な印象作りイベントと言っても過言ではない。同じ趣味の人を見つけそこから仲良くなるなんて展開も少なくはないだろう。そのためにはどんな自己紹介にするか必ず一喜一憂するはずである。それをあと30分で考えろなど舐め腐っている。あと出席番号一番の人が可哀想だ。


「せめて2時限目に回してください」


真ん中の席の男子が声を上げる。するとその男子の友達かは知らないが多くの賛同者が出てきた。


「に、二限は隣の席の人との親交を深めてもらう時間になってるんだ。この学校席替えがないから一年間同じ席でな、そんな訳で最も関わるであろう隣の席の人と話をしてもらう」


「ちぇっ、席替えないのは知ってたからいいけど、あ!隣の席の人と親交を深める時間を一限にすればいいんだよ!そして自己紹介を一緒に考えてもらう的な!」


え、なんだそれどういう天国?ひかりと五十分話せるなんて夢のようだ。(一限五十分)


俺は先生の話を右から左へ流し、ただひたすらにその時を待った。

先生と結婚したいボタンはこの下です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ