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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
<ロッソア>編 第6章 紅き旗
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悪夢の研究所<デーモンラボ> 第5話

街には恵まれない子供達が居た。

どこの国だってある・・・陰の部分。


エルとカインはパンを配るのだったが・・・

一歩踏み込むと、そこは生活もままならない弱者たちの居場所。


都市にある陰。

裕福な者が居るのと対照的に、スラムとも呼ばれる街の裏の面。

そこに住まう者達は、今日一日を生きるのも精一杯だった。


住みたい訳じゃない。

出られるモノなら脱出したい。


でも、現実は厳しく辛かった。


手を指し伸ばして貰えるような、甘い世界ではない現実。


何かを為して、飛び出せるほど甘い世の中ではない・・・街の陰からは。


唯、ここでは人の命よりも、金の重さが勝っていた。






「慌てるな、順番だからな!」


固く食べるのも大変な黒パンに、子供たちは喜んで齧りついた。


「ほら、まだあるからね。みんなに行き渡るようにしないといけないのよ?」


何個も欲しがる子に、一掴みのパンを手渡したエル。

それでももっと欲しいと手を指し出す子に。


「手に持ってるじゃないか。欲張る子にはあげないからな!」


カインがエルの前で手を指し出す子に注意すると。


「だって・・・お母さんの分も・・・欲しいんだもの」


幼い子は、手を引っ込めずにエルに訴えた。


「あなた・・・あなたのお母さんは?」


眼を丸くしたエルに、その子が言った。


「体の具合が良くないって。もう何日も食べていないの」


愕然と小さな手を観るエル。

言葉を失い、幼子を見詰めるだけ。


「君のお母さんは病気なんだな?医者には観て貰えてるのか?」


言葉を失ったエルに代わり、カインがどうしてるのかと問うと。


「お母さんを病院に連れて行けたのなら良いんだけど」


その子が言うのは、お代が払えないから観て貰えないのだという意味。


「そんな・・・それじゃあいつまで経っても良くはならないぞ?」


カインまでもが驚き、幼子に言葉を荒げてしまった。


「だって・・・だって!お父さんが居ないから!どうしようもないじゃない!」


「君のお父さんは一体どうしたって云うの?」


我を取り戻したエルが訊いた。訊いてしまった。


「ワタチのお父さんはね、戦争にられちゃったんだって。

 お母さんが泣きながら言うんだよ。

 帝国に取られちゃったって、帰って来ないんだって!」


幼子の言う母の言葉。

父親はもう二度と帰らない、帰って来てはくれないのだと。


・・・戦死。


声を失う二人。

どう答えて良いのかも分からず、エルは黙ってもう一切れのパンを手渡すだけだった。


「ありがとうお姉ちゃん」


お礼を言うと、女の子は母が待つ我が家へと走り出した。


がっくりと肩を落としたエルは、先程までとは打って変わりしょげかえっている。


「こんな悲しい現実だったなんて。

 不幸な子供達がいったい何人いるんだろう?」


パンを配り終えたエルが落胆しながら、独り言を呟いている。


「どうして戦死者の家族に年金を配らないの?

 政府は兵士の家族に、どんな罪滅ぼしを行っていたの?」


もしもこのままにしておけば、戦争で孤児になった子供たちが、街にあふれてしまうのではないかと思った。


「弱者に対しての保証は、何も為されてはいないんだよ。

 国としての保証なんて、徴収するだけで何も執り行わないのさ」


カインは昔からの因習だと、知りもしなかったエルに教えるのだった。


「そ・・う?じゃあ、今からすれば良いだけじゃないの!」


眼に涙を湛えたエルが噛みついて来る。


「判ったのなら、直ぐに変えれば良いだけじゃないの!」


エルは知らなかったのだ。

ロッソア政府に、兵士への慰安金など払えるだけの余力が無いのを。


「エル、エルリッヒ姫。

 この後、フェアリアとの戦争が終わったら。

 賠償金をそれに充てれば良い筈だ、そう政府に訴えれば良い」


カインは戦争に勝つとばかり思い込んでいた。

フェアリアからの戦時賠償金を、無くなった者への年金に使えば良いのだと言った。


勝つとばかり思い込んでいるのはカインだけでは無かった。


「それをあてに出来るの?

 取り上げられちゃうだけでしょう?

 アイツ等の私腹を肥やすだけになっちゃうんじゃないの?」


エルは帝国に蔓延る闇の部分を警戒して、カインに答えるのだが。


「それだよエルリッヒ!

 姫である君が、大帝の眼を開かせるんだよ!

 ロッソアを荒廃から救えるのは、君しか居ないんだよ!」


カインはエルに対して、行動に出ようと促した。


「確たる事実を突きつけて、蔓延る奴等を一掃してやるんだ。

 そうすれば民衆は再び皇帝に跪く!

 そうしなければ、帝国は瓦解してしまうんだよ?!」


すべては後の為。

この国を救えるのは、自分の前に居る王女にしか出来ないと。


「出来るかしら・・・出来なかったら?」


「出来るさ!やらなければいけないんだよ!」


力なくうな垂れるエルを励ますカイン。

いつもの勝気な姿は、悲劇を突きつけられて沈みかえっていた。


ー いけないとは思う。身分を弁えない奴だと思われたって良い


宮殿では絶対に出来ない。

見つかったら首を撥ねられたって文句は言えない。


だが、カインは幼馴染が打ちのめされた姿を観ていられなかった。


「エル!大丈夫、僕が傍に居るから!」


手を取るだけでも恥じらう程。

掌にキスを捧げるだけで本望だったのに・・・


誰の眼も無いここでなら、今なら。


カインはエルを抱きしめた。

姫と侍従武官ではなく、幼馴染の男女として。


震える身体から怯えを取り祓う為に。


「・・・カイン?!」


びっくりした・・・


「ありがとう」


驚いたのはカインの方だった。


拒まれるかと思っていたのに、エルは抱負を受け入れてくれている。

それだけじゃない。

感謝の言葉をかけてくれたのだから。


「私・・・やれるだけのことを。

 この国の為になら、やってみるから・・・」


感謝の言葉と共に、返って来たのは決意。


「そうだよエル。君にならきっと出来るから」


そっと、重ねた身体を離して・・・瞳を見る。

皇女エルリッヒ姫の麗しい表情を。


「だから・・・お願いよカイン。

 私から離れないで、傍で見守っていてね?」


「ああ、誓うよエル。君から片時だって離れたりしない!」


二人は見つめ合う。

幼馴染を越えて、信じあえる者同士として。



 たたたたたっ


走り寄って来た影が、二人に突っ込む。


突然走り寄って来た影は、カインの不意を突いて。


 どかっ!


手にした刃物を突き入れて来た。


「うっ?!」


衝撃に声がくぐもる。


背後から襲いかかって来た者により、カインから苦悶の声が零れた。


「?!カ、カインっ?!」


エルの前で、幼馴染の男が仰け反った・・・









それは悲劇的だった。


あまりにも理不尽だと思えた。



「なんだよぉ?!そりゃぁないだろぉ?!」


栗毛の髪を掻き毟り、おもっきり落胆しているのは。


「ルビ?!アンタは男でしょう?」


「間違いない。ルビは男だ・・・」


ロゼとレオンが立ちはだかる。


「そりゃぁ俺は男だけど。

 いくらなんでも、そりゃぁないんじゃないのか?」


温泉宿に辿り着いたルビ達一行だったが。

ここでとんでもない事に気が付いた。


「宿泊するのはいいけどぉ?

 アンタは男で、アタシ達は女子。

 同部屋って訳にはいかないでしょうが?!」


「そんだそんだ!」


二人に噛まされるルビが、地団太踏んで言い募ったが。


・・・後の祭り。


「だからってなんで俺だけ支度部屋なんだよ?」


「混んでて、空いた部屋がそこしかないからでしょ?」


そうなのだ。

戦時下なのに、温泉宿はどこも満室だったのだ。


裕福な家庭が多いとは思えない。

宿に滞在するのがステータスとは思えない。


なにせ、宿賃は殆ど取られないから。

湯治の場として提供される事になった村へ、臨時に軍隊からの賜金が下げ渡されたから。

村自体が軍の慰安施設になったからで。


軍隊が来ない時は、殆ど無料で開放されていた。

一般人も挙って詰めかけていたのは、情報を得ていたからか。


「軍属っていう奴は。

 ほとんどハイエナだよな、どこの国だって」


村にはそれっぽい輩が徘徊し、商売を勝手に行う者もいるらしい。


「しかしねぇ、いくらルビが駄々を捏ねたって無理なモノは無理!」


「アタシ達の身の危険を鑑みれば、当然の処置よ」


・・・酷い言われようだ。


「それなら!布団くらいは寄越せよな!」


「・・・却下」


・・・惨い。


支度部屋には予備の布団なんて無いから。


「この寒さの中で布団も無しかよ?!」


「野宿するよりはましでしょう?」


・・・それは・・・一理ある。


「じゃあ!温泉浸かった後で、風邪をひいたらロゼ達の所為だかんな!」


「アンタが風邪なんてひく訳がないでしょう?」


・・・俺は何者なんだよ?


どう転んでも。

ロゼは認めてはくれなさそうだ。


・・・諦めた方が得策だな。


「いいよ、判りましたよ!そんじゃー、精々独り身を楽しむ事にするから!」


「・・・そう?じゃぁ、ごゆっくり」


・・・そんだけ?


二人は連れ添って自室へと向かった。


俺を独り置いて・・・だ。


「こうなりゃー温泉でのぼせ上がるまでつかりまくってやる!」


やけっぱちの俺。

温泉に入ったらさ・・・お楽しみはないのかい?


・・・・無いんだろうなぁ・・・

ルビよぉ・・・あいも変わらず損な・・・

エル達に比べてお気楽過ぎやしないか?


そして温泉・・・


つまりお風呂回・・・


フェアリアからの伝統・・・それは「お風呂回」

やっと出番がやってきました。


次回 悪夢の研究所<デーモンラボ> 第6話

のぼせたら危ないのはお風呂!のぼせたら残酷な天使のテーゼが・・・聴こえる回!

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